放課後サンドバッグ
8mg(ハチミリグラム)
第1話 能勢紗華(のせすずか)
「私、ダイエットしてみたいんだよね〜」
昼休み時間、席に戻ろうとした俺にそんな会話が耳に入ってきた。
会話の主はクラスの女子。
…着席していてもわかるような少し大柄な彼女…能勢紗華(のせすずか)
どうやら彼女はダイエットをしたいらしい…って、いやいやそんなことする必要ないじゃないか!?高身長でこれ以上痩せたらガリガリに見えると思う。今がちょうどいいムッチリ具合で最高なのに・・・とツッコミたいところだったが、流石にそれは女子に対して失礼な言動であることはわかっていた・・・わかっていたんだが・・・
「ふっ、、、」
”お前がダイエットだって(笑)”みたいな表情を見せつけながら横切ろうとした・・・すると彼女は俺の腕をガシッと捕まえにくると
「おい今!私のことバカにしたか!?」
クッソ(恐)ブチギレてますやんこの人!!
その後、俺は隣の席に座らされ説教されることになる。
「いやいや、ダイエットする必要ないって!」
俺は必死に弁解していた。
能勢紗華…見た目、顔は芋っぽくて素朴な感じはするものの、高身長でスタイルが良く、しかも”爆乳”で短いスカートから見えるそのムッチリ太ももは男子達の脳を狂わせていた。実際、明るい性格も相まって彼女のファンはかなり多い。
まぁ、俺も階段を登る彼女を見上げながら、何度も脳破壊され、その日の夜は悶々とした気分で床に就く。彼女をオカズに何度も抜・・・いやっ、まだ3、40回くらいしかしてない。
「私運動音痴だし、体育の授業以外で運動はあまりしてないから、何か体を動かすことやらなきゃな〜ってずっと思ってたんだ。蒼馬くん何かいい方法ない?」
そう彼女が尋ねてくる。
俺の名前は平見蒼馬(ひらみあおば)…帰宅部の高校二年生だが、中学時代は陸上部に所属していたこともあって、こういった質問の答えには自信がある。
「とにかく走る!もしくはウォーキング!食事制限するよりは全然いい!!」
もちろん、俺がオススメできるのは”走ること”の一択だ。
自分の経験則ではそれしか引き出しがない。
「流石、元陸上部だね〜」
と隣で言うのは、能勢紗華の話し相手をしていた同じクラスの女子…大倉美優(おおくらみゆ)”陰の者”的なオーラを纏っているものの、話の波長が合うというか、気を使うこともなく話しやすい異性のクラスメイト。人の前に出るというタイプではないが、彼女の隠れファンも少なくはない。
「とにかく苦しい、やめたいという気持ちになるけど、それでも走り続けていると、あれっ?苦しくない。全て解放されたような気分になるんだ。一定のラインを越えるような…それをランナーズハイって言うんだけど・・・」
と長距離走について、この女子二人に俺は松◯修造さんのように熱く語る。”何熱く語ってんだコイツ”と思われてんだろうなぁ〜と思う…それでも二人はちゃんと俺の話を聞いてくれた。性根は素直で真面目なんだよこの二人は!
「すごいね。蒼馬くんは中学の三年間陸上部だったんだ?」
「いやっ、三年間ずっとではなくてね・・・一年生の一学期はボクシングジムに通ってたんだ。」
「えっ!ボクシングやってたんだ!?」
「いや2、3週間だけ、すぐに辞めたから・・・ほとんどやってないと同じ!」
「なんで辞めちゃったの?」
「ボクシングの練習のひとつで、ロードワークって長距離を走り込みするんだけど・・・走ってたらこっちの方が自分には向いてんじゃね?・・・と思ってそのまま陸上部に入部したって訳です。はい。」
「そうなんだ〜すごいね〜ボクシングやってたんだ〜」
「えっ?食い付くのそっち!?陸上部の方熱く語ってたんだけど・・・」
「だってボクササイズってあるよね!ダイエットとイメージを結びつけやすいし!」
「さいですか・・・まぁね・・・ボクシングって言っても・・・ほとんどやってないからね・・・用具だけ買い揃えて結局損にしてるし・・・」
そう言いながらも俺はふと思い直した。
能勢紗華…彼女は高身長でガタイもいい…運動音痴だってさっき言ってたけど、パッと見、彼女の印象はフィジカルモンスター!つまりパワータイプだ!
