第12話 翡翠竜は自作魔導具の再演と逸話を披露する

『ホネっこた〜べ〜て〜』


毒気を抜かれてしまう様なのんきな音声を垂れ流して、骨ガ◯型犬・狼系魔獣誘引魔導具の機能が発揮され、人体には完全無臭だが、嗅覚に優れる犬や狼系の魔物に抜群の効果を発揮する臭いが流れる。


なぜ、また俺が魔導具の「ホネっこ』を起動しているかというと、実際にフォレストウルフ達が引きつけられる様子を見ていないテオドール達、特に魔術師の女性――優等生なメガネのつり目の美人、ミシェラ――の強い要望があったからだ。


今回は爆発の効果範囲も確認してもらうため、俺がテオドール達、見学者を含め、この場にいる全員に【魔力障壁シールド】を張っている。


Wow、Wow、Wow 、Wow、Wow、Wow、Wow、Wow、Wow、 Wow……。


大興奮したフォレストウルフ達の大合唱と共にフォレストウルフ達が目を血走らせ、口から大量の涎を垂れ流し、周囲に撒き散らしながら姿を断続的に見せた。その全てのウルフ達の火傷ではすまないレベルの熱過ぎる熱視線は俺の手の上の「ホネっこ」一点に注がれている。


あっ、昨日はいなかったヘルハウンド――フォレストウルフよりも大柄で、体毛が黒地に赤が混ざっている――が紛れているな。もっとも、その様子はフォレストウルフ達と同じで、鼻息荒く、涎を盛大かつ派手に周囲に撒き散らし、垂れ流している。


犬・狼系の魔物だからまだ本当にギリギリの瀬戸際で目にしていられる。しかし、もし、犬・狼系の獣人だったり、亜人系魔物だったら、その顔全体にはモザイク処理しないと公共の電波に載せられないレベルの壊滅的に酷い絵面なのは確定的に明らかだ。


我先に、と引き寄せられた狂乱している魔物達が俺の腕ごと「ホネっこ」へと噛みつこうとしてくることは考えるまでもなかったので、俺は、予め爆発が見えやすい位置と決めて、テオドール達にも伝えていた少しだけ離れた場所に「ホネっこ」を投げた……のだが、「ホネっこ」が地面に着地する直前に、フォレストウルフの中に紛れていた数匹のヘルハウンドの内の1匹が他の面子を出し抜いて飛び上がり、口で見事に「ホネっこ」を空中キャッチして、噛み締めた。


直後、耳は耳栓越しに爆音の大振動を感じ、視界は咄嗟に目を閉じたが、激しい閃光に包まれて、「ホネっこ」を鮮やかにキャッチしたヘルハウンドはもとより、集まってきていた狂乱状態のフォレストウルフ達も強烈な閃光に飲み込まれて見えなくなった。


※※※


「ホネっこ」の爆発から数分経過。元に戻った視界にはあれだけ大量にいたフォレストウルフ達はおろか、紛れ込んでいた数匹のヘルハウンドの姿は体毛1本残らずなく、爆発範囲だった地面は瞬間的な超高温によってガラス化している。


俺の【魔力障壁】で守られていたテオドール達は当然、爆発の影響は皆無なのだがテオドールとオーランド、教官のロイを除いた全員が腰を抜かしていた。姫騎士のマリアと魔術師と弓兵の女性達も例外ではなかった。


その中で1番早く五感が回復した紳士な俺は即効感知困難な自作魔術の【浄化】を腰を抜かしている女性陣に誰にも気取られない様に使った。俺を敵視していた野郎どものことは知ったことではない。存分に恥をかくがいい。


「凄まじい威力だね。ジェイド殿の【魔力障壁】がなかったら、魔物達と同じ運命を辿っていた訳だ。それにしても、フォレストウルフの群れにヘルハウンドまで引き寄せる魔導具の誘引効果は素晴らしいな。最後の爆発は私達では防ぎようがないのが残念だ」


