第13話 中級者用ダンジョンに挑戦 1

 ルシウスやジャスは、中級ダンジョンでドロップする依頼をチェックして、二人で潜るそうだ。

 私は、まだ十階まで潜っていないので、置いてけぼりなんだよね。


「さっさと、二人が潜っているダンジョンの十階まで行くぞ!」

 気合いを入れて、金熊亭の女将さんにパンを三個作って貰った。二個は、アイテムボックスに入れる。


 中級者ダンジョンは、一日で十階まで潜るのは無理だとルシウスとジャスが言うんだ。だから、今日はせめて五階までは踏破したいな。


 朝食の席で、二人からアドバイスしてもらう。


「一階から、初心者用のダンジョンの八階から十階ぐらいの魔物が出る」


 ふう、それは何とかなりそう。


「アレク、それに広いんだ! 初心者用のダンジョンの二倍以上あるから、無理するな!」


 ジャスに心配されたけど、早く一緒に潜りたいんだよね。


「先ずは、中級者用ダンジョン基礎を潜るんだな。あれは、防衛都市カストラの中にあるし、草原ダンジョンだから割と簡単だ。アレクなら、無理をしなければ十階ぐらい行けるだろう」


 へぇ、初心者用ダンジョンが防衛都市カストラの中にあるのは、初心者や子どもの荷物持ちに便利だからだと思っていた。


「他の中級者用のダンジョンは、当たり前だが防衛都市カストラの外にある。南門から馬車が出ているぞ」


 へぇ、まだ防衛都市カストラの中もちゃんと見学していない。防衛都市カストラに入ったのは北門からで、ダンジョンは南側にあるから、南門から出るんだね。


「荷物持ちを防衛都市カストラで雇っても良いかもな。南門には、荷物持ちをしたい子どもや冒険者がいるぞ」


 その場合は、荷物持ち用の馬車代も必要みたい。ふむ、ふむ、覚えておこう。


「アレク、初心者用のダンジョンは、草原系と迷路系しか潜っていないんだよなぁ。一度、暗闇ダンジョンも経験した方が良いかもな」


 暗闇ダンジョンは、スケルトンやグールなどあまり気が乗らない。


「お前は神聖魔法が使えるのだから、無双出来そうだ!」


 あっ、ルシウスがやたらと勧めるのは、ピカピカの剣を使いたいからかも。


「初心者用のダンジョンはもう良いよ。中級者用の暗闇ダンジョンに挑戦するよ」


 多分、普通の冒険者は、暗闇ダンジョンだと松明とか必要なのだろう。でも、私にはライトがある。この魔法は、使う魔力も少ないから大丈夫だと思うんだよね。

 それと、一人でグールとかを討伐するの、ちょっとね……ホラー系の映画は苦手だったんだ。できればパスしたい。



「なんで、お前達がいるんだ!」


 唯一、防衛都市カストラの中にある中級者ダンジョンに行ったら、ジルとサミーが人待ち顔で立っていた。


 周りにいる子どもは身体も大きく、もうすぐ冒険者デビューしそうな感じなので、隅っこで小さくなっていたけど、私の顔を見て、ニパッと笑って駆け寄ってくる。


「ここは、中級者用のダンジョンだから、強い魔物も出てくる。小さな子どもを荷物持ちに雇う気はない」


 振り切ろうとしたけど、ジルに回り込まれた。


「お兄ちゃんが中級者用のダンジョンに潜ると言うから待っていたんだ。だって、私やサミーは荷物持ちに雇って貰えないんだもん。でも、ちゃんと荷物は持てるだろう!」


「荷物は持てるけど、中級者用ダンジョンに出る魔物は強い。だから、子どもは……」


 危険な目に遭わせたくない。でも、あの初心者用のダンジョンに潜っている冒険者達、本当に実力不足なんだよなぁ。ビッグボアを三人掛かりで、討伐できるのか分からないレベル。


