第5話 トークタイム〈八の姫テレーゼ〉
今日は朝からガーデンに来ております。
今日も女官の皆様がしてくださったメイク、髪型、ドレスの調節と着付けは素晴らしく、私至上最高の綺麗を更新することとなりました。女官の皆様のスキルには、ただただ敬服いたします。
今日も何とか、顔を上げていこうと思います。
が、昨晩はそれどころではありませんでした。
昨日、今日から何をするかの説明があったのです。
箱庭の儀は、これからトークタイム週になること。
誰との会話を希望するか、第五希望まで用紙に書き、前日の夕刻までに女官に渡すこと。
それをもとに、神殿女官が毎日の組み合わせを決めること。
午前は皆一度ガーデンに集まり、そこで発表された組み合わせで、第三館の個室にてそれぞれトークタイムを行うこと。その際、女官が付くこと。
午前中はトークタイムのみ、午後の時間は自由だそうです。
一人で過ごしてもいいし、誰かと過ごしてもいいそうです。
その誰かも自由だそうで、王子でも姫でも可。誰かと約束してもいいし、誰でもいいから会いたければガーデンに行くと良いとのこと。
神殿女官は午後のガーデンをそういう場所、誰かと会いたい過ごしたいけれど、約束ができなかった場合の出会いの場だと説明していました。
5日トークタイムを行い、2日は休日、しばらくこれを繰り返すそうです。
……ええ、しばらくこれが続くようです。
冗談ではありません。
トークタイム、自己紹介よりもやっかいではないですか!!
それでも、夕刻までには希望票を提出せねばなりません。
真面目に箱庭の儀に参加しているように見せるには、そうするしか手はありません。
考えて、考えて、考えて、とりあえずこの順番にしてみました。
私が口ごもったとき、追及をしないでくれそうな殿下の順番です。
第1希望、弐国リーンハルト殿下。
第2希望、五国ランベルト殿下。
第3希望、七国ディルク殿下。
第4希望、四国ユリウス殿下。
第5希望、九国ケヴィン殿下。
これで慣れていこうという作戦でもあります。
もっとも、私の希望がどのくらい通るのかはわかりません。
私が希望しても、相手が希望しなくてはどうにもならないかもしれません。
しかし、これ、本当にどうにかなるのでしょうか。
トークタイム、つまり会話の時間。
会話、つまり私も何か話さなければならないということです。
いったい、何を!?
王の愚策にはほとほとあきれます。
実は、ちょっとした思い付きで替え玉作戦をしてみた、とでもいうのではないでしょうか。
あの王は、実は何も考えていなかったのではないでしょうか!?
と、憤っても状況は変わりません。
ままならないことというのはあるのです。仕方がないのです。
つまり、私が話さなければならない、と考えるから問題なのです。
つまり、私が相手の話を聞いてあげれば良いのです。
ほら、そういう殿方っていますよね、自慢話をしたいとか、自分の好きなことを話したいとか、そんな方向です。
これで何とか、なるのではないでしょうか。なるといいなと思います。本当に、何とかなるでしょうか……。
朝のガーデンに皆さまが集まりました。
神殿女官が、トークタイムについてもう一度説明しています。
私は内心それどころではありません。自分の組み合わせは誰なのかと、それで頭がいっぱいです。
神殿女官の話が途切れました。咳払いをされています。
どうも、何かあるらしいです。
「注意事項を説明させていただきます。
まず、リーンハルト殿下、ユリウス殿下、ディルク殿下、ケヴィン殿下は、拾国の姫君のみをご記入されました。
殿下方、一人の候補者のみ書かれますと、組み合わせが難しくトークタイムができません。これは零国が望む箱庭の儀の趣旨に反すると、判断いたしました。
今日は初日ということもあり、強制的に組み合わせを決定させていただいております。今後は、できれば5人、少なくとも3人の姫君のお名前を書かれますよう、お願いいたします。
なお、指名された姫君には拒否権があります。とはいえ、拒否なさってばかりでは箱庭の儀が進みません。拾国の姫君にはその旨をお伝えいたします。
そして、ランベルト殿下、5名の記入欄全部に同じ姫君の名前を書かれるのも、お控えください。」
なんと、一番人気は拾国の姫君でしたか。
銀の髪の神秘的な巫女姫というのが、殿方の興味を引くのでしょうか。
神秘的というのがポイントかもしれません。巫女姫のベールの向こうに隠されているものを知りたくなる、そんな要素かもしれません。
それを分析しても、残念ながら私には活かせませんが。私には、神秘的という要素はまったくないのです。
ただ、隠しているものはあります。ですが、万が一それを見つけられては困ります。見つけられたら、私を好きになるどころか、断罪一直線です。勘弁してほしいです。
そして私も拒否権を使いたい。どのくらい真面目に参加すれば、拒否権を行使してもよくなるでしょうか?
