第71話 暗闇ダンジョンは甘くない

 私の聖魔法とピカピカ武器で、十五階まできたけど、何だか様子が変だ。

「おどろおどろしい雰囲気だな!」

 暗闇ダンジョンだから、ホラーな雰囲気なのは最初からだけど、空気が重い。


「アレク、ホーリー全開だ!」

 白猫レオの指示で「ホーリー!」を掛けると、少しだけ空気が軽くなった。

「ここのボスは、重力魔法持ちかもな!」

 えっ、白猫レオってダンジョン作ったんでしょう?

「瑣末な事など一々憶えていない!」

 酷い! でも、文句を言っても仕方ないから、脳内地図マッパエムンディで探索する。


「あっちの沼に隠し部屋があるけど……パスする?」

 見るからに毒がありそうな紫色のブクブク泡が出ている沼! そう、十五階は、薄気味の悪い湿地帯なんだ。

 足元は、ずぶずぶだし、腐敗臭もキツい。

「いや、二度とこの階は来たくないから、攻略しよう!」

 ルシウスも臭いには閉口している。ダンジョンに入る前に塗った松脂の軟膏を塗り直すよ。


 足元が悪いのに、湿地からスケルトン騎士やグールが湧いてくる。

「ホーリー!」全開だよ。弱った魔物に二人がトドメを刺すけど、なかなか進まない。

「機械馬を出してくれ!」

 裸馬では拙いから、騎馬騎士の馬だけ出してもらう。

 

「沼の隠し部屋まで急ごう!」

 白猫レオも臭いが嫌なのか、サッサと攻略したいみたい。

 機械馬で隠し部屋まで走る。後ろから、スケルトン騎馬騎士が追いかけてくるけど、先ずは隠し部屋を優先!


 この沼の水は毒がありそう。機械馬が弱っている。腐食されているんだ!

「召喚獣は、召喚しなおせば良いだけだ!」

 白猫レオは割り切っているけど、それで良いの?

 体重負荷の大きいジャスを乗せていた機械馬が倒れそうだ。

「新しいのに乗れ!」

 白猫レオが三頭出したけど、乗り換えのタイムロスで、後ろから追撃しているスケルトン騎馬騎士に追いつかれた。


「あいつらの相手は、騎馬騎士にさせる」

 召喚士としては、正しいのだろう。私は、使い捨てみたいでチクッとしちゃった。

「馬鹿か! レベルアップさせないといけないのだぞ!」

 それは、白猫レオもレベルアップするって意味なのかも。

 

 なんとか沼の真ん中の小島に着いた。隠し部屋は、階段を降りた場所だ。

 卵が腐ったような臭い! 硫黄かな?

「扉を開けるぜ!」

 ジャスも少し緊張しているみたいだ。

 扉を開けたら、そこは火山帯だった。


白猫レオ! 暗闇ダンジョンに火山? 可笑しいんじゃない?」

 思わず文句を言っちゃった。

「いや、出てくる魔物は、ほらグール大トカゲとか、グールワイバーンだから!」

 ルシウスもジャスも臨戦体制だ。

「ホーリー! ホーリー! ホーリー!」で私も先制攻撃だよ。

 弱って落ちたグールワイバーンをルシウスとジャスが仕留めて、グール大トカゲは、ホーリーランスでトドメを刺す。


 火山地帯なので、マグマが見える。落ちたら死にそう! 

 それに暑い! 快適シャツを着ていても、顔や下半身は暑さから免れないからね。

「もう一度、裁縫部屋に行かなくてはな!」

 ルシウスも、ズボンが欲しいみたいだけど、絹生地だから、ズボン下かな? ステテコ?

 そんな馬鹿な事を考える暇なんてない。

「ホーリー!」全開だよ。


 ホーリーで弱らせて、討伐していくけど、あの火山の麓のボスって、遠目でよく見えないけど……スケルトンドラゴン? 

「あれは、レッドドラゴンの骨だな。普通なら、炎攻撃には強いが、今はスケルトンだから、ジャスは炎の剣だ。アレクは、ホーリーランス!」

 ジャスは、炎の剣でぶった斬ろうとするけど、魔法耐性も物理耐性も強い。


「闇の火を吐くぞ!」

 白猫レオの注意で、バリアを張る。黒い炎で、バリアが壊れそうなので、二重、三重に張りなおす。

「アレク、ホーリーランスだ!」

 私のホーリーランスは、手に持っている槍のイメージに引き摺られて細いんだよね。

 白猫レオが騎馬騎士を召喚して、その武器の円錐形のランスを私に取れと言う。


「これって重そう!」でも、細いホーリーランスでは、スケルトンドラゴンには効かない。

 身体強化でランスを持ち上げて、振り下ろしながら「ホーリーランス!」を撃ち込む。

 ジャスとルシウスも攻撃に参加して、タコ殴りだ。

 ゼィゼィ、なんとかスケルトンドラゴンを討伐できたけど、竜の肝は期待できない。スケルトンだからね。

 

「おっ、宝箱だ!」

 スケルトンのドロップ品は、竜の骨だった。武器を作る素材に良いそうだ。弓を作ってもらおうかな?

