第11話 スクール・レイアウト(2)


 歩きながら、後ろに言う。


「ついてこなくて良かったのに」

「俺がいないとお前無茶するだろー?」

「授業サボりたかっただけじゃないの?」

「ちっげーし! 正義の味方は、正義の行いをするために、時には授業もサボらなくちゃいけないだけだよ!」

(どうだか)


 荷物を置きに家に帰り、双剣を持って外に出たところにダンが待ち構えていて、かなり驚いた。ついてくると言って止まらないので、一緒に森までついてきてもらっている。


(勝手に話まで盗み聞きして……)

「なぁ、机を作るって、どれくらいの木材が必要なんだ?」

「落ちてる木の枝を籠二つ分集めてくれたらいいよ。一から作るわけじゃないし」

「どうするんだ?」

「合成するの。机はあるわけだから、合成でどうにか間に合わせる!」

「俺から大工に頼んだらって提案したこともあるんだけどさ、新しい領主が予算出してくれなかったんだって」

「……新しい領主?」

「最近変わったんだよ。前の領主は突然殺されて、突然新しい領主になった。ただ、ちょっと変わった人なんだ。領主となった人間は必ず自分が領主だということをわからせる式をやりたがる。でも、新しい領主は式をしないで、土地の革命を行った。税金は高いままだけど、食品とか、日用品とか、形として返ってくるなんとか納税ってやつを始めて、病院や学校代が無料になって、生活が苦しい家には支援金を出して、ろくな仕事をしない貴族は解雇になった。……二、三ヶ月間の話」

「へぇー」

「だから、予算の話も通ると思ったら……どこで審査が止まってるのか……全然返事が来やしない! 結局、貴族なんてみんな同じだって、思い知らされた。……パレットみたいな貴族は珍しいよ。普通はお前みたいに率先して行動なんかしない。税金を納めてるのはこの土地に住む全員なのに。それを……けっ。子供には難しくて、嫌な話だ」

(そういえば……この土地の領主の話はちゃんと聞いたこと無いな。……イヴに聞いてみよう)

「ふぃー! この辺、木の枝だらけだな。人間が入ってなかったから、落ちまくりだ」


 ダンが順調に木の枝を籠に入れていく。あたしも汗を拭いながら木の枝を籠へ入れていく。その間、頭の中では机の形をデザインしていった。


「教室の机、古いからって、校長先生がわざわざ偉い人のところに頭下げに行って、予算を用意して買ってくれたんだ。なのに、あのぼったくり家具屋め、あんな木の板を貼り付けただけの机を送ってくるなんて。最低だ」

「本当にそんなことする人いるんだね。返金も返品もしてくれないなんて」

「そのせいでマリアが怪我した」


 ……チラッと、ダンを見た。


「俺に消しゴム貸してくれた時だよ。手が滑って、俺が落としちまったんだ。マリアはそれを拾って……机の角に頭打って、額が切れた。……お前が引っ越してくる前の話だよ」

「……」

「あの家具屋が、あんな机送ってこなきゃ、そもそも返品出来てれば、マリアが怪我せずに済んだんだ!」


 ダンが籠に木の枝を入れていく。


「絶対許さねぇ。あの家具屋」

(……ひょっとして……)


 あたしは、ちょこっとカマをかけてみる。


「マリアってー、可愛いよねー?」

「……。そうかー?」

「うんー! あたしから見てもー、あれはモテると思うなぁー!」

「……。そうかー?」

「ボーイフレンドいるのかなー?」


 ダンが木の枝を折った。


「……いな……いんじゃない……?」

「えー? でも、すごく可愛いじゃーん」

「いや……いないって……多分……」

「あの子はねー美人になるよー。今はまだかもしれないけど、大きくなるにつれて、どんどん男の子達の目に留まっていくんだろうねー」


 ――チラッと見てみると、ダンの体が震えていた。それを見て、吹き出すのを我慢して、あたしは木の枝を拾い続ける。


「今日も優しかったねー」

「……マリアは……世話焼きだからな……」

「正義の味方っていうのは、頼られる人にならないといけないよ」


 同じ木の枝に手を付けた。あたしとダンの目が合う。


「マリアが困ってたら、ダンが助けてあげてね」

「……そんなの、当たり前だよ。俺は正義の味方の、ヒーローだからな!」



「そんなの当たり前だよ」


 あたしの手を握りしめた彼はそう言った。


「パレットが困ってたら、俺が助けてやるさ。王子様だからな!」



(……嘘つきにならないでね。ダン)


