色恋話の1つも無いと来た

高久高久

灰色の青春、だったのか……?

「お、黒部まだ帰ってなかったん?」


 卒業式、最後の授業とやらが終わり、散り散りに生徒達が帰る中、1人教室で黄昏ていた俺に、同じクラスの女子の白井が話しかけてきた。


「んー、ちょっとなー」

「用事無いなら一緒に帰らん?」

「おけ、帰るべ」


 一緒に帰る相手も、残る理由も無い俺はそのまま立ち上がる。卒業式だから荷物も対してない。が、よく見ると白井は何やら荷物が多い。


「あ、これ? 部活の後輩から卒業祝いって貰ったやつよ」

「ほーん、そんな貰える後輩がいたんか」

「黒部はそういうのないん?」

「我が帰宅部の後輩は皆冷たいんよ」

「そういや部活入ってなかったっけね、アンタ」


 呆れたように言う白井に「そうとも言う」と言って重そうな荷物を持ってやる。


「サンキュ。所で、何でアンタ教室で黄昏てたん?」

「……裏切られたんだよ」

「裏切られた? 誰に?」

「みんなにだよ。どいつもこいつも、彼女とこれから帰るんだとさ」


 そう言うと、白井が「あー……」と何かを察した様に声を出した。


「みんな最後だからって、凄かったねぇ、告白ラッシュが」

「当たって砕けろ精神で突撃していったからなぁ……んでまさか全員彼女が出来るとは思わなんだ……」


 あれは凄かった。「最後だから」とある奴が告白したことを皮切りに、何処も彼処も「実は……」の嵐。

 俺の友人もその流れに乗って、前々から好きだった人に告白しにいったり、逆に告られたりと、気付けば元々居た奴も含め全員彼女持ちだ――俺以外。


「畜生……なんで誰も俺に告る奴はいないんだ……」

「逆に告りにはいかなかったん?」

「いや、そういう奴が浮かばなかった」

「ふーん」

「聞いといて何その興味無さげな感じ……そういうお前はどうなんよ?」

「ふっふっふ、聞いて驚け。誰も来ていない」

「マジかよ同類じゃん」


 そう言ってから、2人で大きなため息を吐いた。


「……結局、恋愛とか全然無かったなぁ」

「俺達、色恋めいた話って全然無かったよなぁ、3年間」

「『俺達』って……黒部と一緒にしないでもらえますー?」

「3年間で何かあった?」

「一切ないね。告白もしないしされないし」

「だよなぁ」


 白井とは高校に入ってからの付き合いだが、ウマが合ったというかつるむ事が多かった。その間、彼氏が出来たとかそういう話は一切聞いてなかったが、その通りだったか。


「お前モテそうなんだけどなぁ」

「ぜーんぜんよ。結局3年間で遊んだ男ってアンタくらいなもんだし。そういうアンタも告白とか、無かったの?」

「全くでございます。3年間で遊んだのはお前くらいです」


 友人は彼女が出来たり別れたり、って話があったが俺の方はサッパリだ。


「なんかこう、それが全てじゃないってのは分かるけどさぁ」

「言いたい事は解る」

「あ、じゃあ一緒に言ってみる? せーの」


「「……色恋沙汰ってのをしてみたかった」」


「……やはり同じ事を思っていたみたいだねぇ、同類」

「どうやらそのようだな、同類」

「……灰色の3年間、っていうにはちょっと違うんだけどねぇ」

「んー、なんやかんや楽しかったのは確かなんだよな」

「うん、楽しかったのは楽しかった。考えてみたらアンタとは色んな所言ったよねぇ」

「あー言った言った。泊りがけとかもしたっけな」

「まー、長い付き合いだったよ。アンタとは、楽しかった」

「何最後みたいな感じ出してんだよ」

「一応高校は最後だからねぇ。じゃあ、続きは大学で」

「大学まで同じだとはなぁ……」

「大学ではもっとこう、色っぽい話が出来ると良いねぇ、お互い」

「そうだなぁ、出来ると良いなぁ、お互い」

「……あぁもう! しめっぽい話はやめ! 今日この後何か用は!?」

「友人連中みんな彼女もちになったので皆無であります」

「よろしい! じゃあ私たちは私たちで遊びに行こう!」

「そうすっかねぇ」


 ――何となく、大学も色気のない生活になりそうな気がしていた。


※※※※※※


「――あ、黒部と白井じゃん」

「あー、あの2人仲良いよねー」

「仲良いよなー……あれで付き合ってないって信じられないよな」

「だよねぇ……周りのみんな、付き合ってるとばかり思ってたよねぇ」

「白井なんか割と人気あったけど、告っても絶対無理って思われてたんだよな」

「黒部君も同じだよ。何人か告白前に諦めたって子、知ってるよ?」

「……本当、なんで付き合ってないんだアイツら?」

「距離感バグりすぎてんじゃない? 今だって白井さん腕組んでるし」

「実は付き合った、とかいう話は?」

「無いと思うなー。そう言う色恋の話、聞いた事ないもん」

「そういや大学同じだって言ってたよな」

「言ってたね」

「……そこでくっつけばいいんだけどなぁ」

「見ててもどかしいのよねぇ……くっつけばあっという間っぽいけど」

「何か無理そうな気がしないでもないんだが……」

「わからないわよ? 気が付いたら結婚してるかもしれないし」

「ちょっとあり得るのが怖いわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色恋話の1つも無いと来た 高久高久 @takaku13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