OOは殺しの番号
明弓ヒロ(AKARI hiro)
00(ゼロゼロ)じゃないです
一時間前に秘密結社スパークに忍び込んでいるMI7諜報員
たまたま日本にいたMI7諜報員
「こちらのお宅を10億で買いたいというお客様がいまして、突然ですが内見させて頂きたく訪問した次第です」
「10、10億ですか? こ、こんなボロ屋が?」
「角川グループの総力を挙げて運営する投稿サイトの編集長と美しい奥様が住んでいるお宅ですから。プレミアがつくのは当然です」
編集長の妻を濡れた目で
普通なら見知らぬ外国人が突然訪れてきたら警戒されるだろう。だが、ハリウッドセレブから有閑マダムまで流し目一つでモノにしてきた
「金額が金額ですのでこの件はご内密にお願いします。話がまとまらなかったときはご主人もガッカリされるかと思いますので、ある程度めどがつくまで、ご主人にもおはなしにならないでください」
「承知しました」
俺は家の中に入ると、
最初に通されたのは安っぽい家具と埃っぽい部屋のリビングだ。安月給では、ルンバもどきの安いロボット掃除機しか買えないのだろう。この部屋には高性能中性子爆弾はないようだ。
「他の部屋も拝見させていただきます」
俺は次々と部屋を見てまわる。だが、中性子爆弾の反応が出ない。
残り時間は一分を切ったが、百戦錬磨の俺は焦ったりはしない。
「こちらも拝見させていただきます」
「そこは、主人の仕事部屋で企業秘密の書類なども……」
俺は編集長の妻の目を覗き込み、
「ど、どうぞ、好きなだけご覧になって下さい!」
人間の女性どころか、メスでさえあれば動物でも一瞬で恋に落とせるのが、
「痛っ」
ドアノブを回そうとしたところ、指のささくれがひっかかり思わず声を出してしまった。拷問されても泣きごとを言わない俺だが、ささくれや足の小指が家具の角にぶつかるのは耐えられない。残念ながら、どんな人間にも弱点はあるものだ。
出版社の編集長の机と言えば、乱雑な書類が机の上に散らばる風景が定番だが、机の上にはラップトップが一台と、トリのぬいぐるみがあるだけだった。だが、そのトリのぬいぐるみの顔が放射能を検知する眼鏡の視野に入った瞬間、真っ赤に色づいた。
残り時間は10秒。強硬手段を取るしかない。
俺は催眠スプレーを編集長の妻に浴びせる。女は一瞬で眠りに落ち、俺は素早く抱きしめそっと床に置いた。スパイたるもの常に紳士でなければならない。
残り時間は5秒。
◇◇◇◇◇◇
「
秘書が、小さな箱を絵夢のオフィスに持ってきた。
「下がってよい」
命がけのミッションを成し遂げた
――ここに例のアレが入っているのか。
今回のミッション、全ては
任務の傍ら、こっそりとカクヨムに作品を投稿し続けてるが泣かず飛ばす。本業で得た知識を元に、リアリティ満載のスパイ小説を自信満々で書き上げたが、なぜかド素人の書いた、何が面白いのかさっぱりわからない、意味不明のなんちゃってファンタジーの後塵を拝していた。
カクヨムの主催するコンテストにも何度も挑戦しているが、皆勤賞の300リワードが貰えるだけ。にもかかわらず、一カ月前にアカウントを作ったニワカの書いた「冷戦が終わって失業したスパイが異世界にいっちゃいました」がカクヨム大賞を受賞し、自慢げに近況ノートにトリのぬいぐるみの写真をアップしたのをみて、とうとう超えてはならない一線を越えてしまったのだ。
――自作の方が100倍面白いのだから、これは当然の権利だ。
「ギャアアアアアアアアアアア」
◇◇◇◇◇◇
『箱が小さかったので、トリあえず、上半分だけ切って閉じ込めます。
―了―
OOは殺しの番号 明弓ヒロ(AKARI hiro) @hiro1969
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