第10話 迷路ダンジョン 1
ジルと約束したダンジョンの前に着くと、小さな男の子を連れていた。同じ年には見えないよね?
「アレク兄ちゃん! おはよう!」
愛想が良いのは、嬉しいが、子守りをする気はない。
「ジル、その子は?」と聞いたら、ニッコリと笑う。
「この子は、サミー! 身体が小さいから荷物持ちに雇われないんだ。でも、サミーも身体強化は使えるから……だってお兄ちゃん、今日も十階まで行くんだろう? 一人じゃ、荷物がいっぱいになるじゃん!」
確かに小柄なジルよりも小さいから、荷物持ちに雇う冒険者はいないだろう。それに、ジルと違って大人しいのか、サミーは黙って頷いているだけだ。営業力も無さそう!
「良いけど、二人に増えたからといって、料金は二倍にはならないぞ!」
「ええっ! ケチ!」とか喚いているけど、昨夜、ルシウスに初心者用のダンジョンの荷物持ちの日当の相場を訊いたんだ。先に聞いておけば良かったよ!
「ははは、吹っかけられたな!」と大笑いされちゃった。
「十階までで一
チェッと舌打ちするジルだけど、手のひらを返して、縋り付く。
「もうすぐ雨季がくる。屋根がある場所で寝る為の金が必要なんだよ。二人で三
私は、甘ちゃんだ! それに、今は懐が暖かい。子どもが雨の中、屋根が無い路地で寝るなんて考えたら、駄目だった。
「今日で、初心者用のダンジョンは卒業だから、それの前祝いだ!」
今日のダンジョンは、私の想像していたダンジョンに近い。
ただ、やはりダンジョンの入り口の周りに、食べ物屋やドロップ品の買取り商人達がいるのが、私には違和感があるけどね。
「迷路のダンジョンに潜るのは初めてなんでしょ? 地図は買わないの?」
地図を売っている商人の前で、ジルが立ち止まる。
「ああ、地図は必要ない」とスルーしたけど、ジルは不安そうな顔をする。
「俺は、魔法使いだから、道には迷わないのさ」
コソッと教えたら、とても勢いよく頷いた。
「そうだったね!」
迷路ダンジョン、本当に迷路になっている。
「へぇ、明るいんだ!」
暗いと大変だけど、ほんのりと明るい。
「暗いダンジョンもあると聞いたよ。そこには、スケルトンやグールや吸血鬼なんかが出るんだよ!」
サミーがブルブル震えている。冒険者に向かないんじゃないのかな?
「そんな薄気味が悪いダンジョンは潰したら良いんじゃないのか?」
人気も無さそうだしさぁ。
「お兄ちゃん、何も知らないんだね。そんなダンジョンの魔物は、武器や回復薬や聖水をドロップするんだって。だから、冒険者は定期的に潜るんだよ」
へぇ、知らなかった!
「
冒険者も、あちこちに白い点で見える。近づかないようにしよう!
通路は、人が三人ぐらいしか通れない感じだけど、所々、広い場所がある。戦うなら、ここかな?
あと、輝く四角い箱!
「おっ、宝箱、見つけた!」
そちらに向かう途中で、スライムに出会った。
「バリア!」でぶった斬ったら、コロンと小さな魔石がドロップした。
他の冒険者に宝箱を見つけられる前に開けたい。
角を曲がって、曲がって、端の方に行く。
「何も無いじゃん!」とジルが騒ぐ。
「ふふふ……何も無さそうだけど……ほら!」
行き止まりの壁に手を突っ込むと、そこに宝箱があった。
「へぇ! 凄いや! 開けて! 開けて!」
爆発する罠とか、ミミックとか嫌だから「鑑定!」と呟いてから開ける。
「ふうん、短剣かぁ」
ナイフの代わりになるかもね。
「良いなぁ!」とジルは羨ましそう。
「うっ!」二階に降りる階段の所に、冒険者が屯している。
「嫌だなぁ……」とぶつくさ言いながら、そこに行くと、馬鹿が通せんぼしていた。
「おぃ、スライムの魔石を置いていけ!」
「こんな事をするより、ダンジョンを攻略した方が得だと思うけど?」
それに、魔物と冒険者を避けて一階を攻略したから、スライムの魔石も一つしかない。
「うるさい!」と馬鹿の一人が殴りかかって来たので、回し蹴りの練習をする。
うん、少しは練習の甲斐があって、一蹴りでノセた。
あと二人も、諦めずに殴りかかってくるので、回転蹴りをしたけど、一人は当たりが弱かったみたい。
「お前らも戦え!」
