第9話 ダンジョンに潜った後はエールだろう!

 ダンジョン前でジルと別れて、火食い鳥カセウェアリーの卵を売りに冒険者ギルドに行く。


 ついでに、依頼に火食い鳥カセウェアリーの卵があれば、ギルド昇給ポイントが貰えるかも? と下心もあった。


「ええっと、銅級の依頼は……あった!」


 へへへ、火食い鳥カセウェアリーの卵の依頼票を持って、清算の列に並ぶ。


「これ!」

 依頼票と火食い鳥カセウェアリーの卵二つをカウンターに出す。


「ギルド証を出してください」


 あっ、忘れていた。このところ、清算はルシウス任せだったから。失敗!


火食い鳥カセウェアリーの卵、一つで五銀貨クランなので一金貨ゴルディです」


 それと頼み事もあるんだ。

「下級回復薬の瓶を売ってくれないか?」

 冒険者ギルドで、下級回復薬を売っている。だから、空き瓶の回収もしていると思ったんだ。新品を買うより、安いんじゃない?


「下級回復薬の瓶ですか? あるのは、ありますが……基本的に薬師に売るのですが……」


 受付の黒髪のマリーナちゃん、ちょっと疑っているみたい。適当な色水を冒険者に売るつもりだと思ったのかな?


「マリーナ、ギルドマスターがその人には売っても良いと言っていたわ」


 おお、昨日の資料室にいたルーシー! ナイスタイミング! っていうか、ギルドマスターの知り合いなの?


「それなら……何本必要ですか?」


「あるだけ!」と答えたら、二人に笑われた。ここは大きな冒険者ギルドだし、いっぱいあるんだろう。


「取り敢えず、三十本!」


 空き瓶は、一本で二銅貨ペニー。六銀貨クランを支払う。


「用意致しますので、お待ち下さい」


 ルーシーの方が、マリーナより先輩なのかな? しっかりしているから任せよう。


「ああ、じゃあ、あっちでエールを飲んでいるよ」


 冒険した後は、エールだよね! 前は冒険者ギルドに酒場があるのって、不思議だったけど、ありだよなぁ。


「ぷふぁ!」生ぬるいエール、これを飲んだらホッとする。

 それに、前世のビールほどはアルコール度数が高く無いから、宿に帰ってから下級回復薬も作れる。毒耐性のお陰もあるのかもね。


 気分良くエールを飲んでいるのに、ここには馬鹿な冒険者が多い。


「おぃ、見かけない顔だなぁ! 俺のマリーナちゃんを困らせるなよ!」


 お前のマリーナちゃんじゃないのは確実だと思うが、無視しよう。


「ルーシーさんに馴れ馴れしいぞ!」


 受付嬢が可愛いのって、面倒が増えそうだ。おばちゃんやおじちゃんで良いんじゃないの? まぁ、マリーナやルーシーが悪いんじゃなくて、ウザ絡みしている馬鹿どもが悪いんだけどさ。


「おおぃ! 初心者用のダンジョンの五階で、冒険者が立ち往生しているぞ!」


 何人かの冒険者がギルドに駆け込んで騒いでいる。お陰で、ウザ絡みしていた奴等も、そっちに注意が向いた。


「初心者用のダンジョンで? それも五階? そいつら、冒険者を辞めた方が良いな!」


「いや、罠じゃないのか?」


「ない、ない! 初心者用のダンジョンだぞ!」


 他の冒険者達は、ゲラゲラ笑っているけど、私は「しまった!」と慌ててバリアを解いた。


「アレクさん? 空き瓶です」


 ちょっと上の空だったので、ルーシーに怪訝な目で見られちゃった。箱に入れた空き瓶を受け取る。


「ああ、ありがとう!」と席を立とうとしたら、ちょっと呼び止められた。


「アレクさん、ギルドマスターが下級回復薬をこちらにも売って欲しいと言われていますが……」


 うん? その話って、受付の女の子にも知られているの?


