【仮】転生した先は、滅びた日本でした

白夏緑自

第1話

 修学旅行中の事故で死んだはずの僕たちが、不死になった身体と共に転生した先は年代不明の日本。

 

 そんな世界を僕たちは何をするでもなく、僕たちは放浪の旅をしていた。

  旅を初めてから、クラスでは人の好い笑みを浮かべていた宮下はよくニヒルに笑うようになった。

  僕はそんな宮下をどんどん好きになっていった。 そんな旅のある日。

 生者は誰もいない。

 ただ、朽ちた風景が続く世界で、僕たちは大学に足を踏み入れた。

 これは、その一幕。


 僕たちの身体は、死んだようで、生きてもいる。眠気も食欲も湧かなくなって、暑い寒いと悩みすらしない。でも、全身に張り巡らされた五感は感じ取った情報を常に脳みそへ送信し続けている。


 眠気も食欲も湧かなくなったって、木漏れ日の下での微睡は気持ちが良いし、リンゴを齧れば蜂蜜ほどの甘さに驚くこともある。

 息が白くなるほどの寒さに身震いするが、五指がかじかんだりしない。

 血が通っていないのだと。いつか、宮下は言っていた。死んだらなにも感じなくなるはずが、生身だけが許される喜びは得ることが出来、生身が生きるために齎されるべき苦痛は断絶しているこの身体には血が通っていないのだと。


 この話からずっと、僕たちの身体が青白く見えるようになった。意識すれば、と言うものか。ふと目に入る、自分の五指ですら後付けの部品のようにも見えた。

はたして、僕たちの今いる場所にも陽光は差し込む。

 明かりの角度が変わり、陰影も変化したからだろうか。


 窓の外を眺める彼女の横顔に色が差し込んだ。

 建物の入り口で見かけた陶器製の花瓶。真っ白で無垢な印象を来るものに与えていたあの花瓶が長年の孤独を漂わせていたのは埃による化粧のせいだろう。

 彼女の肌の色も陶器のように張りのある、透き通った青白さだった。僕のそれとは──死んでいることに違いはないが──決定的に物質として種類を区別する青白さ。


 陽光が彼女に化粧を施した。慈しみと悲しみを目に溜め込んで、厚い唇は失った情念を今すぐにでも詩の形にして紡いでくれそうな瑞々しさをたたえて。

 目が眩んでしまいそうな生気が、僕の前で輝いている。

 素直に、綺麗だと思った。もしかしたら、口から洩れたかもしれない。このままでは宮下が遠くへ行ってしまいそうだ。手を伸ばそうか。指を開いたり閉じたりして、意思を固める。


 過去へ戻れるなら。そんな望みが聞こえた気がした。幻聴かもしれない。でも、確かに彼女の唇は動いていた。どれだけ綺麗な唄だったのだろう。もう一度と、乞いてみようか。

 だが、幻だからこそ美しいはずの詩に再読は許されなかった。

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