11 剣をメンテしよう

 俺の薬草とテリアの錬金により、十本の上級ハイポーションが出来上がった。

 三本は俺、同じく三本が彼女、残り四本はお店の在庫として分ける。

 ポルポルンボン錬金術工房で、旅行に行くと告げて、会長の留守をお願いしていく。


「「「いってらっしゃいませ」」」


 みんなに見送られて、錬金術工房を出る。

 さっそく旅に出よう……とはならず、まだ行くところがある。(史上ニ回目)


 このナレリーナの町には、知り合いが多いので、どうしても行くところも色々とあるのだ。

 まあ、そういう旧交を深めるというのも、この町限定なので、勘弁してほしい。


「じゃあ次は、ドレルのところだな」

「むぅ。私を差し置いて、ドレルに会いに行くの?」

「いやいや、テリアも一緒に行くでしょ」

「うん。もちろん」


 ドレルは今はもうおじいちゃんになっているだろうが、鍛冶師だった。

 下町ゾーンの反対側、職人街に店舗兼住居がある。


「ドレル、いるかい。アラン・スコットだけど」

「はい、奥にいますけど? どのような御用ですか? 私では不満ですか?」


 受付の美少女の姉ちゃんには用がないので、ドレルを出してほしい。

 俺はアレを見せたほうが早いと思い、剣を出す。


「ちょっと用で。嬢ちゃん、これ見ればわかるかな」

「はっ、そ、それは……す、すごい。現存していたなんて、なんて綺麗」

「呼んでくれる?」

「あっ、はい。すぐ呼んできますね」


 見た目若い俺にちょっといぶかしがりながら、店員の若い姉ちゃんが奥へ行く。

 この剣はドレルが若い頃に打った名剣ドレイク・ソルジャーの一つ。全部で四本。

 折れずに現存しているのは、たぶん俺のだけだ。


 折れた同型の剣なら、そこの壁に大事そうに飾ってあるが、店主は打ち直すつもりすらないらしい。


 色々あって俺が偶然手に入れたミスリル鉱石。

 若くて力溢れるドレル。

 それから今はもう居ない火の精霊使い。

 三人が揃って、初めて打てた、名剣だ。


 打ち直すにも、強力でナイーブな火を扱える精霊使いがいないと、無理なんだよな。


「おう、アラン」

「やあ、ドレル」


 俺たちも領主と一緒で、硬い握手をする。

 彼は足を悪くしてしまい、現役時代ほどの名剣を打てないでいるとは、商人の情報だった。

 たしかに歩き方に若干、引きずっている感じがある。

 しかし、その手はまだまだ剣が打てそうなほど力強い。


 ちなみに残念ながらドワーフではないので、年齢的にもそろそろ限界なのが、ヒューマンの悲しい定めだった。


「テリア嬢も今日は一緒か」

「はい、どうも、どうも」


 テリアのノリは相変わらず軽い。

 いや、昔は肩を並べていたのに、もう今はおじいちゃんになった相手にどうしたらいいか、わからないんだろう、たぶん。


「なんか、これに替わる名剣とかない?」

「バカ言え、それ以上のやつは、一本もないぞ」

「そうか。じゃあこれ、ちょっとメンテナンスよろしく」

「いいぞ。すぐ終わる。ちょっと待ってろ」


 昔話をするつもりもなく、剣を受け取り引っ込んでいく。

 彼は昔から寡黙だった。


 受付には俺とテリアと受付の美少女。

 この美少女がこの工房継ぐのかな。なんかドレルに似てないけど、誰なんだろう。


「わわわ、わたし、ああ、あのっ、ソラリア・メールといいます」


 血筋だな。メールはドレルの苗字だ。つまり孫か何かだ。

 美少女でもって、おっぱいも大きい。背は普通。

 明るい茶色の髪は後ろで縛ってポニテにしている。


「あの剣。名剣ドレイク・ソルジャーですよね。ね?」

「そうだけど」

「そこに飾ってある剣の同型で、世界に四本しかないって」

「そうだけど」

「そしてすでに三本が失われたのは、広く知られている。残りの一本って、もはや伝説ですよ、伝説」

「いや伝説じゃないぞ。こうしてここにある」

「はい、私、見ちゃいました。どうしよう。みんなに、あ、これって言ってもいいんでしょうか?」

「あーうーん。まあ言ってもいいけど、所有者の俺の名前などは明かさないことってことで」

「わかりました。あった、存在したってことだけでも、十分です。すごいです。綺麗ですね。すごい綺麗ですよね」


「ああ、透き通るような剣だけど、火炎を彷彿ほうふつとするほど、力強い」

「なるほど。深いです。すごい」


 ドレイク・ソルジャーは名剣だけど、その誕生は、かなりのところ運だった。

 実際には十本作られたのだけど、六本はゴミくずになったので、捨てられたのだ。

 絶頂期のドレルの腕で、そうだったので、かなりナイーブな剣でもある。


 別に折れやすいわけではない。

 所有者の要求にはかなり答える。普通の剣よりははるかに頑丈だ。

 ただ、ちょっと、他のドレイク・ソルジャーはAランク冒険者の手に渡り、対ドラゴン戦とかで無理をして使ったらしく、折れたりして失われた、と聞いた。


 無茶しすぎは何事もよくない。


「ドレルにこれお土産。マルバード1623」

「はい? 1623年? そんな古いの飲めるんです?」

「もちろん。彼も知ってる銘柄だから、よろこぶと思うよ」

「わっかりました。預からせていただきますね」


 残りはまだあるけど、一本ずつ大切に飲みたい。一本、また一本と出していくと、いずれはなくなる。有限だ。


 ドレルもドワーフみたいに酒は大好きだから、よろこぶだろう。

 売ったほうがいい、とは恐らく考えないかな。

 金にも困ってないと思うし。


「おい、出来たぞ」

「ありがとう。ドレル」


 俺は料金を聞いて、その金額を出した。

 安くするのも、高くするのも、この頑固親父は受け取らない。


「じゃあ、また」


 よし、これでいいかな。

 さて、今度こそ出発するか。


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