 手を付けた木の枝をダンに譲り、他の枝を拾い、籠に入れる。


「パレット、もう少し集めるか?」

「そうだね。もうちょっとだけ拾っておこっか」

「良い机を作るためだもんな。よーし!」


 ダンが手を伸ばした。


「拾いまくるぞー!」


 掴んだ木の枝の柔らかな感触に、ダンが眉をひそめた。


「ん?」


 嫌な予感がしてすぐに顔を上げると――木の枝模様の山猫型のキメラが、ダンを睨んでいた。


「うわぁ! やっべぇ!」

「え?」


 振り返ると、キメラがダンに襲いかかるところだった。


「ひぃ!」


 キメラがダンに噛みつく前に、あたしが間に入り、剣の鞘を噛ませた。キメラとあたしが目を合わせる。キメラが完全にあたし達を敵とみなした。口を離し、距離を離し、あたし達に威嚇の鳴き声をあげる。ダンが後ろに下がった。あたしは両剣を出し、キメラに怒鳴る。


「去れ!」


 キメラが唸る。


「何もしなければこちらも何もしない! 去れ!」

「ぱ、パレット、言ったって伝わんな……」

「行け!」


 あたしは木を蹴飛ばした。


「行け!!」


 キメラが唸り……森の中に消えた。ダンが安堵の息を吐いた。しかし、あたしは両剣を構えた。ダンがきょとんとした。――キメラが四匹ほど仲間を連れてきた。見た途端、ダンが震え上がった。


「やっぱりね。斬るしかないか」


 キメラがあたしに向かって走ってきた。ダンが目を瞑った。あたしは双剣を構え――迷わず首を切った。キメラの首と胴体が離れ、ダンの前で倒れた。


「ひぃ!」


 四匹が囲んできた。完全に囲まれる前に、あたしはステップを踏み、キメラの首を切った。一匹。ダンを噛もうとしたところを斬った。二匹。あたしに噛みつこうとした。三匹。最後の一匹が逃げた。許そう。


(……そういえば、冷蔵庫のお肉切れかけてたな)


 あたしは籠を前に抱え、キメラを一体背中に背負った。


「ダン、帰るよー」

「……お前それ持っていくのか……?」

「毛皮にできるし、爪もある。調合の素材にもなるんだよ。しばらく、お肉にも困らない」

「お前のその馬鹿力……どこから出てるんだ?」

「訓練の賜物ー」


 キメラを背負いながら、ダンと共に森を出ていく。残されたキメラ達の周りには、森の動物達が囲んでいた。



(*'ω'*)



 放課後に現れたあたし達を見て、ローラがきょとんとした。


「あら、忘れ物?」

「机を加工しに来たの」

「机を加工って……大工に頼めたの?」

「子供たちはいない?」

「みんな帰ったわ」

「良かった。それなら早く終わる」


 あたしと一緒に教室に入ろうとしたダンの襟を、ローラが掴んだ。


「お腹痛くて早退したんじゃないの?」

「ローラ先生、正義の味方ってのは、時に嘘をつくことも必要なんだ」

「お母様に報告します」

「そりゃねえよ! 先生!」

(一つずつやるのは面倒だな。魔法陣を大きく書けば……いけるか)


 ローラに叱られてるダンに声をかける。


「ダン、悪いけど、机を教室の中心に寄せたいの。手伝ってくれない?」

「ほら! ローラ先生! パレットがお呼びだ! 手伝わないと!」

「あ、こら! ダン!」

「良かったらローラも手伝ってくれないかな? ダン一人だと、怪我しちゃいそうで怖くて」

「ん……手伝うのはいいけど……」


 机を教室の中心に置き、囲むように染料で円を書いていく。そこへ細かく魔法陣を書いていき、集めてきた木の板を置く。


「これでよし」

「先生、窓から見ようぜ」


 ダンがローラを連れて廊下へ出る。その間に、あたしはイヴリンの魔力を瓶から垂らす。


「さあ、どうなるかな?」


 あたしは両手のひらの体温を魔法陣に与えた。途端に――魔法陣が紫色に光り出す。ローラが目を見開いた。ダンがわくわくしたようににやけた。風が吹き、角の硬い机を包み込む。木の板と机が引き寄せられ、重なり、一つになっていく。木の山ができる。だんだん形になっていく。眩しい光が机を包み込み――輝き終えた先には、角の丸まった、引き出し付きの、立派な学校机が、元の位置に立っていた。


