第6話 ヴリシャーカピ、ボス戦

 ヴリシャーカピの集団に押されている。魔法の石攻撃は、なんとかバリアで防いでいるが、圧倒的に数が違う。


 こうなったら、魔法攻撃を連発するしかない。髪の毛が伸びようと死ぬよりはマシだ。


「バリア! バリア! バリア!」


 次々とヴリシャーカピの首を切っていく。


「グォォォ!」

 一際、巨大な白いヴリシャーカピが雄叫びをあげる。


「まずい!」とジャスが叫ぶ。

 ヴリシャーカピの身体が一回り大きくなった。それに、より敏捷になり、石もドンドン投げてくる。


 バリアで石を防ぐけど、ヴリシャーカピとの乱闘になっているので、やり難い。

 

 クレアとオルフェの槍攻撃で一頭ずつ倒していく。ルシウスとジャスも連携しながらヴリシャーカピを討伐する。


 倒しても、倒しても、森の奥からヴリシャーカピが湧いて出る。いつまで戦闘が続くのだろう。

「バリア!」と首を切っていくけど、終わりが見えない気がしてきた。


 七十、いや八十はいたのかも? それに、ヴリシャーカピのボス、また雄叫びをあげて強化されたら堪らない! 

 何回も「バリア!」をボスに向かって飛ばすけど、弾かれている。


 こうなったら、仲間を強化した方が良いのかも? 泥縄式だけど、強化魔法を調べる。ヴリシャーカピのボスが使った雄叫びみたいな効果がある魔法がないかな?


 焦って女神様クレマンティアの知識を調べるけど、焦ると見つからないものだよね!

「兎に角、皆も疲れているから元気回復レフェクティオ!」


 金色の光に包まれた、仲間達が回復したんだと思う。私も疲労感が無くなったからね。


「アレクが回復されてくれたのか? なぁ! ベィビィに石攻撃から護る魔法を掛けてくれないか?」


 クレアの無茶振りだ。クレアもアルフェも槍を使ってヴリシャーカピを倒しているけど、スレイプニルに乗って戦う方が効率的みたい。


「クレア、アルフェ、スレイプニルに乗って!」

 素早くスレイプニルに乗った二人に、スレイプニルごと防御デーフェンスィオを掛ける。


「上手くいったかどうかわからない。初めて使う魔法だから!」


 バリアは壁を作る感じで、防御にも攻撃にも使えるけど、壁を作ってはスレイプニルの機動性が活かせない。


「おお、これは良いな! 石が当たっても痺れスリブルにはならない」


 スレイプニルは、痺れスリブルが掛かりやすく苦手だから、降りて戦っていたクレアとアルフェ、やはり水を得た魚の如く、ヴリシャーカピの集団の中に駆け入る。


「ルシウスとジャスにも防御デーフェンスィオ!」


 細かい傷は、元気回復レフェクティオで塞がっていたが、かなり石攻撃とヴリシャーカピの鋭い爪でやられているからね。


 私も頑張って「バリア!」で一頭ずつ倒していく。


「ボスが出てくるぞ!」

 これまで、灰色のヴリシャーカピに護られるように後方にいた白い巨大なヴリシャーカピが前に出て来た。


 灰色のヴリシャーカピが十頭以下になったからかも? ここまでで、私達はかなり消耗している。へとへとだ!


元気回復レフェクティオ!」をもう一度、全員に掛けておく。


 効かないと思うけど「バリア! バリア!」をボスに向かって投げつける。


 近くだから、全然効かない状態ではないみたい。だって、嫌がって手で弾いているから。


「よぉし! いくぞ!」


 後方から『草原の風』が灰色のヴリシャーカピを矢で撃ち抜いていく。後、八頭!


 だが、ボスは強かった。スレイプニルに蹴られそうになると、身軽に飛んで逃げる。

 でも、その瞬間をクレアは待っていた。鋭い槍がボスの片目を貫く。


「ガァァァァ!」怒り狂ったヴリシャーカピのボスの岩攻撃だ。


「バリア!」で砕くけど、ルシウスは盾で防御する。


「ジャス!」かなり大きな塊がジャスに当たった。でも、ジャスは物ともせず、ボスに大剣を振り下ろした。


「やった!」首が落ちては、ボスも生きていないだろう。


「アレク! まだヴリシャーカピは残っている!」


 ルシウスは、残った八頭に向かっていく。私も「バリア!」と飛ばす。


 後ろからの『草原の風』の矢攻撃、前からスレイプニルのキックと槍! それとルシウスとジャス、本当に強いんだね。


 ヴリシャーカピの集団を討伐した。ぜぃぜぃ。

 私は思わず、へたり込んでしまった。


「アレク、ヴリシャーカピは他にいないか?」

 えっ、まだいたら困るよ! 全員、ぼろぼろのくたくただ。


脳内地図マッパエムンディ!」を使う。今見える範囲にはいない。もっと、もっと広げよう。


「かなり遠くに二十頭ぐらいの集団がいるが、逃げていくみたいだ」


「クソッ!」「ハァ!」と別な声があがった。


「クソッ」はわかる。多分、雌と子どもは逃げたのだ。またヴリシャーカピの大集団になる可能性がある。厄介だよ!


「ハァ」は安堵かな? 私もこっち! 明日の危険より、今、生き延びられてホッとしている。


「オルフェ、商隊を呼んで来てくれ!」


 あっ、忘れていた! 商隊の護衛は『クレージーホース』の二人だけだったんだ。合流しないとね!


「私たちが走って合流した方が良いんじゃない。ここは、血生臭いし!」


 ガハハハとジャスに爆笑された。


「ヴリシャーカピの毛皮は高く売れる。ボスの白いのは特にな! 肉は……全部は持っていけないが、美味しい部位だけでも塩漬けにするだろう」

  

 あっ、と言う事は、今日はここで解体するんだ! どっと疲れた気がする。


「アレク! 悪いがルシアを診てくれ。回復薬を掛けたのだが、あまり効かなかった」

 

『草原の風』のリーダーがルシアを担いでやって来た。ああ、ボスが投げた岩を砕いたけど、塊が頭に当たったのだ。

 布を頭に巻いているけど、かなりの出血だ。交易都市エンボリウムの回復薬は劣だからな。


「そこに寝かせて!」

 先ずは「浄化ピュリフィケーション!」で綺麗にする。

 ルシアの頭に手を当てて、光を入れていく。全身が金色に光る。

 頭だけでなく、あちこちに傷があったみたい。


「布を取るね!」

 布を取ると、額の傷は塞がっていた。

「ルシア、良かった!」

 シャムスが喜んでいる。

「このままじゃあ、傷が残るかも? 治療クーラーティオ!」

 傷も綺麗になくなった。ルシアが目を開けて、立ちあがろうとする。


「血をたくさん失っているから、休んでいた方が良い」

 シャムスがルシアを抱き上げて、木の幹に寄り掛からせる。


「他に治療が必要な奴はいないか?」

 ほぼ全員が傷を負っている。

「アルフェとジーナは、後で治療してくれ!」

 先ず、クレアはベィビィを! と騒ぐから、「治療クーラーティオ!」と「浄化ピュリフィケーション」を掛けておく。

 だって、ヴリシャーカピを蹴りまくっていたから、返り血が酷かったんだ。


 これは全員コースだね! と思ったが、ジャスに笑われた。

「これから解体だぞ! 浄化ピュリフィケーションは後で良いさ!」


 そうだよね! 「治療クーラーティオ!」だけ掛けておこう。

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