第68話 ぐだぐだの話し合い

 白猫レオは、次のマジックバッグを作れとうるさいけど、三人とも疲れたよ。何となく、本当にマジックバッグが作れるのかとか考えながらだったからね。

 ジャスは、裁縫のスキルを魔導書で得たばかりだし、私もサーシャの繕い物の経験だけだからね。えっ、前世? 裁縫なんかする人っている? 知識的にはあるけど、実際はボタンを付ける程度だったよ。


 まだ夕食には早い時間だから、部屋でエールを出し、前に女将さんにもらった干し肉をアテにして酒盛りだ。

「クランの金について話し合おう!」

 ルシウスは、本気でクランを作る気満々だ。

「それより、アレクや白猫レオの件を知られても良いメンバーがいるか? そちらも問題だぞ」


 ジャスの言い分も理解できる。私が女神様クレマンティアの愛し子なのは、内緒にして欲しい。いや、愛し子だったのはサーシャだけど……なんだか、ぐすぐすに愛し子扱いになっている。

 その上、初めの話では子どもをいつか産めば良いってだけだったのに、オークダンジョンの殲滅とか……神命が増えてるじゃん! エールを一気飲みしちゃったよ。


「それは、少しずつ信頼できるメンバーから教えていくとして、先ずはクランの本拠地と、それを支えるシステムを作らなきゃな!」

 いや、メンバーがいないのに本拠地を決めても駄目なんじゃない? とは思うけど、ルシウスの試算を聞いていたら、本当に金が必要なんだと思ってきた。


「いざとなったら、宿でも良いのだが……金熊亭は繁盛しているから借り切るのはナシなんだよなぁ」

 ルシウスも金熊亭は気に入っているみたい。風呂の設備は絶対に譲れない!

「クランで家を買っても、料理人や女中が必要になるからなぁ。それに、遠征中も食べさせなきゃいけないし……若手の育成をしたいのは理解できるが、現実は難しいな」

 ルシウスとジャスは、前からクランを作る事に関して話し合っている。


「なぁ、ルシウスはどんなクランを作りたいんだ?」

 これ重要! 私は、曖昧なイメージしかないからね。

「俺は、クランで若手の育成をしながら、大きな仕事をやっていきたい。ダンジョンの攻略も人数がいないと駄目だからな」

 それって、本来はギルドが考えるべきなのでは?

 疑問が顔に現れていたみたいで、ルシウスとジャスが苦笑する。


「俺やジャスは、先代のギルドマスターのお陰で初心者講習も受けられたが、それだけでは冒険者として食べていけるレベルにはならないのさ」

「そうそう、やっと鉄級から銅級になれるかどうかって感じだからなぁ。俺とルシウスはパーティを組めたからラッキーだ。つまりは、クラン内で初心者から中級者のパーティを作って、レベルアップさせたいのさ」

 

 ふうん、それは理想的だけど、その初心者を訓練して食べさせなきゃいけないんだ。

「まぁ、普通のクランは初心者を荷物持ちにしたりして食い扶持は自分で稼がせているけどな。それと、本拠地の掃除や下働きをさせたり……まぁ、クランによっては問題もある」

 そこら辺は、よく話し合わなきゃな。搾取はしたくないけど、おんぶに抱っこも嫌だ。


「訓練所も必要だし、ある程度の広さが必要だ」

 ルシウス、そんな大きな家を買うつもりだから、三万金貨ゴルディが必要だと思っているんだね。

「ああ、丁度良いから帳面に書く項目を決めたいんだ」

 アイテムボックスの中から買ってきた帳面を取り出す。


「前に話したけど、宿屋代、ダンジョンに持ち込む食料代などは、パーティ持ちにしたいと考えているんだよね」

 ざっとした経費を話す。それと、先日のオークションの収入についてもね。


「オークションの儲けの半分は、クラン開設資金に回して欲しいのだが……」


 ざっと、オークションの儲けを帳面に記入する。

 出品した方は二千二百金貨ゴルディになったけど、手数料を二百二十金貨ゴルディも取られている。

 千九百八十金貨ゴルディの儲けだ。

「ううん、オークションの手数料って高いよなぁ!」

 一割って酷いけど、ギルドで売るよりは高いんだよね。三人で割ったら、六百六十金貨ゴルディ! この半分を積み立て資金にするのかな?


「三百金貨ゴルディぐらいは良いだろう?」

 ルシウスは、ジャスを口説いている。私は、回復薬で儲けているのを知っているからね。

「そのくらいは良いが……大盾を買わなきゃいけないから、今はあまり出資できないぞ」

 いやいや、ジャスはルミエラちゃんには貢いでいるからじゃないの? まぁ、大人だし、他人が口を挟む話ではないよね。


 帳面に、先ずはオークションの儲けの半分を収入として記入する。一人三百金貨ゴルディずつ?

「へぇ、アレクって字が綺麗だな」

 ジャスの失礼な意見だけど、サーシャは最低限の修道院の生活の割には、ちゃんと字や計算はできる。あのクズ聖王の血だとは思えない。

 劣悪な教育環境だったけど、本当にサーシャって優秀な愛し子だったんだなぁ。


「俺は、当面の資金として千金貨ゴルディ入れておくよ」

 ルシウスは、かなり金を貯めているみたいだね。

「まぁ、俺も千金貨ゴルディぐらいなら……」

 へぇ、ジャスもルミエラちゃんに貢いではいるけど、金は貯めているんだ!

「私も千金貨ゴルディ!」

 二人に驚かれたけど、回復薬の収入があるからね。


 帳面に、三千九百金貨ゴルディを書き込む。でも、先は長いんだよなぁ。

 ここから、三人分の金熊亭の宿代を出すんだよね。

 二金貨ゴルディ掛ける三人で、六金貨ゴルディ! 一週間で四十二金貨ゴルディかぁ。


 お金は、袋に入れてアイテムボックスで保管しておく。

「なぁ、白猫レオ! 俺が死んだらアイテムボックスの中の物ってどうなるの?」

 これ、知っておきたかったんだ。

「外にぶち撒かれるかもな……誰かに譲りたいなら、遺言書を書いておけよ」

 ふうむ……今のうちは星の海シュテルンメーアのメンバーで良いよね。

「あっ、リリーに女神様クレマンティアのペンダントだけはあげて欲しいな」

 加護付きだからね。


「おぃおぃ、そんな物騒な話をするなよ!」

 ジャスが嫌そうに口にするけど、他の人はどうしているの?

「まぁ、冒険者はギルドに預けている金は、亡くなった時は誰に渡すか登録している奴が多いぜ」

 ルシウスが事務的に教えてくれた。ジャスは、ルミエラちゃんかクレアに残すのかな?


「陰気な話はやめにして、飲みに行こうぜ!」

 そろそろ夕食の時間だし、金熊亭以外で食べても良い。

「そうだな! 明日は、またマジックバッグ作りだけど、明後日は暗闇ダンジョンだ!」

 ええっ、やはり暗闇ダンジョンなの? 嫌だけど、白猫レオはホーリーアローとホリーランスの練習だと張り切っている。まぁ、兎も角、飲みに行こう!



 

 

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