そして、いよいよ今日の組み合わせが発表される時が来ました。
運命の一瞬とすら感じます。
神殿女官が、手にした二つ折りの用紙を開きます。
「八国のテレーゼ姫と、九国のケヴィン殿下。」
一瞬、目の前が真っ暗になりました。ほかの組み合わせが発表されているようですが、まったく耳に入ってきません。
なぜいきなり、第5希望なのでしょうか。
なぜよりによって、態度が大きく振り回されそうな、この人なのでしょうか。
私の希望は、いったいどこに消えてしまったのでしょうか。
女官に先導され、ケヴィン殿下とともに第三館に向かいます。
姫君の滞在している館でもなく、殿下の滞在している館でもなく、もう一つの館です。
そこに向かう小道を歩きながら、私の脳内では、ドナドナというメロディーが繰り返されています。
私の故郷の歌です。売られていく鳥の悲しい歌です。
女官の後を付いていけば、トークタイムの個室です。
落ち着いた調度品、過ごしやすそうな雰囲気に整えられた部屋ですが、牢獄のように感じます。
女官は、部屋に入ればお茶の支度を始めています。あとは二人で好きにしなさいと言わんばかりです。
ケヴィン様は、お一人でさっさとソファに座ってしまわれました。
ローテーブルには、カップとお茶菓子が並んでいます。
私は一歩部屋に入った所で立ち尽くしています。
女官は、二人分のお茶を注ぐと壁際に立ちました。壁にでもなっているかのような、気配のなさです。
私もそのスキルを身に付けたいです、と現実逃避してみます。
ケヴィン殿下が私に視線を向けました。
手が震えそうになったのをドレスのスカートに隠します。この方の存在感の強さは、私には怖いのです。
「あのさ、俺はこんな風にしかできねえから、怖がるのもわかるけどな。
いきなり斬りかかったりしねえし、取って食ったりもしねえから。
そんな死にそうな顔しなくても、大丈夫だって。」
死にそう……、それは少し失礼かもしれません。とりあえず話しかけてくださった殿下に対して。
ケヴィン殿下が続けます。
「初回だし、挨拶しましたってんで、これでおしまいにしようか?」
思わず、小さく首を振りました。
それはダメです。なんとか真面目にやってます、という雰囲気にしなければなりません。
ケヴィン殿下がさらに続けます。
「そんなら、女ってのは、しゃべるの好きだろ?聞くから、適当にしか聞けねえけど、そうすりゃ時間もつぶれるだろ。」
大きく首を振ります。
しゃべる、一方的に話す、そんなことをしたらボロが出ます。つまりバレる。
「わかった、わかった。俺の話、聞く?
俺さ、城が窮屈なんで、流れの戦士しながら旅してる。
姫さんにとって、面白いかどうかはわかんねえけど。」
……とりあえず、私も向かいのソファに座ることにしました。
どうもケヴィン殿下は旅をしながら、魔獣退治やら、人助けやら、時に決闘を申し込んだり、申し込まれたり、されているようです。放浪の旅をする王子様、物語の主人公ができるのではないでしょうか。
言葉遣いはともかく、話すのが上手です。家庭教師をしていた子どもたちにも、聞かせてあげたいくらいです。
そして、お話を聞くうちに分かりました。この方本当に、丁寧とか、きちんととか、そういったことが苦手なようです。マナーに礼儀と王宮は堅苦しいですから、確かに窮屈でいらっしゃるのでしょう。
おかげさまで、40分の時間がつぶせました。
予想外にかなりの気づかいをしていただきました。ありがとうございます。本当にありがたいです。私は姫じゃないのに。
そして翌日。2日目のトークタイムのお相手は、四国のユリウス殿下となりました。第4希望です。
せめて第3希望くらいになってほしかったのですが、仕方ありません。
私の希望は、ホントどこに行ってしまったのでしょう。どこかに行ってもいいですから、いずれ帰ってきてください。お願いです。
ユリウス殿下とは、ゆる~く、箱庭のこととか、卵のこととかをお話ししました。
箱庭って何だろうね~、卵って何だろうね~、よくわかんないね~、そんな感じです。
20分お話して、終了することにしました。
今日も無事トークタイムを乗り切ることができました。ありがとうございます。
3日目、トークタイムのお相手は、七国のディルク殿下となりました。ようやく第3希望です。
殿下からは、聞きたいことがあるから分かる範囲で答えてほしい、とご要望がありました。
分かる範囲でというのが助かります。たぶん、ほとんど分からない可能性が高いですが。
聞かれたのは、魔獣の侵入状況でした。やはり、分かりませんでした。
国々の外にある外界、結界の外からくる魔獣はいわば災害レベルの害獣です。魔獣の侵入があったという話はちらほらあったような気がしますが、殿下にお答えできるほど詳しい情報は当然持っていないのです。
