第11話 翡翠竜はペットとの思い出を夢で懐古する
2度あることは3度あるとでもいうのか、俺は夢と自覚できる空間の中で、ソレ等
と対峙していた。
「……」
脇腹に致命傷を負って、止めどなく流血しているフォレストウルフよりも3回りは大きい巨体を持つ巨狼。狼系魔物の頂点の一角、
そして、
「キャンッ、キャンッ、ハッハッハッハ」
俺の足下を駆け回る小さい子犬と見紛うが、目の前で横たわっている巨氷狼と同じ毛並みから親子だとわかる子狼。
「キャンッ、キャンッ……!?」
「ぶふっ!?」
親巨氷狼との話し合いの邪魔になりそうだったので、足下を駆け回る子狼を捕獲して抱き上げたら、顔を思いっきり舐めまわされた。ひとしきり、俺の顔を舐めまわして満足したのか、子狼は俺の腕の中で大人しくなった。
『……』
「いや、俺の治癒魔術なら、その傷を治せる。この子を置いて逝くつもりか?」
『……、……』
親巨氷狼から、既に自身は死んでいて、魔術での治療は効果がないこと。残っていた魔力で無理矢理肉体を動かしていたが、それももう限界であるということが思念で伝わってくる。
「この子はどうするつもりだ?」
腕の中の子狼を力が入らないのか半目から薄目になって、瞼が落ちかけている親狼に見せる。すると、
『……、……、……』
「クゥ〜ン」
『……、……』「ウォフ」
「ァン!」
最期のやり取りを終え、横たわっていた巨氷狼の瞼は完全に閉じた。
※※※
「おとうさん、ワンちゃん!」
「ウォフッ」
「フェンはワンちゃんじゃなくて、巨氷狼なんだがなぁ」
「ふぇん?」
成長した巨氷狼の子供、フェンに抱きつく俺とルシアの愛娘アリア。
アリアはフェンが大好きで、毎日寝起きを共にしている。
フェンの方もアリアに対しては可愛いい妹分として接しており、俺とルシアの目が届かない場所でのアリアの危険行為を未然に何度も防いでくれていた。
本来のフェンの大きさは彼女の亡き母狼と同じ位の巨体まで成長しているのだが、フェンは体格を自由に調整できるスキル【サイズ変更】を習得済み。今は大型犬サイズ、ゴールデンレトリバーの成犬サイズに主になって生活を共にしているけれども、状況に合わせて、中型犬、小型犬サイズとフェンは巧みに使い分けている。
妻のルシアもフェンのことは気に入っていて、俺が作ったブラシで定期的にフェンのブラッシングをしている。フェンも上機嫌で心地良さそうに尻尾を振っている。
おそらく、この時のこの時間が俺達とフェンが一緒に過ごしていた中で、もっとも穏やかに過ごせていた時間だったと俺は思っている。アリアが12歳を迎えた辺りから過激派天使達が襲撃してきて、奴等との死闘の中でアリアを庇ったフェンは……。
意識が浮上していく様な感覚が始まった。どうやら目覚める様だ。こうも立て続けに過去のことを想起する出来事が重なるということはやはり、なにかが起こる予兆なのだろうか。
俺はそう考えて、テオドールの居城に行った後、アリアの墓参りにいくことを心に刻んで、体が浮上していく感覚に心を委ねた。
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