 宝箱に期待しているルシウス! 鑑定したら、罠がある。


「開けたら毒が出るみたい!」

 離れた場所に置いて、白猫レオが召喚した機械兵に開けさせる。紫色の毒がシュッと出たけど、機械兵は平気みたい。

浄化ピュリフィケーション!」を掛けてから宝箱に近づく。

 中には、スケルトンドラゴンの盾が入っていた。


「へぇ、聖魔法以外は全て跳ね返すし、物理攻撃も軽減!」

 鑑定したら、優れものだった。

「これはジャスがマジックポーチに入れておけ!」

 ジャスは、スケルトンドラゴンの盾を持って、感じをつかもうとしている。


「ちょっとの間は、シールドバッシュの練習をしたい」

 炎の剣を出す為の大剣をしまい、ピカピカの大斧はベルトに挟んで、大盾を持って歩く。

 魔導書で得た「炎の盾!」で、十五階のグール騎馬騎士達をぶっ飛ばしていく。


 でも、段々とまた空気が重くなっていく。

「なぁ、これってベヒーモスじゃないのか?」

 ジャスの言葉に、ルシウスが首を傾げている。

「ベヒーモスは、中級ダンジョンボスだろう? 暗闇ダンジョンは二十階あるのに、十五階でベヒーモスが出るか?」


 可笑しい! 白猫レオを頭の上から下ろして、顔と顔を合わせて話をする。

「なぁ、なんかやった?」

 白猫レオは、素知らぬ顔だ。

「アレクが、ベヒーモスの皮が欲しいと願っているから、女神様クレマンティアのプレゼントではないのか?」

 マジで? ちょっとそれは困ります!


「ベヒーモスは、ベヒーモスでもグールだから、皮は腐っているかもな……ドロップ品なら大丈夫なのか?」

 まるで他人事の白猫レオは、置いておいて、三人で協議する。

「グールベヒーモスかも……」

 ルシウスとジャスは「そんな事だと思ったよ!」と笑ってくれたけど、本当に困るからね! 後で、教会に行って文句を言っておこう。


「ベヒーモスでも、グールだから、本体よりは弱い。スケルトンドラゴンに勝てたのだから、グールベヒーモスぐらい楽勝だ!」

 白猫レオの無責任な言葉に、涙がでそうだよ。

 臭いけど、ここで休憩して、回復薬を飲む。


女神様クレマンティアは、オークダンジョンの殲滅を命じられたぐらいだから、強くなるように中ボスを用意してくれたのだろう」

 ベヒーモスは中ボスじゃないと思うけど、これを倒すしかないのか?

「十階に戻る?」と二人に聞いてみる。


「いや、グールベヒーモスぐらい討伐できなくて金級は目指せない。ジャスは盾役! 俺は、大地の剣で戦う。アレクは神聖魔法とホーリーランスだ!」

 恥ずかしいスキルだけど「ファイト一発!」も叫んでおく。

 うん、グールベヒーモスなんか中ボスに思えてきたよ。ベヒーモスは、土竜のような、熊のような魔物だ。それが腐っている。非常にキモい!


 先ずは、グールだから「ホーリー!」だ。白猫レオは、機械騎馬騎士に総攻撃を命じている。

 ジャスの炎の盾! シールドバッシュ! かなり効いているけど、グールベヒーモスの重力魔法で、機械騎馬騎士が崩れ落ちた。


「バリア!」で直接攻撃を防ぎ「防御デーフェンスィオ!」で重力魔法を軽減する。

 ジャスのスケルトンドラゴンの盾に護られながら「ホーリーランス!」を連発。

 ルシウスは「大地の剣!」で連続攻撃! 重力系のベヒーモスには有効みたい。

 いざとなったら、女神様の裁きディヴァーインジャジメントを出そうかと思ったけど、なんとか討伐できた。


女神様クレマンティア! お願い!」

 教会に文句を言いに行くのはやめるから、ベヒーモスの皮をドロップさせて! 

『勝手な愛し子ね!』女神様クレマンティアの苦笑が聴こえた気がする。

「おお、ベヒーモスの皮だ!」

 私は駆け寄って、皮を抱きしめる。うん、腐っていない!

女神様クレマンティア、感謝します。でも、強敵を用意するのはやめて下さい!」

 これ、本当に重要だから!


 他にもドロップ品があり、大きな魔石とピカピカのランスだった。

「ははは、これでアレクも暗闇ダンジョンで無双できるな!」

 ジャスが大笑いしているけど、神聖魔法だけでも無双状態だよ。ホラーは嫌いなの!


「今日はこれまでにしようぜ!」

 ルシウスも疲れたみたい。それはジャスも私もだよ。全員に浄化ピュリフィケーションを掛けて、転移陣で地上に戻る。

 隠し部屋のドロップ品と中級回復薬以外は、全て売る。

 金熊亭に戻って風呂に入らなきゃ! いくら浄化ピュリフィケーションを掛けても、気持ち悪いからね。

白猫レオも洗わなきゃね!」 

 何百年、千年? も風呂に入ってないのだから。ブラッシングから念入りに綺麗にしなきゃね!

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