間を持たせるために、私から殿下に聞いてみることにしました。学園で学ばれていることについてです。
殿下はたぶん分かりにくいと思うがと前置きされたうえで、魔獣等外界のものがこちらに侵入した際の生態の変化について話してくださいました。
残念なことに、さっぱりお話についていけませんでした。お聞きしたこちらが申し訳ないくらいです。
ですが15分間、トークタイムを行うことができました。ありがとうございます。私が姫と名乗るなどおこがましいのですが。
4日目、トークタイムのお相手は、五国のランベルト殿下となりました。
ランベルト殿下はまず礼儀正しく、自分はすでに心に決めた姫がいるがそれでもトークタイムを続けるかと、確認してくださいました。
もちろんです。壱の姫に興味がおありなのはわかっているので、会話だけ付き合っていただきたいです。
次にランベルト殿下は、どんな話をしたいかと希望を聞いてくださいました。
お気づかいありがとうございます。ちょっと考えて、五国の観光名所をお聞きすることにしました。これなら、話についていけるのではないかと考えてみたのです。
ランベルト殿下は少し驚かれたご様子でしたが、有名な大神殿の話、美術館の話、広大な庭園を持つ王立の植物園の話をしてくださいました。
たぶん観光名所の中でも、令嬢が興味を持ちそうな所を選んでくださったのだと思います。
なので私もお聞きした感想として、神殿のステンドグラスや、植物園の蔓薔薇の庭は、令嬢なら一度見てみたいと思う場所です、とお伝えしました。実際、壱の姫君が好まれるかどうかは分かりませんが、参考になるのではと。すでにお考えだったかもしれませんが。
私の方からは、八国の観光名所をお伝えしてみました。没落令嬢でも何とか知識はあるのです、知識だけですが。
令嬢向けの場所ですがとお断りしたうえで、王宮前の大公園にある噴水、令嬢が好む演目の多い劇場、おしのびで公爵令嬢も立ちよられたという噂のティールームをお話ししました。予想よりも殿下は興味深そうにお聞きになられていたので、何か参考になる箇所があったのかもしれません。
姫じゃない私でも、何かお役に立てたのなら嬉しいです。ありがとうございました。
しかし、とても礼儀正しい方なのに、どうして壱の姫にはああなのでしょうか、不思議です。それほどお好きになられた、ということなのかもしれません。ですが、それを嬉しいと思うかどうかは、壱の姫君にしか判断できないわけで……。
そして今、私は反省しております。とても反省しております。
四人の殿下方とトークタイムを行いましたが、王子様らしくないなどと評価した私は、間違っておりました。
びくびくしている私に対して、バーカバーカなどと追い打ちをかけるような未熟な殿方は一人もいらっしゃいませんでした。皆さま、素晴らしい方です。
殿下方の個性については、姫君がそれぞれ判断なさればいいことだと思います。私がとやかく言うことではありませんでした。
そして4日目の午後は、お茶会のお誘いがあったので、姫君たちと一緒に過ごすことになりました。
心象を悪くしたくないという気持ちもありますが、殿下とばかりお話していたので、気分を変えたいのです。こう、女子どうしの話がしたいといいますか。いえ、自分で自分の首を絞めることにならなければ良いのですが。
ガーデンの一角に、お茶会のテーブルが整えられています。そこは特に見事な花々に囲まれた場所で、気持ちも晴れやかになります。
ガーデンの向こうで、二人の殿下がお話しされているのが見えます。何を話されているかまでは聞こえませんので、こちらの話もきっと届かないでしょう。
支度に手間取った私が一番最後になってしまいましたが、シャルロッテ姫、クリスタ姫、イザベル姫が迎え入れてくださいました。拾国の姫君は引き続き引きこもられているので、このメンバーでのお茶会です。
今日も皆さま、ドレスがそれぞれにお似合いです。シャルロッテ姫は華奢さが引き立ち、クリスタ姫はスレンダーな美しさが引き出され、イザベル姫はメリハリのある女らしさが嫌味なく伝わってきます。
シャルロッテ姫が私たちに微笑まれました。
「こちらの庭はやはり見事ですね。どの花がお好きですか?」
クリスタ姫が答えられます。
「私は、奥の方にある青い花を集めた一角が好きです。」
シャルロッテ姫がにこやかに応じられます。
「私も行ってみました。晴れわたる空のような色合いで素敵でした。」
ガーデンを散歩される余裕があるということでしょうか。少しうらやましいです。
そして、ガーデンって自由に歩いて良かったのでしょうか?
