第20話 自由な立場 ※帝国貴族ジャスター視点

 俺は若い頃に、いくつか事業を立ち上げた。そのうちの1つが大成功して、早めに地位を確立できたことは幸運だった。


 その後、余裕を持って資産を増やすことにも成功。家の利益も倍増させて、繁栄の礎を築いた。その結果、貴族の子息でありながら、それなりに自由な立場を得ていた。


 だが、跡継ぎの問題がある。貴族家は豊かさを得るだけでなく、それを長く続けて受け継がせることが大切だった。当主は、後を任せられる誰かを選ぶ必要がある。それがまだ、決まっていない。


 俺が全力で結婚を避けているから。


 なんとなく、結婚するのが嫌だった。勝手なわがままだけど、誰かに決められた相手と結婚するのは嫌。ちゃんと納得して、一緒に居たいと思えるような相手と出会える時まで待ちたい。


 貴族の息子としては、そんな考えがダメなのは理解している。家の発展のために、政略結婚するのが普通。


 やっぱり、自分勝手なわがままでしかない。


 しかし、これまでの功績で俺は自由を許されていた。やりたくないことは拒否する事が出来る。それで、結婚も拒否。


 なので、爵位も継承することが出来ない。当主である父上は、とても困っているようだ。さっさと継承して、隠遁生活を楽しみたいようだけど。


 俺以外にも優秀な兄弟が何人か居るので、そっちに任せればいいのに。俺は、自分の事業に集中していたい。なので、貴族の家は継ぎたくない。そう主張しているが、現当主の判断は、どうしても俺に継がせたいらしい。


 でも、強くは言ってこない。強制されることも。しつこく言わないだけできっと、早く相手を決めろと思っているはず。


 会うたびに、婚約相手の候補を何人も挙げてくる。色々な貴族家から、次々と婚約の申し込みが送られてくる。その中から、気に入った相手を見つけ出せと、せっつかれていた。


「ジャスター様、そろそろ婚約相手の件について決断していただかないとマズいのでは?」

「そうだよなぁ」


 とうとう、執事長からも催促されるように。普段は仕事のことしか言ってこない彼が口出しするほど、今の状況が心配なのだろう。


 俺も貴族の息子としての役目を果たさないとダメかな。これまで自由にさせてもらったので、もう観念すべきかもしれない。このまま俺が爵位継承を拒否し続けたら、一族のみんなを困らせてしまうだけか。


 そんな風に、徐々に考え方が変わっていた。申し込みが来ている中から選んで、もう結婚してしまおうか。いや、でも。もう少しだけ、今の自由な立場を楽しみたい。気に入った相手と出会う、その時まで。もう少し、だけ。


 この時、俺は諦めて適当な相手を選ばなくてよかったと思う。本当に、あと少しだけだった。そのほんの少しの間に、望んでいた相手と出会うことが出来たのだから。

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