第39話 語り継がれる ※宰相候補だった男視点

 任された仕事を真面目にやり続ける。今の自分には、これしかない。そう思って、毎日を生きていた。


「トゥーサン殿、少し聞きたいことがあります。ご同行願えますか?」

「ああ、わかった」


 その日も、いつものように王城で俺は仕事をしていた。そこに兵士がやってきて、一緒に来てほしいとお願いされる。その言葉に、素直にうなずいた。抵抗せず、兵士の後をついていく。


 連れていかれた先で、事情聴取された。


 今回の騒動について。友人たちのこと。アルメルとの関係についても色々と聞かれた。兵士に聞かれたことをすべて包み隠さずに答えていく。


 助かりたいから、という気持ちはない。むしろ、俺は死を覚悟していた。これを話せば、俺の罪がより明確になるかもしれない。だけど、構わないと思った。


 他の誰かに知っておいてほしかったんだと思う。何があったのか、真実を。


 全てを話し終えると、兵士は「ご協力ありがとうございました」と言って、あっさり解放してくれた。どうやら、俺は無罪放免になったらしい。


 再び、任された仕事に戻る。まだ仕事が残っている。これを終わらせないと。俺はまだ、生きているらしいから。


 それから、しばらく時間が経った。




 ラドグリア王国は滅亡して、帝国に飲み込まれた。俺たちの故郷は帝国の領土となり、帝国の一部となった。その様子を、俺は自分の仕事に専念しながら見ていた。そうなるのも仕方ないと、受け入れた。


 王を支える宰相になることが夢だった。だが、その夢は叶えられない。失敗したから。他の誰かの責任ではなく、自分の愚かな行動のせいで。


 それでも、まだ俺は生きている。貴族ではなくなったが、静かに暮らすのに苦労しない程度の財産は残してもらえた。帝国は、意外と優しい国だったようだ。


 新しい職場も用意してもらえたようだが、断った。俺のような存在は、きっと邪魔になるだろうから。生かし続けてもらえるだけありがたいと思う。


 仕事もなくなったが、時間はある。


 ならば、出来ることをやるしかない。生き残っているから、俺は動き続ける。迷惑にならないように、ひっそりと。




 あの出来事を記録に残すことにした。王国が崩壊した原因について。それを引き起こした人物たちについて。そして、自分たちが犯した罪についても。何があったのか嘘偽りなく。




 こうして、彼の残した記録は後世に語り継がれていった。


 あの時、滅亡した王国に何が起こっていたのか。


 そして、ルドルフ王子とアルメルの名は忌まわしいものとして歴史に刻まれ、長く語り継がれていくことになる。

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