第72話 暗闇ダンジョン二十階まで

 ベヒーモスの皮が手に入ったけど、マジックバッグを作るより、暗闇ダンジョンの踏破を目指すことにする。


「マジックバッグ小(劣)を防衛都市カストラ交易都市エンボリウムのオークションに出したいのだが、目立つから、時期をおかなきゃな!」

 それは、わかるよ! 二つとも(劣)が付いているし、変だもの。

「暗闇ダンジョンを踏破して、マジックバッグ小(劣)がドロップしたと言えば良いんじゃないのか?」

 ジャスは、早く金にしたいみたい。

「これまで、暗闇ダンジョンでマジックバッグなんかドロップしていないだろう! まぁ、防衛都市カストラの方は花街の顔役に頼めば、なんとかなりそうだ。美容液もあるしな!」

「それにいざとなったら、魅了付きの宝石もあるんじゃない?」

 二人はギョッとした顔になった。花街では、需要がありそうなアイテムだけど? 魅了されて、金を騙し取られる姿を想像したのかな?


「兎に角、金級になれば、出所を詮索されないさ」

 つまり、一個はオークションに掛かるけど、あと一個は様子見になった。

 それで、ベヒーモスのマジックバッグ作りは、後回しで、暗闇ダンジョン制覇を先にするんだ。


「休暇よりも、ダンジョン制覇を先にしたい!」

 ジャスは、纏めて休む方が花街に行きやすいからかな? まぁ、私も暗闇ダンジョンはサッサと終わりにしたい気分。


 と言う事で、十五階の転移陣から出発! 十六階は、また墓場だったけど、湿地帯よりはマシだよ。

 ただし、上から大きな吸血蝙蝠が攻撃してくるし、下からはスケルトン騎士やグールが這い出してくる。遠くからはスケルトン騎馬騎士が襲撃!


「ここって、他のパーティはいないの?」

 脳内地図マッパエムンディには白い点はどこにもない。

「迷宮ダンジョンの方が儲かるからなぁ」

 確かにね! 暗いし、臭いし、儲けにならないのは嫌だもの。

「まぁ、初心者から中級になった奴には、暗闇ダンジョンはかなり美味しいのさ。魔石や、スケルトンの剣、下級回復薬、聖水など、まずまずの儲けだ」

 ルシウスは、自分達もこのダンジョンにはお世話になっただろうと、ジャスに笑いかける。

「まぁなぁ! 食物ダンジョンは、下に降りないと儲からないからなぁ」

 でも、暗闇ダンジョンの後は、食物ダンジョンだよ! これは譲れない。


「それに、低層階に冒険者が多いから、氾濫を抑えられているから、良いんじゃないの?」

 あっ、それ! 前にオークダンジョンの低層階で良いから、参加して欲しいとギルドマスターに言われたんだ。

「それって、やはり有効なの?」

 ルシウスとジャスに笑われた。

「そうか! アレクは、冒険者になって半年もなっていないのか! ダンジョンで下層階を攻略するのも必要だけど、低層階をガンガン攻略すると、外に魔物が溢れるのを防ぐ効果があるのさ」


 つまり、防衛都市カストラ交易都市エンボリウムの間に沸いたオークダンジョンは、手付かずのままで、魔物が外に氾濫している状態なんだ。

「ヤバいじゃん!」

「当たり前だ!」と白猫レオに叱られた。

「だから、一刻も早くオークダンジョンを殲滅しないといけないのだ!」

 ただ、まだダンジョンも見つかっていないんだよね。


「草原の風、大丈夫かな? 雨季になったのに……」

 討伐しながら話している。暗闇ダンジョン、神聖魔法持ちの私と、ピカピカ武器を手にした星の海シュテルンメーアにはかなり楽なんだ。

 特にホーリーランス! ピカピカランスだと効果絶大! これって、女神様クレマンティアの贔屓なのかな?


 十六階は、隠し部屋もモンスター部屋もないから、さっさと十七階に降りる。

「ゲェ……!」

 また湿地帯だ! 白猫レオが黙って機械馬を出してくれたので、「ホーリー!」を掛けて急ぐ。

「隠し部屋があるけど……」

 もう良いんじゃない? と思うけど、ルシウスとジャスはやる気だ。

「かなり十八階へは遠回りになるけど……」

 私は、乗り気薄! でも、多数決で隠し部屋に行く。

 

「えっ、船?」 

 沼に船が浮かんでいると言うか、座礁している。

 その上、沼から巨大なカエルのグールが! グールじゃなくても気持ち悪いのに、半分腐っている。

「ホーリー!」全力で掛けちゃった。

 

