騎士その1は、ピンクのアルパカを発見した。

みこ

騎士その1は、ピンクのアルパカを発見した。

 わがまま姫が言う事には。

「ピンクのアルパカを探しなさい!」

 ということだった。


「いないかどうかなんてわかんないじゃないの!わたくしはいる方に賭けたのよ!」

 だそうだ。


 俺は、それに巻き込まれた騎士その1。


 王族が賭け事ってどうよ。

 お兄ちゃんらに可愛がられすぎて、おかしくなったタイプだな、あれは。


 ピンクのアルパカね。

 俺は、白とか黒とかしか知らないぞ?

 それも、北方から来たサーカス団にいるとかいないとかいう話を噂に聞いただけだ。


 けど、世の中ってものは、確かにおかしなものも存在する。


 まさか、本当に居たとはね。

 ピンク色のアルパカ。


 騎士その1は、森の中、腕組みをしてそのアルパカと向かい合った。


 ピンク色の毛をしたアルパカは、いかにも不満そうな顔で、こちらに視線を向けたまま座っていた。


「まさか、本当に居るとはね」


「なんだよ」

 そしてなんと、ピンクのアルパカは人語を理解することができた。


「つかぬ事をお伺いしますが、その……毛の色は、」

「若干、気を遣ってる感出すのやめてくれる?」

「……身体がピンクなのは、生まれつき?」

「そだよ!」


「あ〜〜〜〜〜」

 騎士その1は、その場に寝転ぶ。

「アルパカ探しと称してそろそろどっかでスローライフでも始めるか〜、って思ってたとこだったんだけどな〜」

「始めればいいじゃん」

「忠誠を誓った身としては、そうもいかないの!あ〜、俺の才能が恨めしいぜ〜」

「ふ〜ん」


「君以外に、ピンクの個体は他にいる?」

「……いないよ」


 実際、周りを見渡しても、白や茶色のアルパカばかりだ。

 これはあれだ。

 白とか茶色とかの親からピンクのアルパカが生まれて、ハブられたりしてるやつだ。絶対。


「もしかして、ひとりぼっちとか……」

「なんでだよ。まだ手のかかる妹達が居て大変だっつの」

「妄想か」

 そこへ、にゅっと大人のアルパカが俺の前に割って入った。

「ああ、大丈夫だよ、父ちゃん」

 ピンクのアルパカが声を掛けると、渋々大人のアルパカが引き下がる。

「…………まじか」

 除け者にされるアルパカはいなかった。

 アルパカはそれぞれの毛色には無頓着なのだ。


「一緒に、来て欲しいんだよね」

「え?なんで?」

「姫が、ピンクのアルパカ連れて来いって言っててさぁ」

「なんだよそれ」

「お願いだよ〜。これが俺の仕事なんだよ〜」


「まあ、いいよ。オレも世界を見てみたいと思ってたところだし」


 アルパカは、ひとがよかった。この場合、まさかアルパカがいいとはならないだろう。アルパカは、ひとがよかったのだ。




 それから、騎士その1とピンクのアルパカは、国へ戻るまでに大冒険を繰り広げた。

 何せ、隠せないサイズの相棒がいるのである。

 連れ去られたり、海賊船に潜んだり、海を渡ったり、魔王の幹部をひとり倒したり。


 国へ帰り着いたのは、実に2年後の事だった。


 語り聞かせる冒険は数知れず。

 騎士その1とピンクのアルパカは、もう既に唯一無二の相棒だった。


「さて、行くか、相棒」

「ああ。やっと凱旋だ」


 騎士その1とピンクのアルパカは、盛大に城に迎え入れられた。

 けれど、辿り着くのはわがまま姫の元だ。

 ピンクのアルパカは首輪をつけられ、見せ物にされた。

 騎士その1は、ただ、ひとつの仕事が終わっただけだと、元の騎士団へと戻された。


 ああ、俺が求めたのはこんな事だったか?


 高いところで姫に手綱を握られ、人民を見下ろすアルパカを見た。

 アルパカは、もう既に、それに対抗する力を持っていた。

 けれど、対抗しなかったのは、ひとえに騎士その1の上司だったからである。


 ああ、俺が求めたのはこんな事だったか?


 いや、違うな。


 騎士その1は剣を構え、跳ね上がる。

 騎士その1も、伊達にピンクのアルパカと共に冒険をしてきたわけではない。


「馬鹿な主人を正すのも、騎士の務めだ!」


 ガキン!

 剣で手綱を千切ると、騎士その1は、ピンクのアルパカの前脚と後ろ脚の間に頭を突っ込み、そのまま担ぎ上げるように持ち上げた。

 アルパカが海賊に囚われた時に体得した技である。


 そのまま、飛び上がり、騎士その1は、ピンクのアルパカと共に、国を出て行った。

 とうとう本物の、スローライフの幕開けであった。

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騎士その1は、ピンクのアルパカを発見した。 みこ @mikoto_chan

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