幕間:文化の違い

 フリアドには様々な種族がいる。



 という事は同時に、様々な文化があるという事だ。まだまだ未開の地も残っているし、どこで分かれたか分からない程、種族的にも文化的にも隔たりのある種族がぽこっと発見されたりもする。竜人族もその一種と言えるが、彼らの場合はさらに特殊なので例外とするが。

 で。私は皇女として認知されたが、皇女としてのお仕事、つまり公務はほとんどやらなくていいと言質を取っているし、実際その辺は主に「モンスターの『王』」に関係する実働による成果を上げて公務にかえてもらっている。

 とはいえ認知はされているので、皇女としての権力を使える。のはまぁ使わなければいいだけなのだが、認知されている以上は「皇女という最上級の賓客」扱いもされるって事でな。


「(私へのご機嫌伺い程、皇族というものに対する好感度という意味では徒労な行動もないと思うんですけどねぇ)」

「(周りはそうは見ないって事だ。諦めろ)」


 表面上はにこにこと穏やかな皇女スマイルを維持しつつ僅かな身動きで少し離れた場所で護衛の仕事をしているエルルと会話する。この場に私とエルル以外竜族がいないから出来る内緒話だな。ニーアさんやサーニャがいたらそっちにも伝わるから。

 現在位置がどこかというと、最初の大陸の北西の端あたりだ。どうやらイベント等をガン無視して最初の大陸の探索を続けていた召喚者(プレイヤー)がいたらしく、初見の種族を発見したはいいものの、相当威嚇されて近づけなかったという報告が検証班に寄せられたらしい。

 竜都の大陸で資料を調べた検証班により、彼らが獣人系の種族である事は分かった。ついでにどうやら竜族の事は知っているらしかったので、友好の橋渡し役として私が足を延ばすことになった、という訳だ。


「(確かに、友好関係を築くのに、皇族という身分は強いですからね。言ってはあれですが、未開の地でも通じるとは思いませんでしたけど)」

「(まぁ竜族(俺ら)を知ってるならその皇族は分かるだろうからな)」


 という訳で向かってみたら、まぁ、全力で大歓迎の上、彼ら流のおもてなしを受ける事になった訳だ。

 それはいいん、だけど、な。


「(ところでエルル。これ、ほんとに毒ではないんですか?)」

「(毒見はしたし、毒じゃなかったぞ。見た目はあれだが)」

「(大抵の毒は効かない自信がありますけど、それと味が酷いのは別の問題なんですけど?)」


 こらエルル。目を逸らすな。全体を見回すふりをして目を逸らすな。ちょっと。毒見をしたって事は食べたって事だな? 味は? ねぇ味は?

 というのも。

 ……この辺は川が海にそそぐ場所に近く、汽水域があってそこが彼らのメインとなる食料調達ポイントらしいんだ。当然主食は魚で、見せてもらったがちょっと変わった魚も泳いでいた。

 海の魚はいつかの釣りイベントでたくさん見たが、他の海となるとクランハウスがある島で釣りをするぐらいなのと、あの島の亜空間でのボーナスタイムぐらい。川の魚はほぼ見たことがないという事で、魚料理自体は楽しみだった、ん、だが。


「(あの、エルル。ちょっと。本当にこれ痛んでないんですよね? 明らかに腐ってるように見えるんですけど?)」

「(…………毒ではなかったぞ)」

「(味は腐った魚だったって事ですかそれ?)」


 だから目を逸らすな。

 ……うん。そうなんだ。指より細い小魚がどんぶりに盛られていて、時々動いてるんだけど……明らかに見た目が腐ってるんだよな。

 いや。時々動いてるって事は、こういう見た目の魚って可能性もあるんだけど。なんなの、このゾンビみたいな見た目の魚。え? こんな魚いたっけ? おかしいな、漁の様子を見せてもらった時にはいなかったと思うんだけど?


「(というか、私は踊り食いも腐敗を熟成と言い張る系のお肉も苦手なんですが!!)」

「(ちゃんと洗って毒にはなってないし腹も壊さないそうだぞ。特定の時期しか取れない魚で、それを一気に食べるのはとても贅沢だって言ってた)」

「(って事はやっぱり腐ってはいるって事じゃないですか!?)」


 腐った魚の踊り食いとか何の罰ゲームだ!? 私なんかしたか!?




 ちなみに覚悟を決めて食べたら、思ったより苦くも酸っぱくも無くてそこそこ食べられた。

 もう一回食べようとは思わなかったけど。見た目がキツ過ぎる。

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