第38話 魔導書とシャツ

 次の日はお休みだから、少し羽目を外すのかなと思ったけど、魔導書を試したくて、うずうずしていたみたい。


 金熊亭で、エールと量の多い食事をして、ルシウスの部屋に集合だ。

 私の部屋でも良いのだけど、女だとバレてから遠慮しているのかも。


 朝に回収した冷風機をアイテムボックスから出して起動させる。

「おお、涼しい!」

 この朝の冷風機の回収と出すのって、地味に面倒! まぁ、私のベッドマットも面倒なんだけどさぁ。


 ただ、冷風機を作動させたら、風が埃っぽい。金熊亭は、ベッドの下の埃とかちゃんと掃除してないからね。

浄化ピュリフィケーション!」を掛けておく。


「おお、こんな魔法が使えたら便利だな」

 ジャスとルシウスが期待しているので、アイテムボックスから魔導書を五冊出す。


「アレクは触らない方が良い。多分、どの魔導書も開く事ができると思うが、開かれた魔導書は白紙になってしまうからな」

 白猫レオに注意されたから、机の上に並べるだけにする。


「炎の剣、大地の盾、風の剣、癒しの風、疾風の矢」

 私が思っていた魔導書は、土の魔法とかだったけど、一つの魔法が使えるだけ?


「ううう、盾も良いが、剣の強化も欲しい!」


「俺は、盾は使わないから、剣だな!」

 

 ジャスの言葉に白猫レオが呆れる。


「盾を装備していないなら、余計に大地の盾があれば防御力がアップするのだ」


 ふうん、そういう感じなんだね。


「ルシウスとジャスが順番に欲しい魔導書から選んでいけば?」

 

 でも、二人は悩みに悩んで決められない。

「面倒臭いな、我が決めてやろう!」


 えっ、白猫レオなら適性が分かるの? でも、ちょっと良い加減に選んだだけみたい。


「ほら、ルシウスは風の剣、癒しの風。ジャスは炎の剣と大地の盾……疾風の矢はアレクかな? 矢が少しはマシになるかもな」


 ルシウスは、風の剣の魔導書を手に持ち。慎重に開く。

 パラパラパラとページが捲れて、魔導書は白紙になった。


「これで風の剣の魔法が使えるようになったのか?」

 不安そうだけど、白猫レオは素知らぬ顔だ。


「俺もやってみよう!」

 ジャスは炎の剣の魔導書を開く。パラパラパラとページが捲れて白紙になるのも一緒だ。


 でも、ルシウスもジャスも二冊目は開けられなかった。


白猫レオ! 開かないよ!」と私が抗議したら「交換したら?」なんて投げやりな言葉。

 それに、おねむみたいでルシウスのベッドでうとうとしている。


「まぁ、試して損はしないか」

 ジャスは癒しの風、ルシウスは大地の盾が開けられた。


「癒しの風?」

 ジャスはピンと来ないみたいだ。

「鑑定!」で調べてみると、炎の剣レベル1と癒しの風レベル1が出た。

 ここではレベル設定が生きている。ダンジョンでドロップした魔導書だから? 

「レベル1だけど、ちゃんと習得しているよ。使っていけば、レベルアップするんじゃない?」


 ルシウスも不安そうなので、鑑定してみる。


「うん、ルシウスも風の剣と大地の盾を習得しているよ」


 ううん、よくわかんない。ジャスは炎と風で相性は良さそうだけど、ルシウスのは風と大地ってイマイチ良くないんじゃないの?


ゲーム脳はどちらだニャニャニャニャニャン!」と眠そうな白猫レオに馬鹿にされた。


 こうゆう奴いるよね。飲み会とかで、ぼんやり眠たそうで会話にも加わらないくせに、悪口の時だけ生き生きしちゃう奴!


「魔導書は、自分の使える魔法とは違う体系のも稀に使えるから便利なのだ」


「あっ、そういう感じなんだね。じゃあ、私は疾風の矢は要らないかも」


 矢は使えるから、そう口にしたのに、全員に「必要だろう!」と言われた。


 まぁ、魔導書に興味があるから試してみるけどね。


「疾風の矢……へぇ、こんな感じなんだ」

 風に矢が乗る感じかぁ、良いかもね! 

