第23話 休日とは?

 トレントがドロップした肉、マジで美味しかった。イベリコ豚っぽい木の実の香りがしたんだ。


 ジャスは三枚も食べたし、ルシウスも二枚! 私は、一枚で十分だったけどね。


「食物ダンジョン十階踏破、乾杯!」

 エールを三杯飲んだから、満腹だ。

 チーズとハチミツ酒にシフトして、これからの予定を話し合う。


「明日は、休養にする!」

 ルシウスもダンジョンに潜った次の日は休んだ方が良いって感じだ。良かったよ、ブラック体質でなくて。


 それは、ジャスも私も賛成したから、すんなりと決まったんだけど……次のダンジョンで揉めた。


「次は、暗闇ダンジョンに潜るぞ!」

 ルシウスは、ピカピカの剣を試したいだけだと思う。


 私とジャスは気乗りがしない。ホラーは苦手だし……。


「暗闇ダンジョンかぁ……」


 ジャスにどんなのか聞く。ルシウスは、行く気満々だから質問しても無駄だ。


「スケルトンは、ぶん殴れば消えるし、臭くないからマシだ。ただ、グール系は臭い。それとゴースト系は、物理攻撃が効かないから嫌いだ」


 ハチミツ酒をガバって飲み干す。


「今回は、アレクがいるから、ゴースト系も討伐できる。暗闇ダンジョンにしようぜ!」


 ああ、これは説得は無理そう。諦めてハチミツ酒を飲む。臭いグール系の対策を練りたい。


 消臭グッズがあれば良いな。それと、魔力回復薬も欲しい。明日は、防衛都市カストラの中を色々と見て回ろう!


「あっ、アレク。矢の修理と補充をしておけよ。まぁ、暗闇ダンジョンは弓矢と相性が良いとは言えないけど……。それと、そろそろもっと性能の良い弓に買い替えても良いかもな」


 私の弓は、交易都市エンボリウムで買った物だ。初心者用に毛が生えた程度の性能なんだよね。


「ああ、明日は武器屋に行くと良い。ついでに胸当ても新調しても良いんじゃないか? 金はあるだろう?」


 うっ、胸当ては……女だとバレるのが嫌で、買い替える時期だとは分かっているのに後回ししていたんだ。


「それと、ブーツ! これから雨季になるから、防水性の高いヤツを買えよ!」


 ジャスは、見かけよりも気がつくんだよね。


「ああ」と答えておく。


「それと、明日の夜は『草原の風』の激励会をするから予定を開けておけよ! アレクの赤い短剣も欲しいそうだ」


 うん? 激励会? 首を傾げていると、ジャスが渋い顔をする。


「オークダンジョンの探索隊に参加するのか!」


 えっ、草原の風には女の人もいるのに?


