第6話 初心者用ダンジョン 1

 ギルドマスターにドナドナされたけど、初心者用ダンジョンの分布図を手に入れたのは嬉しい!


 金熊亭に戻って、何処から潜ろうか考える。


 どれも十階程度で、何個か潜ったら、中級者用のダンジョンに挑戦したいな。十階以上になったら、ルシウスやジャスと一緒に潜れるのは心強い。


「って事は、全部は潜らないで良いんだよなぁ」


 それなら、近場の方が良いよね? 


「よし! 明日は、朝からダンジョンに潜るぞ!」


 予備の手斧と弓だけど、何とかなるんじゃないかな?


 ルシウスには、ギルドマスターとの話し合いについて報告しておきたいけど、部屋にはいない。


「もしかして、ルシウスも……」


 ジャスの色狂いは分かっていたけど、何だかモヤっとする。


 昼は、屋台の焼き串を食べたけど、夜はどうしよう? いつの間にか、あの二人と一緒に行動するのが普通になっていた。甘ちゃんだな!


 とは言え、一人で夜の街を彷徨くのも、馬鹿が絡んできそうだ。宿で食べよう!


 料理は、味はまずまずだけど、量はたっぷりだし、安い! 交易都市エンボリウムより、防衛都市カストラの方が物価が安いのに、何故、こちらに来ないのかな? 初心者用ダンジョンでは儲けにならないのか?


 そんな事を考えながら、へたったベッドマットとお城のベッドマットを交換して眠った。


 翌朝、起きたらすぐに朝食を取って、分布図に乗っていた一番近い初心者用ダンジョンに向かう。


 防衛都市の中にダンジョンがあるだなんて、危険じゃないのかな? と疑問を持っていたけど、行ったら何だか納得しちゃった。


 ダンジョン入り口の周りには、食べ物小屋やダンジョンで出た物を買い取る商人の屋台、それに……大勢の籠を背負った子どもが屯していた。


「これは、ダンジョンというより、地下へ下りる階段みたいだよな」


 まぁ、ダンジョンは初めて見るのだけど、こんな感じなの? それにしても、冒険者よりも子どもが多い気がする。


「おおぃ、また荷物持ちを頼む!」


 ダンジョンが私の思っていたダンジョンらしくないと眺めていたら、どんどん冒険者達が身体の大きな男の子を連れて、中に入っていく。


「うっ、出遅れた!」

 初心者っぽい冒険者達は、何人かでチームを組んでいるし、単独行動の冒険者は身体も大きい。何故、初心者用のダンジョンに潜っているのか不思議な感じ。実力は初心者なのかな?


「お兄ちゃん? 荷物持ちはいりませんか?」


 疑問系のお兄ちゃん、まぁ、女なんだから仕方ないけどさ。


「俺は、ダンジョンに潜るのは初めてなんだけど、荷物持ちはいくらの日当なんだ?」


 声を掛けてきた女の子に質問する。


「えええっ、顔を見た事がないと思ったら、初めてなの? それなのに一人? 初心者用のダンジョンだからと、甘く考えていたら死んじゃうよ!」


 十歳を過ぎたぐらいの茶色い髪の女の子にお説教されちゃった。


「多分、大丈夫だと思うよ。一応、銅級だから」


 疑いの目を向ける女の子にギルド証を見せる。


「ええっ、銅級なのに初心者用のダンジョンに潜るの?」


 ああ、面倒になってきた。一人で潜っちゃいけないの?


「チームの他のメンバーは、中級者用のダンジョンに潜っているのさ。俺は、防衛都市カストラは初めてだから、初心者用のダンジョンで足慣らしして、中級の十階まで潜ろうと思っている」


 はぁ、もう荷物持ちはいらないね!


