【KAC20248】喰わず彼女。

猫野 尻尾

第1話:転入して来た少女。

僕の高校に、ひとりの少女が転入してきた。

なんでも兵庫県から引っ越して来たらしい。

日本人なのに、なぜか制服でもないチャイナドレスなんか着ていた。    


担任がその子をクラスに紹介した。


その子の名前は「梅星うめぼし おむすび」さん・・・変わった名前・・・

そして「梅星」さんは印象的な牛乳瓶の底みたいな「めがね」をかけていた。

そこをマイナスポントに見たとしても彼女は可愛いかった。

髪は長くてオードドックス・・・悪く言えば地味。        


彼女をアニメのキャラにしても可愛いと思った。


あ、僕の名前は「古里 畦道ふるさと あぜみち


その日から僕は梅星うめぼしさんのことが気になりはじめた。

ご多聞にもれず僕のタイプだったからだ。

理由はそれで充分。

ぜひとも仲良くなりたい。

だから僕は迷惑もかえりみず、梅星さんに積極的に話しかけた。

おかげで、僕と付き合ってくれることになった。


付き合ってるうちに牛乳瓶の底みたいな「めがね」もおむすびちゃんに

よく似合ってるって思うようになってきた。


で、仲良くルンルン気分で梅星さんと一緒に学校から帰ることになった。


彼女はプライベートなことは多くは語らなかったけど、ひとつだけ大好物だって

ものを教えてくれた。

それは「おむすび」

彼女はおむすびが好きなんだ。


そんなある日、僕は「おむすびちゃん」の家に招待された。


言われた場所に訪ねて行ったら僕の家よりかなり山の奥に入った森の中に、

そこにポツンと一軒だけ、崩壊しそうな古民家があった。


「え〜すんごい家・・・今にも崩れそう〜」


って思って眺めてたら、家の中から、おむすみちゃんが出てきた。

で、僕に向かっておいでおいでをした。


それじゃ〜お邪魔しますと僕はスーパーで買ってきた大量の「おむすび」を

彼女に渡した。

おむすびを見た彼女は大喜びして僕にハグした。


案内された家の中は暗くて、よく見えなかったからか彼女は蝋燭に火をつけた。

ふわ〜いつの時代?・・・ノスタルジー感漂ってる。


で、僕は「おむすびちゃん」から彼女の家族に紹介された。


まずは、パパから・・・私パパの「山親爺やまおやじ


「あ、どうもお邪魔しますぅ・・・古里 畦道です」

「お父さんが、やまおやじ?・・・いつから着替えてないのか着てる衣装

ボロボロじゃん」


「次はママの「姑獲鳥うぶめ


「どうもこんにちは?」


・・・わ〜ママ、美人・・・さすがおむすびちゃんのママ。


「で、こっちが私のおじいちゃん・・・「山椒爺さんしょうじじい

「で、横にいるのが、おばあちゃんの「古庫裏婆こくりばばあ


暗闇の中でおふたりはぴくりとも動かず、言葉も発せずまるでお地蔵さんみたい

にそこに座っていた。


この漂う空気・・・なんとなく僕にも分かってきた。

「おむすびちゃん」の一家は・・・妖怪なんだ。


で、おむすびちゃんは僕が持って来た「おむすび」を・・・レジ袋から取り出して

チャブ台の上に並べた。


「さっそくいただいてもいい?」


「いいよ・・・食べて食べて」


おむすびちゃんは、嬉しそうに後ろ髪をたくし上げると、なんと後頭部に

デカいクチがついていた。

そして、よだれを垂らしながら舌舐めずりした。


で、クチを開けて僕が買って来た、おむすびをアッと言う間に平らげた。

その光景を真近に見た僕は怖いとは思わず、逆に感動すら覚えた。


「まあまあ・・・お下品な・・・もっとゆっくり味わってお食べなさい」


おむすびちゃんのママが言った。

パパは歯の抜けたクチをバカみたいに開けたままケタケタ笑いながら見てる

だけだった。


で、おむすびちゃんが言った。


「私たち、明日お引越しするの」


「え?・・・引っ越すの?・・・どこへ?」


「人間の世界にもずいぶん長くいたから、そろそろ黄泉の国に帰ろうと思って」


「黄泉の国だって?」


「だから、もうお別れだね、お友達になってくれて仲良くしてくれてありがとう」

「古里君・・・これ受け取って?」


そう言っておむすびちゃんが僕に渡したものは、それは「めがね」だった。

牛乳瓶の底みたいな印象的な「めがね」・・・おむすびちゃんの一部。


「古里君にあげるものがないから、そのめがねあげる・・・受け取って」

「そして私だと思って・・・大事に持っててね」


まるで、その日の出来事は狐につままれたようだった。


次の日、僕はおむすびちゃんの家を訪ねてみたら、そこに古民家は無くなっていて

小さな社が祀られていた。


妖怪の中に「おむすび」がすこぶる大好きな妖怪がいて、その妖怪の名前は

「喰わず女房」って言うんだそうだ。

さしずめ結婚してない、おむすびちゃんは僕の「喰わず彼女」って訳だな。


月日が流れて僕は大人になったけど今でもおむすびちゃんがくれた「めがね」は

大切にしまってある。

いつか彼女が僕のところに帰って来た時のためにね・・・。


おしまい。

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