探索者登録
ダンジョン配信者。
読んで字のごとく、ダンジョンの探索を動画サイトにアップして収益を得る仕事である。
世界で最も有名なダンジョン配信者のチャンネル登録者数は、なんと億越え。
国内でも数百万人のチャンネル登録者数を誇る探索者が何人もいるそうな。
『ダンジョン配信で有名になれば、他の探索者やら視聴者やらから情報を集められる。探索者としてランクが上がれば、協会の非公開データも調べられるかもしれないし!』
月音いわくそういうことだ。
そんなうまくいくかぁ……? と思ったが、何でもダンジョン内で特殊な“呪い”を受けた配信者が、視聴者の情報提供によってそれを治したことがあるらしい。
熱心なダンジョン配信者ファンたちの知識は侮れないんだとか。
……問題は俺がダンジョンについてろくに知らないということなんだが、なるようになれだ。どうせ他に手はないし、ただ待っているだけよりはマシだ。
というわけで、俺は探索者協会の神保町支部へとやってきた。
「ここが探索者協会か……」
ここの地下には初心者向けダンジョンがあり、探索者の登録もできる。
ちなみに月音はついてきてくれなかった。配信の準備があるとかなんとか。
心なしかウキウキしている様子だったが……そういやダンジョン配信ファンだったな、あいつ。
「おい、見ろよあの子」
「新人探索者か?」
「めちゃくちゃ可愛いな……っていうか日本人?」
……なんか視線を感じる。変じゃないよな、今の俺の格好……?
ちなみに今の俺の服装は、月音のお古のワンピースだ。家で確認した限りは問題ないと思う。というか結構似合っていた。自分でなければ見とれていたかもしれないくらいに。
ヒュオッ――
「っ!?」
風が吹き、反射的にスカートを押さえる。パンツは月音の予備のものを借りているが、さすがに外でお披露目するわけにはいかない。
きわどいところまでスカートがまくれたせいで、さっきより注目が集まっている気がする。
めちゃくちゃ足を見られてるのがわかる。女は男の視線に敏感というのは事実だったのか……! というか何で俺が男に変な目で見られなきゃいけないんだ!
俺は視線から逃げるように建物の中に入った。
「こんにちは。本日はどのようなご用ですか?」
「探索者登録をお願いします」
「かしこまりました。それでは書類に記入をお願いします」
受付カウンターの女性職員の指示に従い、手続きを進めていく。
「はい、白川雪姫さん十二歳ですね。書類もOKです」
白川雪姫。
俺の偽名である。
性転換していることが公になれば、どんなトラブルがあるかわからない。俺は月音と相談し、リスクを承知で嘘の名前での登録をすることにしたのだ。
ダンジョンに入れるのは中学生から。夏休みということもあり、子供の登録者も増えているのか、特に気にする様子もなく女性職員は俺の書類を処理した。
その後の適性検査もクリアし、手続きはおおよそ終了。
「では、こちらの“ステータスカード”と“コンバートリング”をどうぞ」
「注意事項ですが、探索者は自分のランクより一つ上の難易度のダンジョンまでしか入れません。お気を付けください」
「ええと、俺――じゃなくて私は、登録したばかりでGランクだから……Fランクのダンジョンまでしか入れない、ってことですか?」
「そういうことです。ちなみにこの神保町ダンジョンはFランクなのでご安心くださいね」
「わかりました」
俺もいきなり身の丈に合わないダンジョンに特攻するつもりはない。
手続きを終えて受付を後にした。
「登録は終わったけど……せっかくだから、ダンジョンに行ってみるか」
探索初日にいきなり配信するのはよくないだろう。グタグダな内容になってしまうのが目に浮かぶ。一度くらいはダンジョンに潜って慣れておいたほうがいいはずだ。
そんなわけでダンジョンゲートのある地下一階へと向かうことに。
地下一階の中心には直径一メートルほどの黒い球体がある。
ダンジョンへの入口、ダンジョンゲートだ。
「次の方どうぞー」
ゲートそばの職員に身分証代わりのステータスカードを提示してから、ダンジョンゲートに触れる。
すると視界がぐにゃりと歪み――直後、洞窟の中にいた。
どうやらダンジョンの中に入ったようだ。
「これがダンジョン……」
薄暗い洞窟は灰色の岩の壁に囲まれている。
土と埃の混じったような独特な臭いが、異空間らしさを感じさせた。
体は……普通に動けるな。
受付嬢の説明によると、ダンジョンの中に入った人間は自動で生身から魔力体――ダンジョン専用の体へと変身するらしい。
服装も腕輪の中に入っていた初期装備へと変更されている。
簡単に言うと“RPGの村人”っぽい感じ。実に動きやすそうだ。
「よし、それじゃ行くか!」
ダンジョンの奥へと向かってみる。
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