「あいつら、探索は得意だからな。それに、今回はダンジョン制覇が目的ではなく、位置を確認して、制覇の為の基地を作るのが任務だ」


 確かに斥候には向いているチームだ。


「草原の風に下級回復薬と中級回復薬をやろう!」


 二人もそれが良いと頷く。やはり心配だからね。


「それで探索隊長は『金の剣』のマックスなのか?」


『金の剣』は、交易都市エンボリウムでマジックバッグのオークションの噂で聞いた名前だ。


「いや、『金の剣』のマックスは、上級者用のダンジョンに潜っている。半月は帰って来ないから『月の雫』が仕切るみたいだ」


『月の雫』って綺麗な名前だと思っていたけど、ジャスは嫌そうな顔だ。


「大丈夫なのか? 金級はリーダーのバッカスだけだろう。それに、銀級も今一つ頼りないな! 草原の風のシムスは、何故引き受けたんだろう」


 ジャスが心配そうなのが気になる。草原の風には弓の使い方を教わったからね。


「まぁ、ダンジョンを見つけたら、マークして防衛都市カストラに戻ってくるさ。そこからは、『金の剣』が制覇するだろう」


 ルシウスは、『金の剣』のマックスを信頼しているようだ。憧れの冒険者なのかもね。



 今日は休日なので、中級回復薬を作る。うん? 休日になっていないかも。


 オークダンジョンの探索隊を派遣するギルドに納めるだけじゃなく、草原の風のメンバーにあげたいからね。


「ついでに下級回復薬も作りたいから、カインズ商会で下級薬草を買おうかな?」


 ギルドでも下級薬草は売っているだろうけど、あのギルドマスターが苦手だし、私一人で行くと馬鹿が絡んでくる。


 でも、大失敗だったかも! カインズ商会に入った途端「アレク様!」とハモンドさんに捕まったんだ。前は「アレクさん」だったのに「様」に変わっている。


 嫌な予感!

「ギルドマスターから中級回復薬を出せ! と圧力を受けているのです。もう、大評判で完売したのというのに」


 ハモンドさんに泣きつかれちゃった。あのギルドマスター、本当に嫌いだ!


「それは……私のせいかも? 中級回復薬が作れるのを公表したくなくて、ルシウスにカインズ商会を通して貰う事にしたから……」


 グレアムさんも出てきて、部屋で話す。


「それは仕方ないですよ。あんな中級回復薬が作れると公表したら、拉致監禁されるかもしれませんから」


 本当にこの世界の治安は悪い! 


「まぁ、ギルドマスターはアレク様が作っているのは知っているでしょうが、口にしないのが大切です」


 つまり、カインズ商会を通して納入した方が安全みたい。


「ただ、今回のオークダンジョンの探索隊には、中級回復薬を卸値で譲って欲しいのです」


 あまり高価だと、困るだろうから。


「オークダンジョンが、防衛都市カストラの北に沸いたのは、交易都市エンボリウムにとっても死活問題です。商隊も安全に活動できなくなりますからね」


 グレアムさんは、商隊を心配するけど、開拓村や町も危険だよ!


「あっ、アレク様! こちらに下級薬草、中級薬草、それと錬金釜などの道具を用意しております」


 ハモンドさんに案内された調合部屋、何もかにもピカピカだ。それに、ザルに洗った下級薬草、中級薬草も山盛りになっている。


「これって……」ギロリとグレアムさんを睨む。ハモンドさんより落としやすそうだから。


「ああ、勿論、全て無料で提供いたします。できた回復薬をどこに売却するかは、ご相談させて頂きますが……ギルドにも納めますから、ご心配なく!」

 

 ふぅ、確かに金熊亭の中庭で作るより、錬金釜も腰の高さだから使いやすそう。

 調合台もあるから、刻むのも中腰でしなくて良いからね。


「お手伝いが必要なら……」とハモンドさんが押してくるけど断った。


「弓の良い物と、矢の補充、胸当ての上等なのと、防水性の高いブーツを買いますから用意して下さい」

 胸当ては、今のでジャストフィットだから、脱いで同じサイズのを注文する。


「そんなぁ、アレク様からお金を頂けませんよ」なんて、ハモンドさんが言うけど「別の商会で買います!」と言ったら、諦めたみたい。


 薬草は、洗ってはあるけど、浄水を出して、もう一度洗い直す。それに、ピカピカだけど、鍋も漉し器も瓶にも浄化ピュリフィケーションを掛けておく。


 この日は、午前中ずっと回復薬を作って過ごした。これで休日になっているのか、甚だ疑問だが、ルシウス達や草原の風に渡す下級回復薬、中級回復薬を除いて、全部、カインズ商会に渡した。


「当分は作れないから……それと、くれぐれもギルドには卸値で渡してくれ」


 新品の胸当て、なかなか良い感じだ。それにブーツも柔らかい皮なのに防水性が高いみたい。


 弓矢、かなり高価だったけど……性能は良さそう。これは、試し撃ちしたいな。


 夜の草原の風の激励会まで、『アンジェラ』でお茶しよう!

 

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