イザベル姫は怪訝そうなお顔です。
「あなた方、午前中はトークタイム、午後は姫と過ごしていたでしょう。いったいいつ、そんなことをなさったの?」
クリスタ姫がさくっと答えられます。
「早朝です。」
……とても健康的な生活習慣をお持ちのようです。
シャルロッテ姫は少しためらい、はにかんで答えられました。
「晩餐の後とか。」
……それって夜。シャルロッテ姫は一見お淑やかに見えますが、実はお転婆な姫をされてきたのかもしれません。
何となく一瞬、イザベル姫と顔を見合わせました。
姫君の雰囲気でわかることもあります。しかし、お話してみなければ分からないこともある。姫君といえど、それぞれ個性的ということなのでしょう。
花の話に始まって、滞在している部屋のインテリア、世話をする女官のこと、話題はころころ変わっていきます。皆で控え目に笑いあうこともあります。しかし、殿下方のお話は出てきません。なので私も話さないことにします。
そして私が口ごもると、皆さま察して話題を変えてくださることがわかりました。
シャルロッテ様はさりげなく、クリスタ様はすぐ別の話題に切り替えて、気が強そうでいらっしゃるイザベル様も私の代わりに答えるなど、してくださるのです。
ありがとうございます。本当にありがたいです。
そしてもう一つ。お茶とともに、焼き菓子やらなにやらテーブルに用意されているのですが、これ食べ過ぎにならないのでしょうか。だって、午前中のトークタイムにもお茶菓子は用意されているのです。私には食べる余裕はありませんが。
シャルロッテ様も、クリスタ様も、イザベル様も、時々お菓子をつままれながらお話されています。姫ってすごい。私には無理です。
5日目、今日のトークタイムのお相手はリーンハルト殿下となりました。この5日間、毎日同じ希望票を出し続けてきましたが、ようやく私の第1希望です。
殿下にとって私は希望順位が低かった、そう考えると心苦しいのですが。私にも私の都合があるので、どうぞよろしくお願いします、という気分です。
そしてトークタイム開始すぐ、私が第1希望に選んだのは間違いなかったと、確信するに至りました。この方、何というかすごいです。
まるで、私に事情があることを知っているかのような、そう錯覚しそうなほど質問の仕方が巧みなのです。
例えば、どんな紅茶が好きかと聞かれれば、私は本来のテレーゼ姫なら何と答えるか考えざるを得ません。そして、それを知らない私は答えられず、口ごもるしかなくなるのです。
しかし、リーンハルト殿下はそんな聞き方はなさらない。いい香りですねといって、こちらの感想を促し、この紅茶が美味しいかどうかを尋ねられるのです。
本来ならそれについても、テレーゼ姫の好み、性格やお考えなどを鑑みて、お答えするべきでしょう。でも、聞かれているのは感想なのです。感想ならば、その時の気分や状況に左右されるものです。左右されても仕方がないのです。つまり、絶対的な回答というものはない。できない。できなくても良くなるのです。
殿下は、テレーゼ姫自身のことはお尋ねになりませんでした。八国のこともお聞きになりませんでした。かわりに聞かれたのは、この箱庭の儀に参加している姫君や殿下の印象です。
大前提として、姫君でも殿下でもけなすようなことをすれば、国家間の問題に発展しかねないわけですからそれは避け、ただ私が感じた印象をお話します。無理するまでもなく、皆さま素晴らしいと思っていますので、そのままをお伝えしてみました。
お話しするなかで、リーンハルト殿下もまた皆さまの印象を話されました。さすが殿下、よく観察されていることが分かりました。そして、そのリーンハルト殿下のお話に対し、どう私が反応するかを観察されていたようにも思います。
結局一時間近く、トークタイムを行うことができました。ありがとうございます。おかげさまで、大変真面目に儀式に参加しているよう見せかけることができました。
ただ、リーンハルト殿下は何をお知りになりたかったのだろうと、そう思わざるを得ません。
本来のテレーゼ姫を知りたかったというよりは、ここにいるテレーゼの考え方や感じ方、ものの見方をお知りになりたかったようにも思われて。