 私がダンジョンの入り口に歩き出すと、女の子がついてくる。


「ついてきても、荷物持ちはいらないぞ」


 そう言うのに、女の子は無視する。


「一人でダンジョンに潜るのは危険なんだよ。他の冒険者に襲われるかもしれないから……特に、お兄ちゃんは見た目が強そうにないから」


 うっ、思い当たることが多すぎる。


「じゃあ、荷物持ちに雇うよ! 名前は? それと日当は?」


 嬉しそうな女の子を見ると、あまり荷物持ちに雇われないなかなと思っちゃう。


「私はジル! こう見えても身体強化が使えるから、力持ちなんだ。でも、男の子の方が選ばれるんだよね。日当は、五階まだなら一銀貨クラン、十階まで行くならニ銀貨クラン


 ジルは、選ばれにくいと愚痴るけど、それはそうかもね。私も、見た目が細っこいから不利なんだ。


「それなら、雇うよ! 俺はアレク。身体強化が使えるなら、冒険者になるのか?」


 ジルは、肩を竦める。


「まぁね! でも、武器の扱いを習わないといけないんだ」


 弓矢をチラチラ見ているから、使いたいのかも? でも、矢は使ったら補充しなきゃいけないんだよね。


「兎に角、潜ってみよう!」と意気込んでダンジョンの中に入っていく。


 ふうん、階段を降りていく感じなんだね。

 目の前には、だだっ広い草原が広がっていた。


「えっ、草原!」


 私が驚いていたら、ジルに呆れられた。


「ダンジョンによって違うんだ。ここは、本当の初心者と子どもしかいないよ」


 私のダンジョンのイメージは、狭い通路とか、迷路っぽいのだった。ふう、そう言えば子どもが多い。


「危険じゃないのか?」


 ジルがこちらを見て、鼻を鳴らす。


「一階なんて、スライムぐらいしかでない。私も荷物持ちにあぶれたら、ここで草を刈って馬屋に売るんだ。あまり金にはならないけどね」


 ジルの背負い籠には、草刈り鎌が下げてあった。


「草よりは……脳内地図マッパエムンディ……薬草の方が金になるんじゃないのか?」


 あちこちに下級薬草が生えている。


「えっ、薬草が!!」


 一階目から時間を使うことになるけど、下級回復薬をグレアムさんが欲しがっているし、少し採って行こう。それに、ジルに教えてあげたら、食い扶持ぐらい稼げるようになる。


 小生意気な態度のジルだけど、それだけ食べて行くのが大変だとわかるんだ。


「ほら、見てごらん! これが下級薬草なのさ」


 私は、脳内地図マッパエムンディがあるから、あちこちに生えている下級薬草を採りながら、二階への階段へ向かう。


「ええぇ、見つからないよぉ!」


 ジルは苦戦しているけど、慣れたら見つけられると思う。サーシャも魔法を使わないで、薬草を採取していたからね。


「ほら、あそこに生えているよ!」


 途中からは、自分で採らずに、指示してジルに採らす。


「あれ? もう階段に着いたんだね! 道案内もするつもりだったけど……」


 こんな草原で道に迷ったりしないと思うけど、脳内地図マッパエムンディが無かったら、無駄な方向に歩いたかもね。


「さて、二階に行こう!」

 ここまで、スライムは見かけたけど、スルーした。彼方から攻撃してきたら、討伐したけどね。


「二階も、ほぼ同じだよ。ただ、アルミラージがたまにいるけど……討伐しなくても良いの?」


 アルミラージより、薬草の方が金になりそうだけど、少しは討伐しても良いな。


「二階も人が多いな」

 一階は、子どもが多かった。二階は、若い冒険者が多い。


「冒険者になりたてが多いんだ。三階になったら、時々、火食い鳥カセウェアリーが出るから危険なんだ」


 ふうん、兎に角、三階を目指そう。遭遇したら、アルミラージを討伐しても良いし、基本は薬草摘だね。


「ねぇ、お兄さんは、ギルドで地図を買ったの?」


 ずんずん三階への階段に向かって歩いている私に、ジルが首を傾げる。


「このくらい分かるさ! ほら、そこに下級薬草が生えているぞ」


 ジルに薬草を採らしていたら、アルミラージが顔を出した。


「ジル、動くな!」


 一番、弓が苦手なので、練習しよう! 草原の風のメンバーに教わったから、少しはマシになったんだけどさ。


 ビシッとアルミラージに矢が命中した。


「えええ! なんだこりゃ!」


 そこには、アルミラージの毛皮だけが落ちている。


「本当に、お兄ちゃんってダンジョン初心者なんだね。ドロップするの知らなかった?」


 ああ、そう言えば神様ガウデアムスの知識で読んだような? でも、いきなり毛皮になるのって不思議すぎるよ。


「ほら、先は長いよ!」

 毛皮を背負い籠に入れながら、ジルに笑われた。


 いや、初心者用のダンジョンに先に潜って良かったよ。ルシウスやジャスに馬鹿にされていたね。

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