 目を丸くしたローラが口を押さえた。


「なんてこと!」

「すげー! 新品みたいだ!」


 ダンが教室に入り、自分の使ってる机に触れ、引き出しを覗き、抱きしめた。


「何だこれ! 良い匂いする!」

「森の木のお陰だね」

「これで勉強出来るなんて、最高だ!」


 ローラが教室に入り、合成された机達を眺めた。そして……あたしに振り向く。


「魔法使い……なの……?」

「ううん。調合が出来るの。錬金術と、合成術。魔力は、知り合いのもの」

「初めて見たわ。今のが……合成術……」


 ローラがあたしの手を両手で握りしめ、満面の笑みを浮かべた。


「校長先生に言わなくちゃ! 彼、すごく責任を感じていたから!」


 ローラが廊下へ走り、……また戻ってきた。


「ありがとう! パレット!」


 そして再び走り出した。あたしとダンが顔を見合わせ、あたしは肩をすくませる。


「あのね、怒られる前に帰ろうと思うんだ」

「何言ってるんだ。怒らねえよ。みんなこれで困ってたんだ」

「勝手なことしたんだもん。校長先生には、ダンから言っておいて」

「お、おい、パレット!」


 あたしはクスクス笑いながら、教室から出ていった。その後すぐ、ローラが校長先生を連れて、教室へとやってきたが、あたしのいなくなった教室を見て、ぽかんとした。


「ダン、あの子は?」

「校長先生に怒られる前に帰った。悪戯が成功したみたいな顔してさ」


 校長先生が角の丸くなった、引き出し付きの、立派な机を見て、ローラに振り向いた。


「これは、誰が?」

「最近町外れに引っ越してきた子だそうで。とても良い子そうでした。パレットという子です」

「パレットだと!?」


 校長先生の反応に、ダンとローラがぎょっとした。


「パレット、パレットと言ったか!?」

「え、ええ、そう名乗ってました。……そうよね? ダン」

「ああ。魔法は使えないけど、なんか、それ以外でものを作ることができる奴なんだ。別に、悪い奴じゃないよ! いい奴さ!」

「……なるほど」


 校長先生が深呼吸し、伸びた髭をつまんだ。


「次来たら、校長室へ連れてきてくれ。感謝の言葉を伝えたい」

「わかりました。彼女に伝えておきます」

「俺からも言っとくよ。ったく、パレットの奴、謙虚すぎるのも問題だぜ!」


 校長先生が窓を見つめ――落ちていく夕日その目に映した。



(*'ω'*)



 あたしは観葉植物を置いた。


(これで……よし!)


 家具屋で見た形の棚の上に置かれた植物達。


(買えなければ、作れば良い)


 余った木材で作った棚は、リビングのレイアウトに欠かせない一つとなった。


(ここに写真立ても置けそうだよなぁ……。そういえば、引っ越してきてからイヴと写真撮ってないな)


 あたしはレシピ本を取り出し、キッチンカウンターの上で広げる。


(カメラの作り方。……うーん。カメラは買った方がいいかも。魔力を使っても、お手製の本物には勝てないんだよな)