……そんな馬鹿な。もし私が姫ではないと気づかれているなら、そんな私には価値がないはずです。だから、姫ではない私の考えを聞くなど意味がない。だから、それはあり得ないはずです。
例えば、姫君の自国での話は、悪く言えばいくらでも取り繕うことができます。でも、今この箱庭での話ならば取り繕うのは難しくなる。話すことを取り繕えたとしても、どこかで行動とズレが出る。そこに人柄があらわれてしまう、そういうことなのだろうと思います。
5日間のトークタイムが終わりました。ようやく2日の休みです。
拾国の姫君にはただ感謝です。何と姫君は5日とも拒否権を行使されたのです。
私よりもっと困ったちゃんな姫君がいらっしゃることで、参加を装っている私が普通に見えます。本当にありがたいことです。
でも拾国の姫君は、なぜこうまでして部屋から出てこられないのでしょうか?
……実は、彼女も替え玉だった。
そんな、まさか。替え玉など1人で十分。
神殿は絶対なのですから、そんなことをする方が私以外にいるとは考えられません。きっと私には想像もつかない理由で、引きこもっていらっしゃるに違いありません。
明日からの休みは、私も部屋にこもります。来週のためにこもります。
ただ、次週の希望票は考えねばなりません。
私の希望は、やはり先週と変わりません。なので、このようにしてみました。
第1希望、九国ケヴィン殿下。
第2希望、四国ユリウス殿下。
第3希望、七国ディルク殿下。
第4希望、五国ランベルト殿下。
第5希望、弐国リーンハルト殿下。
ええ、先週と希望順位を逆にしてみました。
その結果、2週目は。
1日目、九国ケヴィン殿下。
2日目、四国ユリウス殿下。
3日目、七国ディルク殿下。
4日目、五国ランベルト殿下。
5日目、弐国リーンハルト殿下。
このような順で、トークタイムを行うこととなりました。
……謎です。いったいこの組み合わせは、誰がどのように決めているのでしょうか。
5日が終われば、再び2日の休みです。
今週の午後は、2回ほど姫君たちとお茶会をしました。いろいろ頑張りました。
休日の2日は部屋にこもります。次の週のためにも、こもります。
あとどれくらい、これが繰り返されるのでしょうか。
どなたかが卵を孵すまで、これは続くのでしょうか。
大丈夫、まだ続けられると思います。少し慣れてきましたから、きっと続けられます。
それでも、時おり心身が重苦しく感じます。負荷がかかっているのです。
先が見えないことが、不安なのかもしれません。
いいえ、先はあるはずです、箱庭の儀が1年も続いたとは聞いたことがありません。
だから、大丈夫なはずです。たぶん、大丈夫です。……いいえ。
箱庭の儀が終了したとしても、私のその先は、私の未来は見えません。見えないのです。
ここから無事に出られたとしても、テレーゼ姫の代わりをした私が八国に帰ったところで、どうなるというのでしょう。そもそもここで身代わりが可能なのは、国外では誰もテレーゼ姫を知らないからです。だから、八国で私が姫の身代わりを務めることは無理。ご苦労様と労われることもない。元の生活に戻れるなら幸運。運が悪ければ……、私はどうなってしまうのでしょうか。
けれど。少しわかったのです。
私は皆さまに姫と思われています。平凡な姫でもなく、臆病な姫でもなく、訳ありの姫だと思われているようなのです。
国の事情はそれぞれだから、何かあるのだろうと思われているようなのです。国の事情はそれぞれだからそれ以上は聞かず、そっとしてくださっているようなのです。国の事情はそれぞれだから手は出せないけれど、少しばかりの気遣いをしてくださっているようなのです。
私は自分を不運だと思います。でも同時に、幸運も持っているのかもしれません。
けれど、だからこそ、叫びたい。叫んでしまいたい。
王様の耳はロバの耳と、叫びたくなる思いにかられます。
どこかに、叫べる場所がないものでしょうか?
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