そんな彼女がボクシングをやり始めたら、クラスの男子達ですら歯が立たない程の怪物に変貌してしまうのではないかという未来が見えてきてしまった。
なんか・・・彼女がボクシングする姿を物凄く見たくなった。
俺はそのことを彼女に熱く語った。
「・・・つまり、能勢は今のフィジカルお化けから本物のバケモンにランクアップ出来ると思うんだよ!ボクシングやってみるのも有りだよなぁー!」
「・・・あのさぁ・・・蒼馬くん・・・私・・・女の子だよ・・・」
そう言いながら彼女は俺の腕を掴む…逃げられない。
「イタタタタタタタっっっ!!!!痛い!!痛い!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!許して、すみませんでした!!助けてくれ、大倉!!」
「平見くん・・・御愁傷様〜!」
そんな一悶着があって、その日の放課後・・・研究棟の裏庭に俺たちは集合した。
俺は彼女…能勢紗華のダイエット計画の練習パートナーに就任した(就任させられた)
練 習 種 目 は ボ ク サ サ イ ズ !
その練習に付き合うことになったが・・・彼女の友達…大倉美優も観戦役として同行している。
「グローブ借りてきた〜」
と彼女はボクシング部からグローブを調達してきたようだ。
彼女のような曇りなき眼で『貸して〜!』と言われたら、おっぱいと太ももをガン見しながら『どうぞ〜』と貸してしまう男子部員の姿を容易に想像できる。
制服姿にボクシンググローブ・・・それは圧巻だった
なんか・・・すごくセンシティブ!!
爆裂ボディに加えて・・・短すぎるスカートが男達の脳を破壊する
おそらく、彼女と対峙する男子は絶対にこう思うだろう・・・
『あぁ・・・ボ・コ・ボ・コにされたいです・・・』
普通の男子ならそう思うかもしれない・・・しかし、俺は違う!!
そんなことは考えない。
何故なら、彼女の後方で座って観戦している大倉美優が、こっちをジト〜と見ているからだ。
「違う違う!!違うんだ大倉!!そんな俺が下心なんか持ってるはずないだろ!!」
彼女は察しがいいので、どうやら俺の心内は見透かされているようだ。
「私、何も言ってないんだけど・・・」
「だから、俺は上手く練習できたらいいなと思ってるだけで、下心なんか微塵も」
「正直、何パーセントくらい下心があるの・・・?」
「・・・えっと・・・85パーセントくらい・・・」
「紗華〜!!平見くんがイヤらしい目で見てくるから気を付けて!!」
「ちょっ、大倉!!」
15パーセント正常な心が残ってることを評価してほしかった。
そしてボクササイズの練習が始まった・・・能勢は運動音痴と言っていたが、鈍臭いという片鱗はあるものの、そこまで運動音痴という訳ではなく、彼女はパワーもあってシャドーボクシングも様になっていた。
「いい感じ!フォームを崩さないように意識することも忠実に出来てるし完璧!」
「はぁはぁ・・・ありがとう!!」
ほんのりと汗をかく彼女はすごく楽しそうな表情を見せる。
「まぁでもここで出来ることはシャドーボクシングくらいかな・・・ミットもサンドバックもないし・・・」
「ううんっ!サンドバッグならあるよ!」
「えっ、どこに?」
「ホラッ、そこに・・・」
そう言って彼女は俺に向かって右手を突き出している・・・いやっ、これは俺に向けて指差しているのか・・・?
