第2話 『金熊亭』にチェックイン

 ジャスと一緒に部屋に風呂が付いている宿に向かう。

 名前的に『青葉亭』が良いんじゃないかな? と何も知らないけど思っていた。イメージで、安らげそうだからさ。


「アレク、あれが『青葉亭』だ」

 ジャスに言われて看板を見た。大きな葉っぱだ。


 そう言えば『海亀亭』も海亀を飾っていたなと、懐かしく思い出す。


「なぁ、もしかして『金熊亭』の看板は……」

 ジャスがガハハと笑う。それは、嫌かもしれないな。


金熊ゴールデンベアはダンジョンの深い場所で、たまに遭遇するんだが、毛皮が高価買取りされるからお得な魔物なんだ。だから、縁起が良いのさ」


 ふうん、でも『青葉亭』は外観も綺麗だし、冒険者ギルドに近い。ここに泊まれたら良いな。


 私の考えと同じ意見の冒険者が多いみたいだ。


「満室なんです」とお断りされちゃった。


「まぁ、仕方ないな。ここは満室が多いのさ」


『金熊亭』は、ギルドから離れるけど、ジャスに言わせると良い場所にあるそうだ。嫌な予感的中! 賑やかな場所なのは良いが、少し向こうには花街があるみたいだ。


『金熊亭』、やはりゴールデンベアが看板になっている。『ガォォォ』と叫んでいるゴールデンベアかぁ。ちょっと引いちゃう。


「なぁ、他にも部屋に風呂がある宿はないのか?」


「あるけど、高くなるぞ! それに、ここら辺は飲食街も近いから、長期滞在には便利なんだ」


「飲食街?」確かに賑やかな通りだけど、少し向こうの花街の方が目立っている。


 宿を取る前から、ジャスの気持ちは花街へ飛んでいるんじゃない?


「風呂に入ったら、アレクも一緒に遊びに行かないか?」


 最低! 口をききたくない気分。


「俺は、風呂に入ったら、ゆっくりと眠りたい」

 キッパリと断らないと、ジャスに花街に連れて行かれそうだからね。


「まぁ、初めての護衛任務だったからなぁ」

 それに、『金熊亭』の風呂付きの部屋が取れたので、ジャスは気もそぞろだ。


 私も、サーシャの時以来のお風呂だ! お互いに、いそいそと部屋に向かう。


「あっ、アレク! 宿の女中にチップを渡して、お湯を運んでもらうんだぞ」

 お風呂付きの部屋なので、お湯はこみこみの値段だけど、チップを渡すのがマナーみたいだ。


 前世でも、外国ではチップがあったなぁと、変な記憶が蘇った。


「いくら渡すんだ?」

 これ、重要! 少ないのも嫌だけど、多すぎるのも田舎者に思われそうだから。


「チップだから、いくらでも良いけど……アレクって本当に世間知らずだなぁ。銅貨で良いさ」


 ふぅ、私を部屋に案内してくれた女中に「風呂に入りたい」と頼む。


 お城でも人力でお湯を運んでいたけど、ここでもだ。


 大きな桶で水を運び、小さな桶にお湯を持ってくる。それを何回か繰り返して、部屋に付いている風呂桶に半分ほどのお湯が入った。


「終い湯も必要ですか? それと、洗濯物は別料金ですが、備え付けの袋に入れておいて下さい」


 こちらでは、風呂桶の中で身体も髪の毛も洗う。

 つまり、お湯の中には石鹸と共に汚れも混じっている状態になるんだけど……あまり気にしない人が多いみたい。


「ああ、終い湯も欲しい」

 ここでチップ! 銅貨二枚渡して、多めに持ってきてもらう。


 お湯は下から運ばないといけないが、風呂桶の栓を抜いたら排水できるようにはなっているみたいだ。


 つまり、汚くなったお湯は捨てて、綺麗なお湯に浸かりたいんだよね。


 お湯を持ってきてもらい、後は浄水を出して嵩ましする作戦。


 鍵を掛けたのを確認して、久しぶりのお風呂だ。浄化ピュリフィケーションを使っているから、汚くはないけど、気持ちが違う!


「あ、あ、あぁ……」

 綺麗になって、汚いお湯を抜いて、綺麗なお湯に浸かる。


「極楽、極楽!」爺くさい事を思わず呟いちゃった。


 洗濯物……浄化ピュリフィケーションで綺麗だから良いかな?


