【KAC20247】彼女達が映す色

孤兎葉野 あや

青と楔

『港湾都市』から『自由都市』へ。生まれて初めて船に乗った私の目に映るのは、青の色でした。


見上げれば雲一つ浮かんでいない空、前を見ればどこまでも続いていそうな海。二つは少し違って、でもどちらもが青く見えています。


思い返すのは、小さい頃に読んだ魔法の入門書。分かりやすいように挿絵付きで書かれた本に、私が得意な水の魔法は、青色で描かれていることがほとんどでした。


でも実際に使ってみると、そこに色なんてなくて、不思議に思うこともありましたが、こうして海を見ていると、本当に青く見えるのだと実感できます。

空からの光が、その見え方に関係しているのだと、どこかで読んだように思いますが、また落ち着いて勉強できるようになったら、詳しく調べてみましょう。



・・・そんな風に勉強ばかりしていた、少し前までの私に、今自分は海の上にいると言ったら、どんな顔をするでしょうか。

家の都合で外へ出ることのほうが珍しかった、あの日の私にはとても信じられないかもしれません。


そこに至るまでには、とてもとても恐ろしい出来事がありましたが、今は出会えて良かったと思う人達が何人もいるのは、お母様やご先祖様に感謝すべきことなのでしょう。



思い返しながら、空と海の青を眺めていると、とても広くて、でもあまりにも広すぎて、楽しさと一緒に少し恐い気持ちまで浮かんできます。

私は今どこにいるのか、これからどこへ流されてゆくのかと・・・


「どうしたの? 不安そうな顔して。」

「・・・!」

そんな時にぽんと肩を叩いてくれたのは、あの出来事から逃れた私を最初に助けてくれた、今も一緒にいてくれる人でした。


ご先祖様からの縁もあり、魔力の繋がりがある私達の間では、今の感情も伝わっているかもしれません。いや、おそらくはそれを察して来てくれたのでしょう。

隠すことなく、ぎゅっと抱き付いて体温を感じます。温かい手が頭に伸びてきて、いつものように優しく撫でてくれます。


「もう大丈夫です、ありがとうございます。」

少し高いところにある顔を見上げて言えば、微笑んでくれて、もうしばらく甘えていたい気持ちになります。



船が港に停まる時、流されないように錨を下ろすと聞きますが、初めての旅を続ける私にとって、この温かい場所が、きっとそうなのでしょう。


どこまでも広がる青の中で、私が迷子にならないよう、繋ぎ止めてくれる楔のように。

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