「「「今度、試してみよう!」」」


 意見が一致したけど、もう白猫レオが本当に寝落ちしそうなので、部屋に連れて行く。


 ついでに、ジャスの部屋も浄化ピュリフィケーションして、冷風機を出しておくよ。


 すやすや眠る白猫レオは、とても可愛いけど、神様ガウデアムスなのを忘れては駄目! と自分に言い聞かせる。

 お風呂は明日にして、浄化ピュリフィケーションを掛けて眠る。



「おぃ、起きろ!」ジャスが騒いでいる。


「休みだよねぇ……」と扉を開けると、ルシウスと二人で、ソワソワしている。


「朝飯の後でシャツを仕立てに行こうぜ!」

 うっ、ヤバい! 仕立て屋で女だとバレる! と一瞬、ドキッとしたけど告白した後だった。寝起きで、頭の回転が止まっていたのかも。


「それと、魔法の練習もしたい! 何かダンジョン以外の依頼を受けても良いかもな」


 それは、休日になっていないよ!


「ジャス、それは後で良いんじゃないか? それより、売る物を整理して、ギルドに持っていこうぜ!」


 ルシウスの銀のポーチに、大量のぬいぐるみと人形を押し込む。これ、マジに要らないから売却! 絹の糸と絹の布も、売却! 


「上級回復薬は、万が一の時に置いておこう! アレクと俺が持つで良いか?」


 ジャスは文句は無いと頷く。


「馬車の部品が邪魔だけど、部屋の中では組み立てられないな。機械馬に引かせたら、移動が楽になるのか?」


 これまで、交易都市エンボリウム自由都市群パエストゥムに移動する時は、護衛依頼を受けていた。


「自前の馬車があれば、そこで眠れるけど……あああ、マジックテントがあるか!」


「そうだな! 今は、オークダンジョンからオークが沸いている異常事態だけど、普段なら星の海シュテルンメーアだけで移動できるんじゃないか?」


「昼は、馬車で移動して、夜はマジックテントで眠り、機械兵に見張りをさせる! いけるよね?」


 三人で言い合って、わいわい騒ぐ。女将さんが「朝ごはんは良いのかい?」と下から叫んでいる。


「いる!」とドカドカ下りる。白猫レオを忘れて、慌てて抱き上げたら「ふん!」とご機嫌斜めだった。


 近頃は、女将さんに甘えて、ミルクや柔らかく煮た肉を貰っているんだ。見た目が可愛いから得だよね。


「素敵なティアラを付けて貰ったんだね! 可愛さ倍増だよ」


 白猫レオが「ニャン!」と鳴くと、ミルクのお代わりを女中が素早く持ってくる。良いご身分だね。


 この日は、不要な物をギルドで売却し、シャツを仕立て屋で頼み(ギリギリ三着)、金熊亭の馬小屋で機械馬二頭と馬車を組み立てたのを出した。

 うん? ピカッって光ったんだけど?


「へぇ、なかなか良い馬車だな?」とルシウスとジャスは笑っているけど、何か変な感じ。

 これって……扉を開けたら、そこは居間だった。


「ええっと、これはマジック馬車なの?」


 白猫レオも少し驚いている。

「ザコの馬車のドロップ品からマジックアイテム? まぁ、アレクは女神様クレマンティアの愛し子だから、贔屓されているのではないか?」


 ルシウスとジャスは頷いているけど、「愛し子じゃないよ!」と一応は言っておく。愛し子はサーシャで、私はリリーフ投手みたいなもの。次の愛し子との中継ぎだ。


 残った部品でギリギリ組み立てた馬車は、ごく普通の良い馬車だった。

「これは売ろう! いや、クランを作ったら……いや、売ったら良いな!」

 マジック馬車、十人乗っても大丈夫そうだからね。


 準竜の肝で中級回復薬を作ろうと思っていたけど、やはり迷宮ダンジョンの疲れを癒す事に使うことにした。


 つまり、スイーツを食べに行って、新作の焼き菓子を買ったんだ。因みに、白猫レオ連れで、イートインは無理かな? と思ったけど「きゃぁ、可愛い」「キュートなティアラ!」と許可された。


 ミルクとサイコロ状にカットして貰った焼き菓子を、一番良いソファの上で食べている。

 前世なら駄目だけど、ここでは可愛いが正義みたいだ。

 だって、性格の悪さを知っている私でも『可愛い』と思っちゃうんだもん!

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