短編107話 数あるそういやその色かもな
帝王Tsuyamasama
短編107話 数あるそういやその色かもな
「こんにちは、
「よっ!」
「おじゃまします」
……この日も……。
「
「みんなおもしろいって言っているけど、私は映画館で映画って、小さいときに一度しか観たことがなくって」
……その日も……。
「んまいっ!」
「おいしいね」
……あの日も……。
「勝った」
「……
……どの日も……。
俺、
小学校はお互い別々の学校だったのだが、この辺りの地域の小学校は、中学校に上がるとなるとひとつの学校に集まってくる。
中学一年のときに一緒のクラスになり、移動教室や掃除の時間、給食の時間などなどを通して、だんだん仲良くなってきた四桜。
次第に休みの日にも遊ぶようになって、けんかすることなく中学三年生を迎えた俺たち。
……服なんて基礎防御力と属性防御力くらいしかあまり興味がなかった俺でさえも、気づいてしまった。
四桜。いつも着てる服、白じゃん!!
学校がある日は、紺色のセーラーや白色に青色の学年カラーの体操服などだし、学校に履いてくる靴もこげ茶色のだ。まぁ制服や体操服やらウィンドブレーカーなんかは、そういう決まったものだし、靴だって運動靴を除けば、女子は黒~こげ茶~茶色くらいまでの範囲のが、大多数を占めている。
だがしかし。休みの日に会うとなったら、それは私服なはずなんだ。もちろん俺が「俺と会うときは毎回白着てこいよな! これ罰ゲーム!」なんてこと言うわけねぇし。
なにか理由でもあるのだろうか。俺からじゃなく、親から白着なさいと強制されてるとか? いや別に毎回白着なさい言われて苦しんでいますアピールは、
なにか嫌いな色があるとか……そりゃまぁ色トークなんて、普段全然してねぇけどさぁ。結構いろいろとしゃべって、仲良くなれてきてるんだから、困ってんなら相談くらいあっても……ねぇ?
(……単純に、白が好きなだけとかだったりしてっ)
よくよく考えれば……俺だって、上に着るやつは黒・青・紺、たまに白とかそんなもので、赤とか黄緑とかねーなぁ。
(やっぱ俺の考えすぎかっ?)
四桜のことをいろいろ知りたいという気持ちと、なんか力になれそうなことがあったら助けてやりたいっていう気持ちも。
なんで他の女子以上に、四桜のことを考える時間が多くなってしまってんだろうな。
『はい。四桜でございます』
「あー俺俺。俺だよ俺俺。俺だってば俺俺俺」
『こんにちは、鳴竹くん』
「な、なぜ声だけで俺だと見破れたのだ……!」
『鳴竹くんは、私のお母さんが電話に出たときも、それ言っているの?』
「………………いえ」
四桜が笑ってくれると、なんかうれしい気持ちと、さらにうれしい気持ちが二重で乗っかってくる感じ。この感じわかる?
『どうしたの?』
「実はさ。次の日曜日、電車乗ってデパート行くとか……どぅよ」
『次の日曜日は……うん、大丈夫』
「じゃー……十時に駅前?」
『通り道だから、十時に鳴竹くんのおうちへ行っていい?』
「んじゃそれで」
『うん』
いつも電話でやり取りするときはこんな感じ。まぁ学校の休み時間とかで約束することの方が多いんだけどさ。
『なにか買いたい物があるの?』
「んあーいやー……」
(って、別に今隠す必要もないっちゃないんだけどさ)
「……四桜と行ってみたいと思って、さ?」
はい、いちご
『誘ってくれて、ありがとう。私も鳴竹くんと一緒なら、楽しい』
(んあぁあーなんか強烈なのきたぁー!)
四桜って、結構ストレートにこういうこと言ってくるんだよなぁ。あいやストレートに言えてない俺がだめなのかっ?!
「ぬえっとじゃそんなとこで!」
『うん。日曜日の十時に行くね』
「おぅっ」
………………ぁちょっと無言時間を発生させてしまった。
「じゃ、じゃあっ」
『うん。ありがとう』
「おぅっ」
今度こそ、受話器を置いてっと……まだちょっと左手震えてる。
「おはよう、鳴竹くん」
(……やはり……)
「お、おはー」
(やはりっ……)
インターホンが鳴ったので、すでに出撃準備を整えていた俺は、黒に白の線が入った運動靴を履いて、深い茶色のドアを開けて、外に出た。
黒い柵の門扉の向こうに立っているのは、間違いなく四桜。
あの肩くらいまでの長さの髪。すっと立っている感じ。やんわり笑顔。そしてやはりっ。
(白!!)
改めて近づいて見てみたが、上は白色にいくつかひらひら付いてる
全部の服が全部真っ白というわけではなく、今回のようにポイントポイントで他の色が多少混ざることはあったとしても、やはり白は白であるっ。
靴まで白ベースにピンクの線が入った運動靴。細い紐のカバンまでクリーム色だぜおい。
とかなんとか言っている俺は、青色の厚手の襟付き長袖シャツに、水色のジーパン。そしてやや小さめな黒のリュックサック。
「おーし行くかっ!」
「うん」
俺が右、四桜が左のフォーメーションで、一緒に歩き始めた。
「ここだ!」
「鳴竹くんが来たかったところって、ここ?」
「おうよ!」
電車に乗って三駅。デパートまでやってきたのは、すべてはここに来るためである!
