メガネを踏んだだけなのに……
アオヤ
第1話
「バキッ」
今日の高校の授業も終わり俺が席を立った時、足の裏に何か踏んづけた感触がした。
「あっ! あぁ~」
後ろの席の立木理子から驚きの様な悲鳴の様な声があがった。
恐る恐る俺は足を持ち上げると足の裏から2つに割れたメガネの残骸が出てきた。
ゆっくり顔を上げて理子の顔を見ると、そのくしゃくしゃの顔から大粒の涙が溢れてきた。
「パパに頼んで造ってもらった最新鋭のお気に入りのメガネだったのに……」
「ゴメン。弁償するよ」
そう言う俺に理子は首を横に振り、諦めた様な顔で俺を見る。
「無理よ。このメガネはね…… このメガネは未来を見る事が出来るメガネなの。正樹はコレをいったいどこで手に入れるつもりなの?」
未来が見えるメガネ?
そんなモノがもう実用化されたのか?
理子から現実離れした事を言われて呆気にとられた。
「嘘だろう。未来の出来事が本当にソレで見る事が出来るのか?」
「そう、私のこれからを見る事が出来るの」
さっき迄、大粒の涙をながしていた筈なのに理子は壊れたメガネを拾い上げて俺に突きつけた。
ちょっとまてよ、未来って事は……
「まさか理子はコレでテスト問題を見て、カンニングみたいな事をしていたのか?」
さっき迄自慢げだった理子はチョット慌てた様な顔をした。
「テストでなんか使った事は無いわ。もしテストで使った事があるなら、私の成績がもう少し上の方になってる筈でしょう?」
確かに理子のテストの成績を見る限りではカンニングなんかしていない事は分かる。
何故なら俺と理子で赤点スレスレを競い合ってるからだ。
俺は理子から半分になったメガネを受取り、半信半疑で手で抑えながらかけてみた。
するとメガネのレンズからは現在と異なる映像が映し出された。
ソコには綺麗に化性して、メガネをしていない大人の美しい女性が微笑んでいた。
なんだか理子によく似ている様な気がする。
そしてその隣りには大人の男性が鼻の下をのばしてニヤニヤしていた。
その男の顔には見覚えがある。
……もしかして未来の俺か?
二人は楽しそうに、親しそうに、にこやかに会話していた。
……コレが未来の理子と俺の姿なのか?
二人は結婚しているのだろうか?
俺は壊れたメガネを外して理子の事をジッと見てしまった。
「なによ? 未来の正樹が見えたでしょう?」
理子はメガネが壊れて怒っている筈なのに、何故かニヤニヤしている様に見える。
今のはきっと幻だ。
もう一度壊れたメガネをかけてみた。
するとまたさっきと同じ映像がながれた。
何故かさっきニヤニヤしていた理子が気になってメガネをしていない目で理子を追いかけた。
すると理子はスマホを操作していた。
そのスマホの画面は俺がメガネで見ている映像そのものだ。
スマホとメガネの映像はリンクしているのか?
とすると『メガネは未来なんか映していない』ということか?
その理子の様子を観ていて俺はある事に気がついた。
『俺は理子に騙されているんじゃないのか?』
理子が『未来が見えるメガネ』と呼んでいるもので俺は理子が造った映像を見せられている。
もしかしてメガネもワザと俺に壊させたんじゃないのか?
疑いだしたら何が真実かなんて見えなくなる。
なんで理子がそんな事をするのか分からなかったが俺は暫く騙されてみる事にした。
「もしかしてコレが未来の理子と俺なのか? 理子は素敵な大人の女性に成ってるんだけど…… こんな素敵な人と俺は結婚するのか?」
理子はニヤニヤしながら俺を観た。
「へぇ〜、正樹にはそんな未来が見えたんだ? 正樹がそんな未来を望むのなら私が彼女に成ってあげてもイイわよ!」
このセリフに俺はピンときた。
絶対に理子はこのセリフが言いたかったのだ。
コレが言いたいがためにこんな芝居をしたのか?
「でもメガネは壊れているから実際はきっと違うよな……」
「そんな事ないよ。ソレが私達の未来だよ」
「なんで理子に未来の事が分かるのさ?」
「それは…… それは私が望んでいる未来だから…… 私が正樹の事を好きだから…… あっ、なんで私が言っちゃうの?」
急に理子の顔が真っ赤になった。
真っ赤になった理子って可愛い。
「こんな小細工しなくても未来はきっと決まってるはずだよ。俺も理子の事が好きだから……」
こんなセリフを言って理子の瞳を見つめていると……
「ハイハイ、クサイ芝居は終わった? 授業終わったからさっさと帰るぞ」
と周りのクラスメイト達から冷めた目で見られた。
メガネを踏んだだけなのに…… アオヤ @aoyashou
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