図々しく生きる

鳳梨

図々しく生きる

 私は根っからのテレビっ子だ。ある事柄について「なんで知ってるの?」と訊かれたときの返答はいつも「テレビで見たから」。何年も前の記憶なのに答えられてしまうのは不思議なものだ。これもまた七、八年以上前のことだが、「あなたなら何と送信する?」というある番組の企画が強く記憶に残っている。全三個のシチュエーションのうち特に覚えているのは、「自分の悪口が親友から誤送信されてきたときの返信」だ。

 当時私は小学生で、単純に面白いから録画して何度も観ていたのだろうが、今ならまた違う見方ができると思う。当時は何が面白かったのか自分の思考を分析すると、人によって全く異なる個性豊かな回答が好きだったのだろう。この企画には、最もリーダーに相応しい返信をするのは誰かというテーマがあり、悪口シチュエーションで一番に選ばれた返信は有村架純さんの『心の声出てるで(笑)』だった(もっと言えば三回とも全て有村さんの独り勝ちだった)。しかし有村さんに相対するように、「私なら『さようなら』って送ると思う」と言う人もいた。当時はハートが強いなあと感じたものだが、今では選択肢に無いこともない。

 このようなメールが送られてきたら、私はショックを受けるというより抉られてしまうような気がする。親友とはいえ他の人より近い距離で接してきたのだから、その悪口は表面的なものではなく核心を突いたものだろう。心の奥の鍵の部屋で葛藤し続けた自分自身の嫌いなところやコンプレックスが、簡単に言語化されて他人と共有されてしまうのだから、恥晒しで公開処刑だ。

 自覚があるからこそ、こんなメールが送られてきた暁には咄嗟に『ごめん』とまず打ち込んでしまいそうだ。きっと謝る必要なんて無いのだけれど。

 自分の嫌いなところは、見た目にしろ内面にしろ直したいと思うものだろう。そのために努力したり言動に気を付けたりするけれど、完治することは難しい。そしてまた、自分が嫌になる、というのが私の循環だ。占い番組を観ていると、例えば「あなたの極度に忘れっぽい性格は治らない」と言われている人を見るが、私までがっくりしてしまう。治らないと困るのだ。

 私はどこか人を見下している自分が嫌いだ。自分の方が成績が良いとかたったそれだけで、相手を下に見てしまっている自分がいる。言動にも滲み出てしまって、それでまた自覚して、情けなく思う。私は優越感を覚えるからこの人と仲良くしているのだろうか、と考えてしまうことも少なくない。全く醜い奴だ。

 ただ、治らないのかもしれないのだから、一生悩み続けていたら病む。「with嫌いな性格」へと移行しなくてはならない。そんなことを考えてある日、開き直ってみた。これが私なのだと。この性格をもって私である、仕方がない、私を創った神様のせいだ。

 記憶は捏造されるという。思い込みで妄想は過去になり得る。だから、優越感を覚えるから仲良くしているなんてのは元々妄想であって、私の考え過ぎが生み出した嘘なのだ、と思うことにした。それが間違いであろうと関係ない。思っていれば、それもそのうち過去になるから、なんちゃって。

 そもそも良いところもある。周りの人によると私は優しいらしい。テスト前日に「数学で零点は回避できるように教えてほしい」と言われたのでOKしたら、その場にいた子に「優しすぎ(笑)」と言われた。似たようなことがそれ以前にもあった。そこで初めて自分の普通が普通ではないことを知り、長所欄が一つ埋まった。自分の性格で気付いていないところは意外とあって、悪いところはよく気にするけれど、良いところは自分だけでは気付きにくい。だからまだまだ長所が眠っているかもしれない。

 もしも今、例の悪口メールが送られてきたら。やっぱり反射的に『ごめん』と打ってしまいそうだけど、その後には『でも、これが私だから』と続けたい。近くで私への嫌味や悪口を言っている人達がいたら、ずかずかと入っていって「でも、治らないから我慢してね。これが私なんだ」と言ってやりたい(そんなことはさすがに出来ないのだけれど)。そのくらいの図々しさがあってもいいのだと思う。そっちが私に合わせてよ、くらいの。

 良いところだってあるしね。そして埋まっているいいところは、また誰かに発掘してもらうんだ。

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図々しく生きる 鳳梨 @pine-apple

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