 それより、部屋のベッド……マットレスがへたっている。

 それに、ベッドの下とかは掃除が良い加減だ。これは、要チェックだね!


浄化ピュリフィケーション!」を掛けて、へたったマットレスをアイテムボックスの中に収納して、お城から持ってきたマットレスを出す。


 やはり、お城のベッドの方が良い感じ。

 今日は、このまま寝よう!


 ベッドで、うとうとしていたが、ノックの音で目が覚めた。


「おおい! アレク!」

 この声はルシウスだ。ジャスは、花街に行ったのだろう。

「飯を食うぞ!」

 ジャスの怒鳴り声で、完全に目が覚めた。お腹がすいている!


「おう、飯を食べに行こう!」


 風呂に入って、一寝入りしたので、腹ペコだ。


防衛都市カストラは、魔物の肉が出回っているから、料理は安くて美味しいんだ!」


 それは、嬉しい! 交易都市エンボリウムみたいに海に面してはいないから、魚介類は期待薄だけどね。


 ただ、ジャスは花街に行ったと思っていたのに意外だなぁ。


「へへへ、愛しのルミエラちゃんに、手紙を届けてもらったのさ」


 ゲー! そんな情報はいらないよ。


「そうか、ルミエラは売れっ子だから、予約しなきゃな」


 ルシウスも花街に行くのかな? ちょっと嫌だ! 二人ともお風呂に入ったのか、すっきりとしている。まぁ、護衛任務中も浄化ピュリフィケーションを掛けてはいたんだけどね。


 男同士の雑談をしている二人と、夕方になってより賑やかになった通りを歩く。

 相変わらず子どもが町を彷徨いている。もう、日も暮れたのに? 家とか無いのか? ストリートチルドレンは、前世でも問題だったような?


「おお、ここにしようぜ!」

 ジャスが決めた店からは、肉を焼く良い香りがしていた。


「ああ!」ルシウスも香りで空腹が増したようだ。私もね!


 店の中には、何人もの冒険者達が大きな骨付きの肉に齧り付いていた。それに、エール!


「エールが欲しい!」

 私が言わなくても、ジャスもルシウスも同じ気持ちだ。


「「「乾杯!」」」

 生ぬるいエール、前世の記憶が冷たいビールが欲しいと叫んでいる気がするけど、これはこれで良いんだよ。


 交易都市エンボリウムよりも暑い防衛都市カストラだけど、エールのぬるさは同じぐらい。だから、ちょこっとは冷えている気がするんだよね。


 食べ物は、初めての店だからルシウスとジャスと同じ物にする。つまり肉の焼いたのだ。


「ジャス、アレク、これが防衛依頼の報酬だ」


 えっ、店で報酬の受け渡し? 周りには酔っ払った人もいるのに? と思ったけど、ギルドの発行した紙だった。


「おおっ、アレク! 凄えな!」


 ちらっと私の報酬額を見て、ジャスがガハハと笑う。

 浄水代や治療代などが上乗せされているからね。


「なぁ、護衛依頼っていつもあんなのか?」


 凄く大変だった気がする。ヴリシャーカピの集団やオークの集団に襲われてさ。


「いや、あれは無いなぁ!」

 ジャスも今回は異例だと愚痴る。


「まぁ、報酬は良かったからな! それと、ギルド長が調査隊を派遣するそうだ。俺たちにも声が掛かるかもしれないが……当分は、オークの顔は見たくないな」


 それは、同意! ただ、ちゃんと討伐して欲しい。


「誰がリーダーになるのかによるな」

 えっ、ジャス? 凄くやる気なんだけど?


「ルミエラちゃんを身請けしたいんだ!」


 ルシウスが呆れ顔だ。


「お前なぁ、遊女の睦言を本気にするなよ! それより、クランを作る時の為に貯金しろ!」


 それは、ルシウスの言う通りだと思うのだけど、食事中ずっとジャスの惚気? を聞かされた。やれやれ!


 でも、ルシウスがジャスを黙らせてくれた。


「ルミエラぐらいの売れっ子だったら、家もない男に身請けなんかして欲しくないんじゃないか?」


 ジャスは、それからは黙って肉をガシガシ食べていたけど、何を考えているのか、私とルシウスは少し不安になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る