第10話 調査を決めよう
「それじゃ、粗相の無いようにな。ここに来ていないお隣さんなどに声をかけておくように」
「わかりましたー」
「いやあ、カイ様は美人だったなあ」
「ローク様も貴族なのに腰が低い方だ。領主だと楽なのになあ」
「まあ、そんなに顔を合わせることも無いと思うけど――」
バートリィ一家が丘の屋敷に向かった後、村長さんの一言を聞いて解散となった。
なんだかんだで全員が野次馬をしたわけじゃないので、横のつながりで伝えることは大事である。
「ようレン! 可愛い子だったな!」
「コウヤ、そんなことを言っていると村長さんに怒られるぞ?」
「言うくらいいいだろ? なあ、アンドレ」
「だな。というかレン、お前もずっとカイ様の方見てただろ?」
「あー」
確かに言われてみればずっと目で追っていたかもしれない。説明できないからなんて言おうか考えていると、母さんが反応した。
「え? レンが女の子に興味を!? でも、貴族の方じゃあ身分がねえ。残念だったわねレン」
「そういう目で見てたわけじゃないからな!?」
「でも可愛かったわよね、カイ様」
「まあな」
「おし、クレア達に言ってやろうぜ!」
「だな!」
「やめろぉ!?」
悪友たちがそんなことを言いながらこの場を去っていく。
あいつらはそういうことを言う奴等だ。まあ、別に言われたところでクレア達が呆れるだけだろうし、別にいいけど。
「とりあえず家に帰ろう……」
「そうね。フリンクは?」
『(俺はもう少し彼女の様子を見るのと、村から出る人間の記憶操作をする)』
俺が母さんに帰るよう促すとフリンクからメッセージが飛んできた。
とりあえず不穏なワードだが了承しておく。頭がすっからかんになるということはないので大丈夫だ。
「フリンクは散歩して帰るってさ。俺達は先に帰ろうぜ」
「折角だし、紹介すれば良かったのに。可愛いからお近づきになれたかもしれないわよ」
「いいよ……貴族は堅苦しいだろ? 父さんと母さんが貴族に囲まれてあたふたしている様子が目に浮かぶよ」
「確かにそうかもね! 早く恋人をつくって紹介しなさいよ! ルーちゃんが大きくなるまで待つことになるよ」
それはなんか嫌だなと思いつつ、自宅へと戻っていく。
道中、母さんがウチに遊びに来た同級生の女子で誰がどうだとか、あの子は可愛かったなどを口にしていた。
そういえば学生時代は遊びに来る友人は男女問わず多かったんだよな。ただ、女子はフリンク目当てだっただけだが。
そんな感じで自宅に戻り、程なくすると父さんが帰って来た。
「へえ、いよいよ移住かあ。貴族の娘さんとは緊張するなあ……」
「どうせ俺達にはあんまり関わりが無いし、大丈夫だろ」
俺は間接的に関わることになりそうだが、それは言わない。
というのも村から出ると、フリンクの記憶が消えることを誰も知らないからだ。
なので原因究明までは姿を見せない方がいいと思う。
『ただいまー』
「おや、フリンクおかえり。一人でお散歩とは珍しいねえ」
『お魚を食べて来たの!』
「そうなの? 夕飯前だからお腹空かないんじゃない?」
『大丈夫だよー。レン、お部屋に行こう』
「ん。それじゃ母さん、飯になったら呼んでくれ」
「わかったわ。フリンクの尻尾が汚れているから拭いてあげてね」
そんなやりとりをしつつ部屋に入ると、フリンクが椅子に座ってから口を開く。
『ふう……』
「ほら、尻尾を上に向けろ。……で、なんかわかったか?」
『現状だとなんとも言えん。ただ、彼女が特異点であるのは間違いない』
「それは俺もわかってるさ」
だからこそ彼女のなにが結界を破る仕掛けなのかを調べているのだから。
すると尻尾がキレイになったフリンクが俺の首にヒレを回してボソリと喋る。
『……なあ、兄弟。あのお嬢さんに近づいて仲良くなっちゃあどうだ? 俺の推測だと本人も知らないかもしれない。ちょっと抱きしめられるくらいの距離までいってくれ』
「やだよ!? あの厳格そうな親父さんに殺されちまうって! お前が――」
と、言いかけてやめた。
あのお嬢さんには記憶消去が効かないから、フリンクを出すわけにはいかない。
他の人間は外に出る時に消せるけど、次に来た時に整合性がつかなくなるのは避けたい。
「……よし、こっそり観察をしよう。で、フリンクはどの程度まで結界を張れるか確認をするんだ。影響力を確かめたい」
『ふむ、なるほど。お嬢さんが結界を打ち消しているとして、干渉具合を確かめるということだな』
「そういうこと。上手くすりゃ屋敷の周りは結界無しにして村だけ……ってのもできるかもしれないしな」
『いいアイデアだ。流石は兄弟』
「よせよ……!?」
フリンクはヒレを俺の首に回したまま、顔を摺り寄せて来た。
声が渋いのでまったく可愛く見えないから、見た目と声は大事なんだなと再認識させられたな。
さて、指針が決まったので俺達は適当に部屋で過ごす。今日はまだ視察なので、本格的に移住してくるその日まで作戦を練ろうと思う。
そして晩飯の後、夜中に俺達は海へと向かうのだった。
◆ ◇ ◆
「良い方が多い村のようですね」
「ああ。……すまないな、カイ。これくらいのことしかできない」
「仕方ありません。私の身体の異常……お医者様でも宮廷お抱えの魔法使い様でもわからなかったのですから」
「あの丘の上なら村の人間には干渉するまい。……しかし、魔力を打ち消す病など聞いたことがない。今はまだなんとかなっているが、魔力を吸収できなければ緩やかに……」
「……」
帰り道で、父のロークと娘のカイは馬車でそんな会話をしていた。
いずれ訪れるかもしれない結果に、カイは困った顔をして窓の外に目を向ける。
「あ」
「どうした?」
「いえ、空になにかが飛んでいたような……月明かりに照らされていてなにかはわかりませんでしたけど」
「魔物でなければいいがな。まあ、あの村は討伐依頼が出ないほど平和な土地だ。町に居るよりはいいだろう」
「そうですね」
カイはもう一度見れないかと目を凝らすが、その影を見ることはもう無かった。
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