「おぃ、荷物持ちの子どもを使うのか? 最低ぇだ、お前は許さないぞ!」
腹が立ったので、つい急所を蹴り上げちゃった。
他の馬鹿と一緒に、そこに転がしておく。スライムしか出ない一階だから、大丈夫だろう。
「あのぅ、俺たちどうしたら?」
荷物持ちの子ども二人が縋るような目で見ている。
「一階なんだから、出口まで行けば?」と突き放したいけど「道がわからない」と泣きつかれた。
二階は、時々、アルミラージが出るけど、サッサと三階を目指して、荷物持ちの子どもを四人引き連れて歩く。
「お前たちは、雇われていないんだから、五階で出るんだぞ!」
ジルが偉そうに二人に言い含めているから、任せよう。
三階に降りた時、
それに、白い点が赤い点に取り囲まれている。
「なぁ、助けなきゃいけないかな? 冒険者が魔物に囲まれているんだけど」
冒険者は、基本は自己責任だ。
「えっ、三階なのに? ここは、アルミラージか
荷物持ちの子どもに質問するだなんて、ちょっと恥ずかしい。
「……沸いたのかも……」
ボソッとサミーが呟いた。
「沸き?」後ろの二人も青い顔になっている。
もう少し詳しく
「沸くってほどでもなさそうだけど……キラービーに囲まれているな。こんな迷路に巣があるのか?」
キラービーを討伐するより、巣を潰した方が良さそう。それに、冒険者を取り囲んでいるキラービーも巣を攻撃したら、戻るんじゃないかな?
「ええっと、キラービーの巣は……
巣を探したら、冒険者が囲まれている広場から離れた迷路の行き止まりにあった。
「さぁ、行こうか!」
ハチミツ、甘味が少ない世界ではご馳走なんだ。南の大陸では砂糖の栽培もしているそうだけど、庶民には高い。
なるべく、キラービーに囲まれている冒険者に近づかないルートを頭の中で考えながら進む。
「お兄ちゃん!」
冒険者達が攻撃したのか、巣の周りには興奮したキラービーがブンブン飛び回って警戒している。
「皆、その場所を動くなよ! キラービーは、動く物を追いかける習性があるから」
四人が固まっている間に、巣とキラービーを「バリア」で囲む。
「後は、少しずつ狭めていけば……空気を抜いた方が早いか?」
空気を抜いたら、バタバタとキラービーが下に落ち、ハチミツの瓶や羽や針のドロップ品に変わる。
「ハチミツの瓶?」呆れちゃうけど、冒険者を囲っていたキラービーも戻ってきた。
「バリア!」で囲んで、空気を抜く。
「巣は、なかなか消えないなぁ」と思っていたけど、パッと消えて、大きなハチミツの瓶、そして大きな針がドロップした。
「針に手を刺さないように、この袋に入れろ!」
ついてきた二人も拾おうとするけど、ジルに止められる。
「お前たちの仕事じゃない!」
シャーって威嚇する猫を見ているみたいだ。
「いや、日当の半分は払うから、早く拾え! 冒険者達が来たら面倒だ!」
キラービーに囲まれていた冒険者が、こちらに近づいている。
なんとかドロップ品を全部拾った時、冒険者達が走ってきた。
「俺たちの獲物だぞ!」
ふぅ、馬鹿じゃないのかな?
「お前たちが倒したわけじゃないだろう」
無視して、下に行こうとしたけど、通路を塞がれた。
「ドロップ品を置いていけ! そうしなければ、痛い目にあうぞ!」
本当に冒険者って馬鹿ばかりなんじゃないの?
「ちょっとは頭を使え! お前達は、キラービーに囲まれて何もできなかったのだろう? 巣ごと討伐した俺を、どう痛い目に遭わせるんだ?」
押しのけようとしたら、武器を抜いた。
「俺に武器を向けたな! なら、容赦しないぞ」
とはいえ、まだ先があるからバリアで囲って、巣があった行き止まりに押し込めておく。
「おおぃ、出せ!」とか騒いでいるけど、頭を冷やした方が良い。
ただ、ここでも荷物持ちの子どもが二人増えた。
「お前ら、五階までだからな!」とジルが偉そうに言っている。
「でも、俺たちは日当が貰えるんだぞ! だから、下までついて行く。お前たちは、五階までだ!」
さっき、サッサとその場を去りたくて、後からの二人にもドロップ品を拾わせたの失敗だったな。
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