 棚から、初日にイヴリンが家に持ってきてくれた買い物カタログを取り出し、ぺらぺらめくってみる。お、カメラ発見。


「どれがいいかなぁ?」


 呟いてると、ドアが開く音が聞こえた。あたしはカタログを持ちながら、玄関へ歩いていく。


「イヴー」

「ただいま。パレイ」

「ねえ、カメラ買いたいんだけど、どれが良いと思う?」

「カメラ?」

「棚を作ったの。それと、新聞用の本棚も。雑誌にも使えて便利だよ」


 イヴリンをリビングへ引っ張り、植物が置かれた棚達を発表する。


「ふむ」

「それで、……折角の二人の家だし……写真飾りたくて。でも、引っ越してきてから、撮ってないでしょ?」


 カタログをイヴリンに見せる。


「どれがいいかな? ほら、この青色のやつとか可愛い」

「良いものを手配しておこう」

「選んで買って、手に入るから楽しいんだよ」

「だが、……これより良いのがあるぞ?」

「あたしはもう貴族じゃないもん。平民が使うものだって大歓迎」

「……」

「イヴは、嫌?」

「……いいや? お前が選んだカメラで撮影するのも面白そうだ」

「不良品だったらすぐ返品しよ」


 イヴリンとソファーに座り、カタログのページを開く。


「イヴの持ってきたカタログなんだから、悪いお店はないでしょ?」

「そんなのがあれば潰すだけだ」

「……はは」

「ついでだ。でかい観葉植物も買ったらどうだ?」

「えー! いいのー!?」

「命あるものは魔力があろうと作れない。キメラになるだけだ。お前が欲しいならいくらでも買いなさい」

「そんなこと言われたら、好きなだけ買っちゃうよー!」

「構わない。お前が欲しいなら」

「壁にかける、なんか、お洒落な額縁とか欲しいなぁー? なんて……」

「どこかになかったか? ……ほら、あった。これはどうだ?」

「イヴ……あたしもこれ、良いと思ってた! ねぇー! すごいよぉー! また以心伝心しちゃったぁー♡!」

「それならパレイ、……わたくしが今思ってることがわかるか?」

「……んー? なんだろ?」


 あたしはあえて顔を近づかせると、イヴリンがおかしそうに笑った。


「わかんなぁーい」

「ほう。ならばどうしてこんなにも距離が近いのかな?」

「それはあたしがイヴとキスしたいと思ってるから」

「奇遇だな。……わたくしも同じことを思ってた」


 唇が触れ合うと、小さく震えだす心臓を感じる。温かな温もりに、いつもどうしても、不思議と心が落ち着く。イヴリンと見つめ合い、クスッと笑う。


「お仕事大変だった?」

「だいぶ落ち着いてきた」

「それは良かった。……あ、そうだ」

「ん?」

「イヴ、この土地のことを教えてくれた時に言ってたよね。ここは知り合いの領主がやってる土地で、その手伝いをするんだって」

「……ああ。言った」

「それって、新しい領主様のこと?」

「ああ。そうだ」

「ちょっと愚痴ってもいい?」

「どうした? 誰に心を傷つけられた?」

「領主様! 今日ダンの学校に行ったんだけどね、なーんか詐欺まがいな商売やってるお店に騙されて、変な机送ってこられててさ。返品も返金もしてもらえなかったらしくて、新しく机を買おうとして、領主様に予算申請の書類を送ったらしいんだけど、全然返事が来なかったって」

「……」

「角が尖ってて、本当に危ない机だったから、あたしが合成でなんとかしたけど……ね、領主様ってどんな人? ちゃんと仕事してるの? あたしの予想……無駄な仕事を押し付けられたりしてない!? イヴ!」


