花束

Rotten flower

第1話

冬の日、白い雪が降っていたその日。僕らは橙色のランプに照らされていた。

君は綺麗でとても可愛らしい。君の吐息が白くなっていて寒さを視覚的にも感じる。

「ねぇ。」

「ごめんて。」

君の口から出る言葉、色はない。そこに込められた感情にも色はない。


あれも白い雪が降っていた日、今日とは違って積もるほどではなかったが。

僕は会社からの帰り際に君を見た。穢らわしく色がつけられているホテルへと入っていく姿を。

僕は幻覚だと感じた。感じることにした。そうでもしないとどこかが可笑しくなってしまうような気がしたから。結局、君が家に帰ってきたのは日を跨いだ後だった。

君の誕生日のために買っておいた花束、赤く君と同じぐらい美しかった。君と同じぐらい醜かった。

花が散る度にその事を思い出して泣きたくなって。多角的に見ると愚かだ。

面白いことにその出来事があっても君への思いは少ししか変わらなかった。別に同棲していない僕には計画を立てる時間は十二分にあった。


冷たいの語源は「爪が痛い」らしい。ある一つの痛みがあるとそこに新しい痛みがきた時その両方に気を取られるのは僕だけではないだろう。僕だって心が傷んでいる状態で爪の痛みも同じぐらい感じた。いや、少しだけ盛ったかも。それすら心を傷つける。永久機関だな。これを断つにはまず心を何とかしなければ。


「謝りたいから家に行くね。」

彼女からのライン、あっちから切り出してくるのは絶好のチャンスだった。

ラインが届いてからインターホンがなるまでの数分、とても長く感じた。時計の秒針が動く音が部屋にこだました。

赤い花束を持って家を出る。手袋をしてないから手がひどく悴んでいた、指の節々が赤くなっている。そういえば、丁度今日が君に誕生日だったね。

「誕生日に死ぬ確率は14%上がるらしいよ。」


君に渡そうと思っていた花束、最期に渡せて良かった。君の赫を吸って花はより赤々しくなっていく。

君のその美しい体、蛻になってもだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花束 Rotten flower @Rotten_flower

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