「仕方ない! でも、ここのダンジョンだけだからな」


 甘いとは思うけど、私が連れて潜った方が安全だ。


「ねぇ、中級者用のダンジョンだから、日当も上げてくれない?」


 少しこちらが譲歩したら、グィグィ押してくる。


「いや、これまでが高すぎたんだ。五階までだから、一銀貨クランだ」


 その声に、他の大きな子ども達が群がる。


「そんなチビ達より、俺を雇ってくれ!」


 やはり、一銀貨クランは高かったんだ! でも、一度、雇うと言ったからな。


「今回は、コイツらを雇うよ!」

 

 後ろから「騙されているぞ!」「足元見られているな!」と叫ばれたけど、甘いのは事実だから仕方ない。


 中級者用ダンジョンの周りには、壁が作られていた。そこに兵士が立っている。


 まぁ、食べ物の屋台やドロップ品を買い取る商人達もいるけど、初心者用ダンジョン前より、ちゃんとした建物になっている。


「このダンジョンに潜るのは初めてか?」


 初心者用のダンジョンでは、こんな質問はなかったよね?


「ああ」とだけ答えて中に入ろうとしたら「ギルド証を見せろ! ここは銅級以上じゃないと潜れない」と言われた。


 服の中から引っ張り出して、銅級のギルド証を見せる。


「入ってよし!」

 ちょっと面倒だけど、鉄級だと潜れないんだ。馬鹿が少ないと良いな。


「へへへ、お兄ちゃん、格好良いね!」

 ジルに煽てられたけど、全く嬉しくない。


「早く、十階まで潜らないとな!」


 基礎の中級ダンジョンの一階、凄く広い。それに、冒険者が多い。


「二階に行くぞ!」

 脳内地図マッパエムンディで調べて、二階への階段まで最短距離で歩く。


 下級薬草があちこちに生えていたけど、冒険者が多すぎるからパス! 立ち止まったら、絶対に絡まれそうだから。

 本当に、ルシウスやジャスみたいな大男だったらなぁと溜息を押し殺す。


「お兄ちゃん、下級薬草は良いの?」

 ジルは、下級薬草を見つけて、採りたそう。


「ああ、この階には冒険者が多すぎる。二階や三階で薬草採取をしよう」


 赤い魔物の点より、白い冒険者の点を避けながら、階段を目指す。


「ビッグボアだ!」


 二人を後ろに行かせて、先ずは弓で攻撃する。草原の風に、目を強化して、ターゲットを意識、そして素早く射る方法を教わった。

 素早く射るのが一番私には難しい。


 それでも、ビッグボアが一頭だけなら、矢で仕留める事ができるようになった。


 本当に何回見ても不思議だけど、ビッグボアを討伐したら、肉に変わる。


「サミー、矢もできるだけ拾うんだ!」


 ジルが先輩顔で指示している。ただ、弓は……使用不可能になっている場合も多いんだよね。


「せっかく、拾って貰ったが……曲がっている」


 私が捨てようとした矢をジルが拾う。


「練習になるから、もらって良い?」


「それは良いけど、曲がった矢で練習しても上手くならないぞ」


 ジルは、ニヤリと笑う。


「真っ直ぐにしてくれる爺がいるんだよ」


 まぁ、それならあげても良い。アリシア町のオーク襲撃の時に、山程の矢を貰ったんだ。アイテムボックスにいれてあるからね。


 ビッグボアや火食い鳥カセウェアリーに遭遇しながらも、二階に下りる。


「二階も冒険者が多いな……三階に行こう!」


 ここには、少しずつ木が増えている。だから、木の陰からビッグボア、火食い鳥カセウェアリー、そしてコカトリスもたまに遭遇する。


 冒険者を避けながら、三階へ進むんだけど、一階より遭遇率が高い。


 ビッグボア三頭、火食い鳥カセウェアリー四羽、そしてコカトリス一羽。


「お兄ちゃん、凄いね!」とジルが褒めてくれるけど、このくらいなら大丈夫だ。

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