「……そうですね。最後の爆発の威力はおそらく上位魔法の【インフェルノ】に相当します。【インフェルノ】の使い手だけでも3人も帝国内にいないのですから、それを防ぐとなると、果たしてどれだけいるのやら……。誘引する方法だけでも、ご教授いただきたいですね」


テオドールの「ホネっこ」の評価に完全復活した女魔術師ミシェラが話を継げる。


そうか、【インフェルノ】の使い手は減ったのか、というか全然いなくなったな。俺が冒険者していた時には結構な頻度で使い手を目にしていたのだが、平和になった影響かねぇ。


それにしても、まだ残っているらしい自称賢者の組織内でも【インフェルノ】を使える奴がいないとか。本当に連中は賢いのか疑問だな。


「あ〜、やっぱり最後の爆発は防げないといけないよな。う〜ん、作り方は対価を払ってもらえれば別に材料と製法を教えても構わないけれども、個人的に自分達で作るのはお勧めしないかな」


「えっ? それはどうしてですか?」


俺の返答にようやく復活したらしいマリアがテオドール達も思ったであろうことを代弁した。


「まず、素材となる魔物の見た目が目に優しくない。」


「ホネっこ」の犬系・狼系魔物を惹きつけて止まない臭いはワーム系の中のミミズ系魔物のイヌマンが発する臭いが元になっている。イヌマンの見た目はミミズの胴体に多数の触手が付いているというミミズに耐性がある者でも、対面すると思わず、うっ、となってしまう程の代物だ。気の弱い女性には悪戯でも見せては絶対にいけない。初見のときは俺も思わず絶叫しそうになった。


「次に、臭いだ。『ホネっこ』は人体には無臭になる様にしているけれども、そこ・・まで加工する途上で酷いという文字ですら生温いレベルの悪臭が発生する」


「ホネっこ」開発で1番厄介だったのがこの臭いだった。前世で一度だけ好奇心で買って、激しく後悔したシュールストレミング。あれと同レベルのヤバさだった。なにせ、人化していたとはいえ、立ち入り禁止にしていたのに部屋に乱入してきた竜族最強種の一角である紅玉竜のルベウスが、扉を開けた瞬間に気絶した位だ。当然、竜であるルベウスに生半可な毒は効かない。


「その時着ていた服は破棄。ああっ、焼却しようとすると余計に事態が悪化するから、入念に【浄化】をかけて深く土の中に埋めないといけない。あと、しっかり入浴しないとダメだ。間違っても香水で誤魔化そうとしないことだ。最悪、死ぬ……社会的に」


これも実体験からだ。着ていた作業着を焼却しようとしたら、悪臭が煙に移って周囲に拡散。という恐ろしい事態になることに事前になんとか気付いて、咄嗟に、汚染された煙を空間ごと、【結界】で隔離。短時間とはいえ、臭いが移ってしまった普段着も最上級の浄化魔術の重ねがけでないと元に戻せないレベルだった。


そして、まぁ、案の定というか、俺に嫌がらせをしてくる賢者の連中が、俺のイヌマンの研究成果を横取りしようと悪臭漂う作業場に侵入して、臭いで気絶するとともに、人体の防衛本能なのか、体の中のありとあらゆるモノをその場にいろいろぶち撒けていた。そんな侵入者達に俺がかける慈悲は皆無どころかマイナスなので、侵入者達は人通りの多い、判明していた奴等の拠点の前に【転移】で飛ばしてやった。


被害を受けない距離から監視させていた使い魔を通して、加工中のイヌマンの悪臭に香水をかけると、即効レベルの最臭兵器になることが観測され、香水をかけた侵入者達の仲間達も、人通りの多い路上で社会的に完全終了な醜態を晒して気絶した。この日、自称賢者達の拠点の1つは名実ともにあらゆる意味でも壊滅した。そこに所属していた賢者達の中には貴族もいたそうで、醜態を人通りで晒した者達は廃嫡されたり、病死公表がされて、その後は俺の目の前に現れることはなかった。


俺の話を聞いた面々は皆一様に顔を強張らせていた。まぁ、そうなるよなと俺は内心で苦笑いをせざるを得なかった。


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