「まさかとは思うけど・・・サンドバッグって・・・俺?」
「うん!!」
「はっ!?何言ってんの?」
「私に向かって度重なる失礼な発言の数々・・・フィジカルモンスターとか怪物とか・・・ゴリラとか・・・?」
「いやっ、ゴリラとは言ってない!それ被害妄想!」
「卑猥な目を紗華に向けてることもプラスしてー!!」
「大倉っ!!おまっ、余計なこと言うな!!」
「・・・以上の理由から、蒼馬くんがサンドバッグ役に就任でーす♪」
「いやっ、ちょっと待って!理由については言い逃れ出来ないからわかるよ。しかしサンドバッグ役するにしても条件を決めたい!」
只々殴られ続けられるのは、流石にたまったもんじゃない。だから俺は条件を出した。
サンドバッグ役は俺・・・制限時間は1分間・・・ひたすら殴り続けてもらってOK!そして、こちらから反撃したり手を出すのはNG・・・しかし防御・回避はしても構わない。
つまり俺は『殴られ屋』のような立ち回りで彼女との対戦をむかえることになった。
「じゃあ、アラームセットしたからいくよ〜スタート!!」
大倉の掛け声で俺と能勢との殴られ屋バトルが始まった・・・
開始前に『そんなへなちょこパンチ当たるはずないじゃん!』等と散々煽ったので彼女は本気で襲いかかってきた。しかし、まだ慣れてないのか動きがぎこちない・・・フォームを崩さないようにと先程まで練習していたが、殴るのに夢中になっている彼女は完全にフォームが崩れていた。しかし、フィジカル強者だけあって、重いパンチを繰り出すことが出来そうなポテンシャルは感じる。
『ピピピピピピピピピピ〜〜〜〜!!!』
アラームが鳴ったところでストップ。俺は何とかパンチを一発もくらうことなく切り抜けることが出来た。
「くやしぃ〜〜〜!!でもすごい楽しかった〜!!」
彼女の表情は晴れやかだった。どうやら満足してくれたようだ。
「明日こそ絶対に蒼馬くんにパンチを当てられるように頑張るからね!」
「えっ?明日って・・・今日だけの話だよね・・・?」
「一日で終わる訳ないよ〜!明日からもよろしくね!」
「嘘・・・だろ・・・」
翌日の昼休み時間・・・能勢紗華と大倉美優の凶悪コンビが俺の席の前にやってきた。
「今日も放課後、よろしくお願いします♪」
「えっ?何のこと・・・?」
「サンドバッグ役♡」
この俺に放課後にサンドバッグ役になれと・・・殴られ屋になれと・・・
「い、いらっしゃいませ〜殴られ屋こと”放課後サンドバッグ”で〜す!ワンプレイ6,500円になりま〜す!!」
そう言いながら差し出した俺の手を彼女は掴むと・・・
「・・・お金・・・取るんだ・・・?」
「いやっ、無料です!!サービスです!!」
結局、その日もその次の日も放課後になると彼女のボクササイズ練習に付き合うことになるのだった。
しかし、日を重ねる度に彼女の実力は上がってきた。最初はぎこちない動きしかしてなかったのに・・・何だろうか?彼女の佇まい…出で立ちに雰囲気がある。
長身で他の女子よりも腕が長く、そのリーチを活かしたパンチに迫力がある。これは冗談じゃなくなってきたかもしれない・・・彼女は男女合わせてもクラス最強になれるような気がしてきた。現段階で男子の半数はパンチで吹っ飛ばしてしまいそうな気がする。そして、ボクササイズ3日目にして、その時がやって来る・・・
彼女のバイン↑バイン↓のお◯ぱいが視界に入ったこともあるが、俺は少し隙を見せてしまった…それを彼女は見逃さなかった。
彼女の強烈な右フックが俺の側頭部に直撃する。
「ぶへぇぇぇっっっっっ!!!」
体ごと持っていかれた。何だよこのパワーは!!??
「っち、力こそ・・・ぱ、パワー」
俺は何とかそう言い残して地面に崩れ落ちた。一撃ノックダウンされてしまった。
「大丈夫ッ!!」「大丈夫ッ!!」
能勢と大倉・・・俺が地面に倒れるとすぐさま二人は駆け寄ってきた。
「・・・お、俺は大丈夫・・・心配しないで!」
不安そうな二人だったが俺の言葉に二人は安堵する。
なんだかんだ言っても彼女達は優しくていい子である。
「パンチの威力が余りに大き過ぎ!やっぱり能勢はポテンシャルの塊だよ!」
「ありがとう・・・一瞬びっくりしちゃったけど・・・嬉しい!」
「いやいや、ありがとうと言うのはこっちのセリフだよ!能勢と大倉二人に!」
「えっ?私達、何かしたっけ?」
不思議そうに二人は顔を見合わせている。
「二人同時にパンツを見せてくれるなんて・・・圧倒的感謝!!この気持ちを伝えずにはいられなかったんだ!!今日の夜はコレで決まり!」
そう、床に転がる俺を見下ろすように心配してくれる彼女達…その無防備なスカートの中をローアングルからしっかり捉えることが出来ている。
・・・ドガッ!!ボコッ!!バキッ!!バシンッ!!ドガンッ!!・・・
・・・こうして俺は殴られ屋プレイをする時よりも大ダメージを負ってしまった。
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