「……鳴竹くんが、着るの?」
「ちゃうわーい!」
装備しねぇよスカートとかよぉ!
相変わらず俺のセリフで笑ってくれる四桜と一緒にやってきたのは、女子の服が売っているエリア!
そう。カラフルな服が売っている場所まで来たら、四桜はどんな反応をするのか! 他の色に興味があるのか! 自然と色トークに持っていけそう! などなどの理由で、こちらのデパートをチョイス!
「四桜。あ、あのさ」
「なに?」
さすが日曜日のデパート。いろんな人が行き交っている。てかここ女子率九割以上だろうけど。そんな中、この疑問をぶつけてもいいのだろうか。でも今しかないっ。今こそ整われたチャンス!
「い、いつも四桜の服、白い……じゃん?」
ついに切り出したぞ俺! じぃっとこっち見てる四桜。
「な、なにか白いのには理由があるんかなとか、なんか、悩みあったら助けてやりたい、っつーか。お、俺でなにできっかわかんねーけど、とにかく四桜の力にないてぇ、みたいな……」
言ってて自分でなに言ってんだろと思ったけど、こう言っちまったんだからこれでなんとかわかってくれっ。
と、俺の話をしっかり聞いてくれていた四桜。いつものやんわり笑顔をしてくれて。
「気にかけてくれて、ありがとう。特に理由はないよ」
(………………お…………oh)
ズバッと一刀両断!!
「理由というほどでもないかもしれないけど……無難だから、かな。落ち着く感じかもしれないね」
「つまりー……俺が黒とか青とか着てるように、四桜は白着てるだけ……と?」
「そういう感じになると思う」
ほんとのほんとに、ただただそんだけっ?
「お、親から毎日白着なさい命令出てるとか、神からのお告げで毎日白着なければ地球が滅亡するとかそんなんじゃなく?」
「うん」
よく休みの日にも遊んでいるからわかる。この俺からの
(やっぱ俺の考えすぎだったかぁー!)
「……心配かけさせて、ごめんなさい」
「のあぁあいやいや俺が勝手に滅亡シナリオ作っただけだし!」
てか俺今日白着てねぇのに滅亡してねぇしっ!
「それじゃあ鳴竹くんは、私が白いの以外の服を着ているところを見たくて、ここに連れてきてくれたの?」
(…………ん?)
んーっと、それは完全に間違いというわけじゃないけど、もうさっきのやり取りでメインの目的は果たしたとも言えるようなー。
(白じゃない私服の四桜、か……)
改めて言われたら、なんかちょっと気になってきたかも。
「……まーなんだーそのー。四桜さえよかったら……?」
思わず左手を頭の後ろに当てた俺。
その俺のポーズを見てから、女子服エリアを見渡す四桜。
「それじゃあ、一緒に探してくれる?」
(ん!?)
い、一緒に探すって……女子服超ド素人の鳴竹雪達がぁ?!
「い、一緒に探すって、ど、どうしろと?」
ぇなんでそこウケたんだ?
「私に似合いそうな服があったら、試着してみるよ」
(ぬう?!)
し、試着……アニメとかでは見たことあるシーンだが、それを実際俺も参加するってかっ!?
「はい」
「おおーっ!!」
ベージュ色のカーテンが開けられると、現れたのはなんと! 白じゃない四桜美希子!! 制服とかは白じゃないけど!!
結構はっきりとしたピンクのもこもこセーター姿!
「どう?」
「ど、どうとは?」
「変じゃないかな。大丈夫?」
両手をそれぞれ自分の両肩辺りに当てながら、きょろきょろしてる。なんか新鮮!?
「すっげー大丈夫!」
「よかった」
え……なんかちょっとまって。今そのやんわり笑顔。いつも今まで見てきていたはずなのに、なんで今、そんなにズキュゥーンと貫通属性持ちなんだ……?
それ以降も青いの赤いの緑の、シャツ型ワンピース型ジャケット型など、ファッションショーしてくれた。
ファッションショーって、服着てる人が歩いているのを見るだけかと思っていたが、盛大に開催されている理由がわかった気がするぜ……。
ファッションショー後もしばらくデパートにいたが、楽しい時間もあっちゅうま。俺たちは最寄駅に帰ってきて、また横に並んで一緒に歩いて帰っている。
本日の戦利品は、帰るまでの間、リュックサックの中に入れている。水色のワンピースを入手したとのこと。今度遊ぶときに着てくるってさ。ほ、ほぅ。
「にしても、ただ単に白着てるだけだったとは」
平和がいちばん。うむ。
「お出かけするときは、ずっと白ばっかりだったけど……いつも同じだったことから抜け出すのって、ちょっと勇気がいるよね」
「のあぁなんかすまん俺が滅亡論立てちまって」
「ううん。私のこと、そんなにも考えてくれていて……とてもうれしかった」
ズキュゥーンバキュゥーンチュドォーン。
「……いつも同じだったことから、抜け出す……」
同じセリフをもう一度つぶやいてるっぽいけど俺はズキュゥーンバキュゥーン中。
「……ゆ、雪達くんも。助けてほしいことがあったら、私に相談してね」
「お、おぅ。その時はよろしく…………な? な?!」
いつもの笑顔だけどいつもとは違う雰囲気のセリフを、四桜がしゃべってくれたと思ったときにはもう、俺の左手を四桜が優しく握ってくれていた。
短編107話 数あるそういやその色かもな 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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