第25話 水掛け婆になった気分

 五階の転移陣から六階を攻略していく。


「ああ、そういえば六階から建物があったんだな」

 ジャスは、暗闇ダンジョンは一度ぐらいしか潜っていないみたい。私も遠慮したいから分かるよ。


 建物と言っても小屋程度だし、そこを迂回しても良いんじゃない? そう思ったけど、脳内地図マッパエムンディで見たら、四角い点がある。


「宝箱がたまにあるから、小屋を探さなきゃいけないのさ。ただ、前の冒険者が開けた後だと、あまり期待は出来ないけどな」

 

 ジャスと私は気乗り薄だけど、ルシウスに宝箱の位置を教える。


 小屋の中には、スケルトンとグールが待ち構えていた。


「えぃ!」と浄水を柄杓で掛ける。


 これは楽だね! 浄水を掛ければ、討伐完了。


「アレク……」とルシウスが少し残念そうだけど、宝箱を見つけてご機嫌だ。


「ああ、下級回復薬かぁ」

「まぁ、そんな物だろうな!」

 

 私とジャスは、サッサと十階まで踏破して、暗闇ダンジョンからおさらばしたい気分。



 それなのに、ジャスに裏切られた! 七階は良かったんだけど、八階にはお屋敷が建っていたんだ。


「九階への階段は、何故か二階にある。だから、この屋敷は攻略しないといけないのさ」


 下への階段が二階にあるのって、変だよね! 脳内地図マッパエムンディで確認すると、確かに二階にあった。


「あれ? 地下室があるんだけど……これって隠し部屋かも?」


 言わなきゃ良かったよ! モンスター部屋は、私の浄水掛けとルシウスの無双でクリアしたんだ。

 ボスは、スケルトン騎士だった。まぁ、ルシウスがピカピカの剣でやっつけたけどね。


「おおお! ピカピカの斧だ!」

 そう、これが見つかってから、ジャスが調子に乗ったんだよ。


 ルシウスのピカピカの剣とジャスのピカピカの斧! 二人で楽しそうに無双している。


 九階からゴースト系も出てきたけど、ピカピカ無双は止まらない。

 スケルトンは、剣や武具をドロップする事が多い。グールは、魔石や下級回復薬。そして、ゴーストは魔石と下級と中級回復薬をドロップする。たまに聖水もだけど、これは私には不要だね。



 十階は、また墓場だ。それに、古びた教会が建っている。ホラーな雰囲気を盛り上げるように鐘が寂しそうに鳴る。


 脳内地図マッパエムンディで調べると、ここも教会の中に階段がある。


「ううん? 井戸があるけど……」


 教会の裏に井戸があり、隠し部屋になっている。


「これって、この釣瓶で下りるの? 下でスケルトンとグールが待ち構えているんだけど……諦めよう!」


 でも、二人はやる気満々だ。


「ここは、皆も知らないと思う。つまり、お宝が期待できるんだ。アレク、ピカピカのナタか弓かもしれないぞ!」


「いや、浄水をつけたら同じ効果があるから、必要ないよ」と遠慮しておく。


 でも、二人は諦めない。脆そうな釣瓶の縄に手を掛けている。


「縄なら持っているから、そっちにしなよ! それと、待ち伏せされているから、浄水を掛けておく」


 桶いっぱいの浄水を掛けたら、ほとんどの魔物は消えた。


「おっ、ボスは司祭だ!」

 司祭のゴーストってあるんだね。二人は、これは期待できると喜んでいるけど、井戸の底に降りなきゃいけないんだよ。


「縄を括って、下へ……」なんて言っている隙に、二人は飛び降りた。


「グァァァァ!」と怒りの声を上げている司祭のゴーストに、ピカピカ剣とピカピカ斧で攻撃する。


「なかなかしぶといな!」

 これまでの暗闇ダンジョンの魔物は、一撃だったけど、司祭ゴーストの周りには黒い闇が取り巻いている。


「上から浄水を掛けるよ!」

 バシャン! と浄水を掛けたら、一瞬だけ黒い闇が消える。そこを見逃すルシウスとジャスではない。


「グァァァァ……!」と司祭のゴーストは消えた。神様ガウデアムス、ちょっと趣味が悪いよ!


「おっ、宝箱をドロップしたぞ!」

 ルシウスは嬉しそうだけど、先ずは上がって来い。

 

 縄を落として、荷物持ち達に二人を引っ張り上げて貰う。それから、荷物持ち二人を下ろして、ドロップ品を拾わせる。


「何かな?」ルシウスが期待に満ちた目で宝箱を見ている。


「鑑定!」を掛けてから開けると、宝石がついた金鎖がジャラジャラ! やはり司祭って金持ちだな。清貧とか縁がないのが、女神様クレマンティアにクソと呼ばれる原因だ!


 十階の転移陣前のボスは、神官だった。司祭に比べたら、しょぼいね。ドロップ品は、回復薬と聖水!


「さぁ、帰ろう!」もう二度と御免だよって気分なのに、二人は「また潜ろう!」と笑っている。


 ピカピカの剣をルシウスにあげたのが間違いだったよ! それに、ジャスにピカピカの斧を見つけたのも大失敗!


 地上に戻って、浄化ピュリフィケーションを全員に掛ける。ほのかに漂う腐った汁の匂いなんて嫌だからね!


「これらを精算してくれ!」

 ピカピカの斧と宝箱以外は、全部売る!


 精算の間にエールだよ!

「なぁ、明日も暗闇ダンジョンに潜ろうぜ!」

 ジャスは、まだピカピカの斧を使い足りないみたいだ。

「アレクがいるなら、十五階まで行けそうだ!」

 グィッとエールを飲み干して、ドンとジョッキをテーブルに置く。


「俺は、暗闇ダンジョンはもう御免だ!」

 精神耐性があっても、苦手な物は苦手! それに、ドロップ品にも興味が惹かれないからね。聖水とか回復薬は、自分が作った方が高性能なんだもん。


「アレク、下の階では上級回復薬もドロップするんだぞ」

 ルシウスが誘惑してくるけど……当分は御免だよ!


「そのくらいなら、食物ダンジョンの十五階を目指したい」

 あっ、ルシウスがやさぐれている。ゴールデンベアに遭遇したのに、食物ダンジョンだからハチミツがドロップしたんだ。しまったなぁ!


「黄金の毛皮……」

 虚な目になっているルシウスの背中を、ジャスがバシンと叩く。


「宝箱を見つけたじゃないか!」

 本当にルシウスってお金大好きだね。一瞬で浮上したよ。


「明日は休んで、明後日は迷宮ダンジョンに潜ろう!」


 初心者用は、迷路ダンジョンだったけど、中級者用は迷宮ダンジョンになるの?


「ハハハ、大きな宮殿の遺跡がダンジョンになっているのさ! ここは、下から上に登るパターンだ」


 それって、一階が一番大変そうだけど? 上は面積が狭くなるんじゃないの? 色々と疑問で頭がグルグルになったけど、潜ってみればわかるよね!

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