めがね 【KAC20248】

姑兎 -koto-

第1話 めがね

僕は、シーンに応じて眼鏡を変える。

服装を整え、眼鏡を装着すれば変身完了。

スーパーマンの逆バージョン。

眼鏡さえあれば、スマートな遊び人でもエリートサラリーマンでも何にでもなれる。

別に、世間を騙しているつもりはない。

人は、誰しも自分を演じているものだから。

僕も、演じるための小道具として使っているだけ。


何故なら、僕は、何としても、今年中に結婚せねばならないからだ。

この際、自分の好みより、まず、相手の好みに寄せる方が大事。

見かけよりも中身って言われるけれど、婚活に於いて、第一印象は絶対。

これは、実際、婚活パーティ全滅で僕が得た唯一の成果である。


*****


この星の居住許可は、五年間が上限だが、この星の人と結婚すれば、永住権が得られる。


異星人として色眼鏡で見られながら頑張って仕事して、やっと得た地位を、モテないという理由だけで失う訳にはいかんのだ。

というか、そもそも、僕は、恋愛に興味が無い。

正直、誰でもいい。

……にもかかわらず、地味な容姿のせいか、婚活パーティーでパートナーを見つけることが出来ず……。

眼鏡作戦は、そんな僕を見かねた友人が授けてくれたアイデアだった。

彼は、この星で唯一、異星人である僕を色眼鏡で見ることなく面倒をみてくれていた。


その友人も眼鏡をかけている。

彼の眼鏡もまた、自分を演じるアイテムなのだろうか。

実は、死活問題である婚活よりも、彼の眼鏡の理由の方が気になっているのだが。


*****


居住期限切れまで1か月を切った頃、その友人宅に誘われた。

その日、彼は、眼鏡を外していた。

僕も眼鏡を外し、お互いに素のままで語り合う。


楽しい時間を過ごした後、黙り込む彼。

そして、意を決したように「僕じゃダメかな?」っと。


何故かときめく胸に、僕は僕を知った。

そうか、僕は、恋愛に興味が無かったのではなく、女性に興味が無かったんだ。


その後、僕は、彼とゴールイン。

めでたく、この星の永住権を得た。


ー完ー

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