色と人と世界の数

CHOPI

色と人と世界の数

「この緑色のカエル、可愛いね」

「ん?」

「え?」

「え、緑?」

「うん、緑」

「……緑……」


 *****


 とある土曜日の夕方過ぎ。明日(日曜)の予定が特に何もなかったので、最近めっきりと春らしくなったから、久しぶりに少し遠出して買い物がしたい、と彼に言った。それに対して彼は『いいね』と二つ返事で了承してくれ、さらには『車出すか!』と交渉前から提案してくれた。だからそこに乗っかって『久しぶりに色々見て回ろー』と言えば、たちまちドライブデートで予定が埋まった。


 そうして、日曜にしては少し早めの午前中からドライブがてら、ちょっとだけ遠くにあるショッピングモールにやってきた。特段大きな目的もなく、目に付いたお店に入ってはブラブラと商品を眺め、を繰り返す。数件目、雑貨屋に入ったところで、2人の目が1つのカエルの陶器の置物に留まった。


「この緑色のカエル、可愛いね」

「ん?」

「え?」

「え、緑?」

「うん、緑」

「……緑……」


 目の前にある可愛らしいカエルの置物を見て、彼は『緑色』と言った。それに対して違和感を持つ。……これ、緑っていうよりも……、

「……どっちかって言ったら青色じゃない?」

「え?」

「青色だと思うんだけど」

「これが?」

「うん」

「……青色、か……」

 自分のしっくりくる方の色名を伝えると、今度は彼が考えるような素振りを見せた。目の前にあるカエルの置物が『ボクの色は緑色ですよ!』(または『ボクの色は青色ですよ!』)なんて答えてくれれば済むんだけど、まさかそんなことがあるはずもない。


 不思議だ、と思った。同じものを見ているのに、認識している色の名前に差異がある。


 試しに違う棚に並んでいた他の陶器の置物を指さして、『これは何色?』『これは?』『こっちは?』と彼に聞いてみる。

「赤」

「黒」

「黄色」

 返ってきた答えに対して同じものもあったけど、やっぱり少し違うものもあって。

「おぉ……、結構違う答え出てくる……」

「え、まじ?」

「うん」


 彼の言った『赤』を、私は『茶色』だと思った。彼の言った『黒』は、私には『ネイビー』に見えた。同じものを見ているのに、こんなにも違いがある。よく耳にする話だし、分かっているつもりだったけど、まさかこんなところで、こんなタイミングで実感することになろうとは。


「……不思議な感じ。おんなじもの見てるのにね」

「なー、変な感じ」


 ――人の数だけ世界がある

 

 ……のかな、なんて思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色と人と世界の数 CHOPI @CHOPI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説