輝かしい逸脱

続櫂之介

第1話

どうも私には乙女心という文字や女性という文字が読めなかった。これまでクラスの人気者でみんなから笑いを奪っていたのに女性とだけは無縁だった。理由は過去の出来事による漠然とした恐怖感と不安感によるものだった。


数年前私が小学生の頃、公園の砂場にいた少女は小さく可愛い泥団子を作っていた。その少女とは仲が良く、近くの川で水切りをしたり、カニを捕まえて遊んでいた。その日はよく晴れていたような気がして、私の幻想の中にあるその少女の顔も泥団子もキラキラと輝いていた。小学生の私は彼女の前に座りながら砂を弄り遊んでいた。非常に暑く額に汗をちらつかせ、泥団子に砂を流し続ける彼女を眺めている内に私はその少女に対して胸の奥底にあるヒダのような何かがザワザワと動き、体を火照らしているのを感じた。小学生であった為それが何なのか、いまいち分からずただ額から露の様に瞬く汗と太陽の様に丸く輝かしい笑顔、肩から腰へ膝へと皺を作りながらしなやかに垂れ下がる白のワンピースを眺めることしか出来なかった。彼女は一言。

「今日、白のワンピースはハズレだわ。いつの間にか泥がこんなについてたわ。」

彼女の言葉に対していつも通り傲慢に「馬鹿だな」と言いたかったが、体の暑さと彼女の少し引き攣った笑顔が私の喉に蓋をして酷く頭がふらついた。

「そうだな、」

全力で回した脳みその中の搾りかすの様な一言を自分の足元を眺めながらこぼした。小学生の私はとうとう耐えかねて、買い物という口実を作り公園の外に出た。


この時私の首に取り付けられた喉の蓋は今もついたままである。

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