第7話 初心者用ダンジョン 2

 二階もずんずん進んで、三階に下りる。


「ここも人が多いな」


 つまり、討伐する魔物も少ない感じ。


「薬草だけ採って、四階に行くぞ」


 ジルに生えている下級薬草を教えながら、四階に行く。


 やっと人が少なくなった。脳内地図マッパエムンディで探索したら、アルミラージや火食い鳥カセウェアリーがあちこちにいる。


「五階に転移陣があるから、四階は人が少ないんだ」


 なるほどね! では、ぼちぼちいきますか!


 矢の練習をかねて、次々とアルミラージ、火食い鳥カセウェアリーを討伐する。


 ドロップした品をジルが集めてくれるから、楽だ!


「お兄ちゃん、結構、強いんだね」


「まぁ、このくらいはね!」


 五階は、また人が多かった。


 転移陣で五階に転移して、そのまま活動しているのかな?

 

 私は、冒険者が苦手だ。特に、鉄級や銅級は……なるべく遠くを迂回しながら、六階を目指そう!


「おぃ、お前!」

 やはり厄介事が沸く。何人かの冒険者が私に近づいてくる。


「お兄ちゃん、呼んでいるよ」

 無視して、階段の方に向かう私に、ジルが声を掛ける。


「ああ、良いんだよ! 馬鹿に付き合う義務はない」


 早足で、階段に向かったけど、そこにも馬鹿が三人もいた。その上、荷物持ちの子ども二人にも邪魔された。


「そこを退け!」

 子どもに暴力を加える気はないけど、冒険者に命じられているのか階段の前から退かない。


「新入り、ダンジョンの指南をしてやる」


 そんなの頼んでいない。無視しても、子どもを退かさないから、相手するしかないのか?


「いや、結構だ! 今日は十階まで行くつもりだから、邪魔をしないでくれ」


 こちらは、ちゃんと断っているのに、こういう輩って耳がついていない。


「俺たちのチームに入れてやるぞ。一人では、魔物討伐も難しいだろう」


 親切そうな振りをして、ジルの背負っている籠の中に手を突っ込む。


「おお、何だか大漁だな!」

 

 図々しく、突っ込んだ手をバリアで切ってやりたいが、交易都市エンボリウムでの失敗を繰り返したくないので我慢した。目立ちたくないんだよ。


「バリア!」で三人の周りに壁を作る。この時、図々しく手を突っ込んでいた奴の手を切らないように用心したよ。

 前より、細かな調整ができるようになったのは嬉しい。


「さぁ、ジル! 行くぞ!」

 ジルを促して、階段の方に行くと、荷物持ちの子どもが二人「どうしよう?」と困っていた。


「アイツらは、今日は動けないから、転移陣でダンジョンの外に行けば?」


 私が宿に着くまで、バリアの中に入っていて貰おう。空気は上を開けてあるから、死んだりはしないんじゃないかな?


「でも、日当が貰えないと困るんだ。食べ物が買えない!」

 

 そうか、それもそうかもね?


「それなら、ここに生えている下級薬草を採ったら良い。ほら、そこに群生しているぞ」


 五階には、下級薬草が何ヶ所か群生していた。荷物持ちの子ども達は、背負い籠の中のドロップ品を冒険者の前に置く。


「おぃ! 出せよ!」とか「荷物を置いて行くな!」とか騒いでいるけど、手で持てる程度しかドロップ品はない。


「これでは、宿屋代にならないんじゃないかな? 荷物持ち代金を払えるの?」


 私が疑惑の目をジルに向けていると、他の荷物持ちの子どもに駆け寄っている。


「私も採りたい!」

 ジルは、もう良いんじゃない? と思ったけど、他の子も雇われた冒険者が動けないと魔物が怖いと言うので、少し待っていた。


 バリアの中の冒険者達は騒ぐし、無視して置いてきた冒険者達も集まってきた。


「おぃ、お前! 何をやっているんだ!」


 どうやら、ウザ絡みしてきた奴らと知り合いみたいだ。


「私の荷物持ちの籠に汚い手を突っ込むから、少し反省してもらっているだけだ。あっ、お前たちもいちゃもんをつけるなら反省させるぞ」


 私も穏やかになったよね。交易都市エンボリウムでは、花嫁行列から逃げてきたばかりだから気が立っていたんだ。元々は、穏やかな性格だと思う。


 人が親切に忠告しているのに、馬鹿なんじゃないかな?


「お前、見かけない顔だな! 新入りのくせに生意気だぞ!」

 

 ふぅ、馬鹿しか冒険者にならないのか? いや、クレージーホースや草原の風のメンバー、酒が入らなければ、ちゃんと道理がわかっていた。酒が入ると、ちょっと無法地帯になるけど。


「なぁ、仲間に入れてやるよ」


 馴れ馴れしく私の肩に手を出した奴! 回し蹴りでノシておく。


 他の冒険者達が得物に手を掛けた。


「私に武器を抜いたら、敵対行為だと判断する」


 全員をバリアで囲んでおく。


「荷物持ち、荷物を置いて、上に上がれば良い。文句があるなら、ギルドマスターに言うんだな」


 あの強そうなギルドマスターに苦情を言えるとは思わないけどね。


 日当が貰えないと困るのか、後から来た荷物持ちの子ども達が「どうしよう?」と話し合っている。


「下級薬草、ギルドで売れば、日当分にはなるぞ」


「じゃぁ、俺たちも下級薬草を採ろう!」


 冒険者達は、バリアの筒の中で騒いでいるけど、ここまでしても能力差がわからないなら、仕方ないよね。


 近くの下級薬草の群生を、荷物持ち達が摘むのを待ってから、五階から六階への階段を下りる。


「ああ、ここが転移陣なんだ!」


 初めて見るから、しげしげと眺めていたら、荷物持ちの子どもは、さっさと地上に戻る。躊躇いもしないで、転移魔法陣に乗るよね? 私なら、ちょっとビビっちゃうけどさ。

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