あなたをよく見るために
雨蛙/あまかわず
あなたをよく見るために
「なあ
「はあ⁉それくらい自分で渡せよ」
「いいだろ。お前立川さんと幼馴染みだろ?それじゃ、頼んだよ~」
「おい、ちょっと待て!」
俺の幼馴染み、立川
幼馴染みと言っても中学では別のクラスでほとんど話すこともなく、たまたま同じ高校で同じクラスになった。
それでも3年間のブランクがあったせいでどう接していいのかわからずずっと話さないままでいた。
そんな時にこんなことを頼まれるとは。もう放課後だがあいつはどこにいるだろうか。
ぶらぶらと学校中を歩き回る。図書室のドアを開けると綾らしい後ろ姿の人が机で本を読んでいる。ほかに人はいないようだ。
「綾?」
俺の声に気づいた綾は一瞬こっちを振り返ると、慌てて手元でごそごそしだした。
疑問に思いながらも綾に近づいていく。
「悠太じゃん。どうしたの?」
「お前にこのプリントを渡してほしいって頼まれたから持ってきたんだよ」
俺は綾に頼まれたプリントを渡す。
「そうなんだ!ありがとね」
「それにしても、こうやって話すの久しぶりだな。元気にしてたか?」
「元気にしてたよ。中学でも会ってたからわかるでしょ」
「それはそうなんだけど。ていうか、眼鏡なんかしてたんだな。目悪いのか?」
「裸眼でも見えなくはないけど、よく見たい時にかけてるよ」
「そっか、勉強の邪魔して悪かったな。俺はもう帰るよ」
「わかった。また明日」
軽く手を振って図書室から出ていく。軽くではあったけど、また話せてよかった。
別の日、部活にも委員会にも入っていない俺は放課後を持て余している。教室にも誰もいなくなったし、かえってゲームでもするか。
帰る準備をして靴箱に向かう。
「悠太じゃん。やっほー」
靴を履いているとき、ちょうどやってきた綾に声をかけられた。
「今帰るとこ?」
「そうだけど」
「奇遇だね、私もちょうど帰るところだよ。よかったら一緒に帰らない?」
「ああ、いいけど」
俺は綾と一緒に校門を出た。いつも1人の帰り道に誰かがいるのは新鮮で少し緊張する。
「高校生活は楽しんでるか?」
「もちろん!みんないい人たちだし、授業もついていけてるし」
「すごいな。俺は話聞くだけで眠くなるっていうのに」
「いつも授業中寝てるよね。悠太はもっと勉強頑張らないと」
「なんでばれてんだよ。赤点さえとらなければいいわけだし大丈夫だろ」
「そんなこと言って、痛い目見ても知らないからね」
「そんなお母さんみたいなこと言うなって。ところで、なんで今も眼鏡をかけてるんだ?」
一瞬綾が固まってしまった。なんか悪いこと聞いたか?
「それは、悠太の顔をよく見るためだよ」
なにを言ってるのかよくわからなかった。俺の顔を見るため?
「ああ!話すときは相手の目を見て話せって言うもんな」
今度は綾の目が点になってしまった。また変なこと言ったか?
「ど、どうした?」
「もういい!私の家こっちだから、じゃあね!」
パンパンに膨れて涙目になりながら行ってしまった。何が悪かったんだ?
まあいい。明日学校で謝っておこう。
あなたをよく見るために 雨蛙/あまかわず @amakawazu1182
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