第14話 雑務 ※宰相候補の男視点
なぜ俺が、こんな仕事をしなければいけないのか。
「各部屋の掃除が終わりました」
「そうか。なら次は、庭園の整備に回ってくれ」
報告しに来た使用人に、次の作業に取り掛かるよう指示を出す。すると、すぐ別の使用人が報告にやってきた。
「――様が、陛下に謁見を賜りたいとお越しになられていますが」
「なに? そんな話は、聞いていないが」
急な貴族の訪問に、俺は眉をひそめる。また勝手に言って、陛下に会おうとしているのか。この面倒な時期に。しかし、念のために確認しないといけない。予定を確認してみると、やっぱり何の約束もしていなかった。王城を訪れた貴族を追い返す。
「私は、――家の当主だぞ! 陛下に会わせてくれないとは、どういうことだッ!」
「約束のない者は、お帰りください」
「くっ、覚えておけっ!」
面倒な貴族は俺を睨みつけると、肩を怒らせながら帰っていった。
そんな事をしている間に、夕食の時間が迫ってきている。もう、こんな時間になっていたのか。あっという間だ。しかし、気が抜けない。
料理を用意する宮廷料理人に、そろそろ準備を始めるよう指示を出す。このタイミングで調理を開始すれば、丁度よい時間に提供できるだろう。
「本日は、羊肉のステーキとスープ、サラダを用意いたしました。これで、よろしいでしょうか?」
「あぁ、それでいい」
「給仕係と毒見役は、いかがいたしましょうか?」
「いつも通りで、いいだろう」
「わかりました」
俺の答えに、使用人たちが頷いた。そしてようやく動き出す。提供する料理の最終確認と次の指示まで、俺がやらなければいけないのか。もう少し、自分たちで判断してほしいのだが。
作業の内容は、このように様々。俺が求めていたのは、こんな仕事じゃない。王を支えて、共に国を繁栄に導く。そんな、栄誉ある宰相の仕事だったはずなのに。
本来であれば俺がやるような仕事じゃない。しかし、俺が処理しないといけない。他に任せられる人間がいないからと押し付けられてしまった。
こうなってしまった原因は、俺の婚約相手だったリゼットの実家。デュノア家のせいだろう。
王城や宮殿で働いている使用人は、様々な貴族家から派遣されてきた人員だった。デュノア家も、派遣してきていた貴族家の一つだ。それが今回、リゼットとの婚約を破棄した事で派遣していた使用人たちを全員引き上げてしまったのだ。
婚約破棄により、デュノア家と俺の実家との繋がりが切れてしまった。王家との関係も遠のいてしまったので、そんな王家との関係が薄い貴族家が王城や宮殿に使用人を派遣しているのはよろしくない、という理由で。もっと他に、ふさわしい貴族家があるはずだと。今後は、そちらに任せてくださいと。
そんなのは、表向きの理由だろう。実際の目的は、婚約を破棄した報復だと思う。親友たちも、婚約を破棄したことで色々と嫌がらせされている、という話を聞いた。酷いものだ。
デュノア家から派遣されていた使用人の数は、想像していた以上に多かった。王城と宮殿からは、半分ぐらいの使用人が一気に居なくなってしまったのだ。
そんなに減ってしまうと、当然仕事が回らなくなる。急いで人員を補充しようとしてみたが、王城や王宮で働けるような優秀で忠誠心のある使用人は、そう簡単に集めることは出来ない。
以前のような状況に戻すためには、もう少し時間が必要だ。
そのせいで、俺に王城と宮殿に関する雑務が回ってきたというワケだった。
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