「ダンジョンの探索隊に必要なのです」


 ああっ、ルーシーの真剣な目! きっと、その探索隊に知り合いか、恋人が参加するんだね。


「ルーシーさん、俺は適正価格で下級回復薬を売るよ。でも、交渉は苦手なんで、リーダーのルシウスに任せるとギルドマスターにも言ったんだ」


 本当に、ケチでしっかりしているルシウスと知り合って良かった! 



 金熊亭に戻って、部屋に荷物を置く。ひとっ風呂浴びたい気分だけど、先に下級回復薬を作ろう!


「なぁ、中庭で火を使っても良いか? それと、井戸の水も使わせて欲しい」


 下に降りて、女中に訊ねる。


「それは良いけど、薪は料金を取られるかもね」


 そんな事を話していたら、女将さんが庭に顔を出した。


「お客様なんだから、薪代なんていらないよぉ!」


 おお、それはありがたい! 掃除とか大雑把なところがあるけど、金熊亭、なかなか良い宿だね。私って、現金かな?


「なんだぁ、こんなに小さな釜なんだね」

 女中も、小さな錬金釜を見て、笑いながら薪を数本持ってきてくれた。


「これが終わったら、お風呂をお願いしたい」


 お風呂だけなら銅貨ペニーを二枚のチップだけど、銅貨ペニー三枚渡しておく。


「この前、お風呂に入ったのに?」

 毎日、お風呂に入るのが日本人の常識なの!


「今日は、ダンジョンに潜ったからね」と誤魔化しておく。

 浄化ピュリフィケーションで、綺麗にはなるけど、お風呂に入ると、身体の疲労が溶けるんだよ。


 空き瓶、洗ってあるけど「浄化ピュリフィケーション」を掛けておく。


 後は、下級薬草を浄水で洗い、刻んで、浄水で煮出す。

 

「良い香り!」この辺で良いだろう。火から下ろして、冷ましてから、瓶に入れていると、ルシウスが庭に顔を出した。


「おぃ、今日は近くの初心者用のダンジョンに潜ったのか?」


「ああ」と答えたら、笑われた。


「やっぱりな! アレクだろう! 冒険者を閉じ込めたのは」


 まあねと肩を竦めておく。


「そうだ! ルシウス、下級回復薬をカインズ商会は二金貨ゴルディで売っているんだってさ。まぁ、それは私には関係ないけど……ギルドマスターが売って欲しいと言っている。任せるよ!」


 ケチなルシウスも「商人には敵わないなぁ」と呆れている。


「今日は、十五本できたから、カインズ商会に十本、持って行くけど、明日からは少し考えようと思っている」


 ルシウスにジャスの分と二本渡しておくよ。


「ありがとう!」と下級回復薬を受け取った。

「ただ、ギルドをあまり邪険にするのもなぁ」

 そこら辺のバランスは任せよう。


 これで、グレアムさんとの約束も果たした気分だよ。


「さぁ、風呂に入ろう!」と立ち上がったら、ルシウスに呼び止められた。


「アレクなら、初心者用のダンジョンでは物足りないだろう。中級のダンジョンに潜った方が、ウザい冒険者は少ないぞ」


 そうかもね! でも……約束しちゃったから。

「明日は、もう一つ初心者用のダンジョンに潜るよ。今日のは草原っぽいのだったから、迷路にも挑戦したいんだ」


 ルシウスは、腕を組んで考えている。


「迷路のダンジョンは、待ち伏せする馬鹿もいる。気をつけろよ! まぁ、アレクなら大丈夫だろうけどな。あまり、派手にするな!」


 うっ! 目立たないように、ウザい冒険者達をバリアで隔離しただけなのに。


「そうだ! これを渡しておこうと思ったんだ。俺とジャスが潜っているダンジョンの階数だ。ここまで達成しなくても、十階まで潜れたら一緒に活動しよう!」


 ルシウスってマメだよね。と感心したんだけど、どうやら二人だとこれ以上は大変なんだってさ。


「中級者用のダンジョンは、十階から先はキツくなるんだ。十五階に到達できたら、転移陣が使えるけど、そのボスがジャスとは無理なのさ。他のチームと組めば良いけど、回復役がいないと厳しい」


 やれやれ、明日、初心者用のダンジョンを潜ったら、中級者用のダンジョンに挑戦しよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る