第2話 霜川君は学園へと向かいます。
霜川君は研究所から表に出た。研究所とはいうものの、普通の民家である。4LDKで小さい庭と車庫が付いている築45年の地味な佇まいだ。その家に表札は無く、大柄な郵便受けに油性マジックで「トリニティ宇宙エネルギー研究所」と書き込んであるだけだ。
霜川君はミノフスキークラフトで浮遊走行する。基本的に無音走行が可能なのだが、無音での移動には危険が伴うため、頭のてっぺんにオレンジ色のパトランプが回転し、ホワンホワンと控えめなサイレンを鳴らす仕様となっている。おかげで歩きスマホでぶつかって来る人はいない。
霜川君は竜王学園へと向かっていた。学園の正門をくぐった霜川君は途端に初等部の子供に囲まれてしまった。
「霜川ロボが来た!」
「ねえねえ、肩車して」
「鼻水ついちゃった」
「飴ちゃん食べる」
小学生に大人気な霜川君だった。
「みんなごめん。僕には重要な任務があるんだ」
「任務って何?」
「霜川君、遊んで」
「ドッジボールしよ」
「サッカーの方がいいよ。霜川君はゴールキーパーで」
「ごめん。任務があるんだ。仕事なんだよ」
霜川君がオレンジ色のモノアイを点滅させて必死に訴える。しかし、子供たちは霜川君から離れようとしなかった。
その時、授業開始の予鈴が鳴り響く。
「みんな。授業が始まるよ。教室に戻らなきゃ」
そう声をかけて来たのは高等部の女子生徒だった。紺色のセーラー服にえんじ色のリボン、そしてポニーテールにしている髪型がめちゃ似合ってる……と霜川君は感じた。彼女の登場で子供たちは渋々と教室へ戻っていく。
「ようこそ竜王学園へ。私が生徒会長の
「生活支援ロボの
「こちらこそよろしく。早速現場へ行こうか」
「了解しました」
「こっちだ」
颯爽と歩み始める彩花。しかし、霜川君は彩花の脚に見とれていた。短くしたスカートから覗くすらりとした脚線美に霜川君の視線は釘付けになった。そして、唐突に霜川君の対人スキャナーが起動した。
『スキャン開始……柊彩花……身長165cm……体重52kg……スリーサイズは上から……82……58……85……ブラのサイズ……C65……』
音声を発して数値を読み上げている霜川君であった。彩花は足を止めて振り向き、その鋭い視線を霜川君に向けた。
「余計なことは言わなくて良い。次にやれば貴様の一つ目をくり抜くぞ」
「申し訳ありません。この機能は綺麗な女性を視野に捉えた場合無条件で発動します。苦情はドクタートリニティまでお願いします」
「あの
彩花は尚も眉間に皺を寄せながらも踵を返して歩き始めた。霜川君は、こんなセクハラ機能を搭載したドクタートリニティに対して抗議の念が沸き上がって来るのを押さえられなかった。
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