 イヴリンが――目をそらした。


「安心しろ。それはない」

「なんかあったらすぐ言って! あたし、すぐに抗議しにいくから!」

「……学校の机……か。……それは大変だったな」

「怪我した子もいたらしいの。可哀想に」

「ああ。それは……また今度、領主に聞いておこう。ありがとう。パレイ」

「イヴ、最近ずっと働いてて辛くない? 嫌なことされてない?」

「癒してくれるのか? それなら……」


 イヴがあたしに視線を向けて、微笑んだ。


「デートはいつにしようか?」

「大丈夫なの?」

「どこに行きたい?」

「ランチでも行かない? あの、……T.Rデジタルとかで」


 イヴが確信めいたような笑みを浮かべる。


「マゴットか」

「居場所を伝えておかないと。あの子、あたしの身を心配してるのか、最近ラジオの声が元気ないの」

「口が軽い奴だ」

「大切なことは言わないよ。そうプログラムしてあるもん」

「明日にでも行くか?」

「え? お仕事は?」

「書類が届くまで手つかずだ。明日ならいくらでも時間が取れるだろう」

「……本当!?」


 あたしはイヴの手を握り、笑顔を浮かべる。


「本当に本当!?」

「部下達に伝えておいた。明日一日は絶対に連絡してくるなと」

「一日!? 大丈夫なの!?」

「ゆっくりしよう」

「ああ! イヴ!」


 落としたカタログを見向きもせず、彼女に抱きつく。


「嬉しい!」

「引っ越してきてから初めてのデートだ。最高の一日にしよう」

「じゃあ、カメラは直接お店で買っちゃおっか! それに、家電製品は本物に限る! ね、イヴ、お買い物していい? 電子レンジとかほしいの!」

「この機会だ。必要なものは集めてしまおう」

「えー、嬉しいー! お買い物リスト用意しておかなくちゃ! 何買おうかなぁー! 冷蔵庫はあるから、あ、待って? 電気を使うための発電機は絶対じゃん! それがあれば……トースター、電子レンジ、掃除機……」


 あとは、


「テレビも買っちゃおうかなぁ!」

「それは」


 ――イヴリンが、あたしの顔を自分に向かせた。


「必要か?」

「……え」

「本当に、必要か?」

「……えー、でも……」


 あたしは、空いた壁を見た。


「テレビ置いてこそ、リビングじゃない?」

「箱でいいなら作ればいいだろ?」

「いや……飾りたいだけじゃなくて……」

「パレット」


 イヴリンが、耳に囁く。


「無駄遣いはしないんじゃないのか?」


 ――イヴリンの、冷たくなった声に、危険信号を感じる。こう言われてる気分だ。


 いらない。

 情報はお前を苦しめるだけだ。

 買ったら、作ったら、この手で壊す。


「……そうだね!」


 あたしはカタログを拾う。


「イヴが、そう言うなら」


 本棚に戻す。


「テレビはやめておこう。ね?」


 イヴリンが手を広げた。あたしはそれを見て、素直にイヴリンへ近づき、膝の上に座る。イヴリンが見つめてくる。あたしは従順だ。イヴリンがあたしの指にキスをした。イヴリンの唇の感触に、あたしの背筋がぞくぞくと反応してしまう。


「パレイ、……わたくしの考えが読み取れるか?」

「……なんだろう? わかんない」


 あたしはイヴリンを抱きしめ、イヴリンはあたしを抱きしめる。


「わかんないけど、イヴがしたくないことは、あたしもしたくない」

「……マゴットに会うのが楽しみだな」

「うん! きっと喜んでくれると思う。今から楽しみ! ……でも、イヴとデート出来ることが嬉しいから、もう、何でもいいや!」


 イヴリンの手があたしの頭を優しく撫でる。まるで、壊れ物を扱っているようだ。


「イヴも楽しみ?」

「そうだな。楽しみだし、不安でもある」

「不安なの? どうして?」

「お前を外に出したくないから」


 そのまま、ソファーに押し倒される。上から見下ろしてくるイヴリンの手が、あたしの頬を撫でた。


「外には危険なものが溢れている。確かにこの土地は安全だ。だが、全てが危険でないとは言い切れない」

「イヴは……相変わらず心配性だね」

「お前を傷つけたくない」


 イヴリンの手は、とても温かい。


「二度と、あんな顔をさせたくないんだ」

「……あたしね、嬉しい。だって、こんなに愛されたことないんだもん。イヴだけ。……こんなに愛してくれるの、イヴだけだよ?」

「愛してるさ。パレイ。ずっと……一目見た時から、わたくしの頭から、お前が離れない」


 イヴリンがあたしの額にキスをした。


「このまま、わたくしの腕の中にお前を隠して、全てから守れたらいいのに」

「……イヴ、痛み分けの約束はどこに行ったの? 背負いすぎないで」

「パレイ……」

「明日は二人の日だよ。ずっと……一緒にいよう?」


 イヴリンがあたしを抱きしめる。あたしはイヴリンの良い匂いを堪能しながら、ゆっくり瞼を閉じた。


 イヴリンがあたしに見せたくないものは、見なければいい。あたしはイヴリンが大好き。愛してる。だから、愛してるイヴリンが悲しむのであれば、あたし、見ないよ。


 貴女しか見ないよ。イヴ。


 あたしの手が伸びた。ゆっくり下りていき、優しく、母親のように、イヴリンの頭をなでた。

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