 船に乗り込むと、グール海賊が襲撃してくる。

「これって幽霊船?」

 嫌な予感は当たって、グール海賊だけじゃなく、ゴーストもうじゃうじゃ。

「ホーリーランス!」で迎撃する。

 白猫レオは、少し考えていたみたいだけど「アレク、浄水を桶に出してくれ!」と言うので、アイテムボックスから桶を出して、浄水を満タンにしておく。


「機械ハチドリ!」

 ホーリーランスでグール海賊をやっつけながら、白猫レオか機械ハチドリに浄水を吸わせるのを見ていると、飛び立ってゴースト達に浄水の氷をぶつけている。

 あっ、これって水鉄砲でも良かったかもね! まぁ、作って貰わなきゃいけないし、ボトル付きにしなきゃ、すぐに浄水が無くなるか。

 機械ハチドリは、浄水を口に含みに帰っては、攻撃している。


「ゴーストは、機械ハチドリに任せて、グール海賊をやっつけるぞ!」

 三人でピカピカ武器で無双する。途中から、グール海賊に加えて、スケルトン海賊も出てきたけど、同じだよ!


 ただ、ボスのグール海賊船長は、毒の息を吐くので、バリアを張ってから、討伐した。

 荷物持ちの機械兵や機械騎士にドロップ品を拾わせるけど、目新しいのはスケルトン海賊の半月刀ぐらいかな? 

 船長のドロップ品は、道見鏡と魔導書だった。

「航海術? これって海に出なきゃ意味ないじゃん! まぁ、取り敢えずアイテムボックスに入れておくけどさ。しょぼくない?」

 

 白猫レオに尻尾で殴られて、このパターンは? と鑑定を掛けまくる。


「隠し金庫がある!」

 前の隠し部屋で出た鍵! 期待して取り出すとピッタリ! 開けたら、金貨と宝石がジャラジャラ!

 それと、何か曰くありそうな地図!


「宝の地図じゃないのか?」

 ジャスが期待しているけど、どこの地図かはわからない。山と川と海? それにバッテン! 何処だよ!

「まぁ、もしかしたら他の地図も見つかるかもな!」

 これもアイテムボックス行きだけど、塩漬け案件になりそう。


 十八階は、何故か火山地帯! 暑いし、硫黄臭いし、グールワイバーンはウザい。

 ここも脚が熱いから、機械馬を乗り換えながら進む。グール大トカゲは無視するけど、空からのワイバーンは討伐するよ。

「ホーリーランス!」がかなり有効。


 兎に角、十九階を目指して急ぐ。階段は、魔物がでないから、水分補給と休憩。

「暑いのは、嫌だ!」

 ジャスはかなり消耗しているから、下級回復薬を飲ませておく。


「なぁ、これって無理じゃねぇ?」

 十九階、浅い海だった。それも腐ったヘドロ臭が酷い。

「家具がドロップした木材があるだろう? それでボートを作るんだ!」

 白猫レオの無茶振り! 私には無理だから、やってもらおう!

 ボートというか、筏とオールというか、棒? 

 ジャスとルシウスが、棒というか櫂で地面を押して進めていく。


「隠し部屋があるけど……」

 やけくそで、隠し部屋の小島に向かう。

「クッソォ! 誰も海だとは言っていなかったぞ!」

 私は、知らないから仕方ないけど、ルシウスやジャスは、他の冒険者とも交流がある。

「誰も、ここまできていないんじゃない?」

 わざと秘匿するとは思えないけど、では私達がギルドに地図を売るかと言うと、どうだかなぁ? とも思っちゃう。

 面倒くさいんだもの!


「アレク、これは地図を売って欲しい!」

 ルシウスって、他の冒険者の事も考えるんだよね。

「まぁ、金も貰えるから良いけどさぁ」

 ここまできて、十五階まで帰るのって、気の毒だからね。

 隠し部屋には、グール海賊がドンチャン騒ぎしていたけど、瞬殺!

 ボスは、グール女海賊船長! 脚が見える、お色気ドレスだけど、腐っているからね。ジャスが瞬殺していた。

 グール女海賊船長から、魔導書と宝石と地図!

 魔導書は『支配術』! ヤバそう。白猫レオが欲しそうだけど、アイテムボックスにしまう。


「宝石は……鑑定! えっ、暗闇化? この付加って必要なの?」

 ルシウスもジャスも首を捻っているけど、白猫レオが馬鹿にする。

「暗闇にして暗殺とか、使い道はあるだろう」

 これって塩漬け案件予感だ。地図は、前の地図の続き。相変わらず海と山!


「全部集めたら、何処か分かるのかもな!」

 ルシウスは期待しているみたいだけど、何度も暗闇ダンジョンの隠し部屋を探索する気は無いよ。


 なんとか、二十階に辿り着き、乾いた墓地にホッとした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る