第47話 音楽って凄い!

 銀髪は男二人が動けない事を確認した後、落ちていたフォークを拾った。

 そして、ナイフみたいにギュッと握った後、小柄な男に近づいた。

 銀髪の赤紫の瞳が殺気立っていた。

 まずい、なんかもっと悲惨な事が起きそうな気がする。

 そんな予感は的中し、銀髪は小柄な男の右脚の太腿ふともも部分を突き刺した。

「ぎゃああああああ!!!」

 たちまち悶える小柄な男。

 銀髪は一旦引っこ抜いたかと思えば、また突き刺して、抜いて、刺してを繰り返した。

 フォークは血や皮膚が付き、銀髪の顔にも血しぶきが付いた。

 満足したのか、今度は髭もじゃの男の方に近づいた。

 男は身の危険を感じたのだろう、狩人に狩られる獣みたいな顔をして「や、やめろ……」と血まみれの口元で言った。

 が、銀髪は聞く耳を持たず、足ではなく目に刺した。

「ぬああああああああ!!!」

 まともに動けない両手脚をグネグネ動かしながら悶絶していた。

 今度は抜いたり刺したりせずに、男の耳元に近づいていた。

 唇を動かしているのは分かったが、具体的にどんな言葉を彼に言ったのかは分からなかった。

 ただ髭もじゃの男の顔がたちまち青ざめていくのが見えた。

 すると、銀髪は男の耳に噛み付いたかと思ったら、そのまま勢い良く引き剥がした。

「おごっ、ぐるがぉっ?!」

 もはや言葉にもなっていない声で口と耳の痕を流血させていた。

 銀髪の凶行に誰も止めようとはしなかった。

 いや、止める勇気がなかったかもしれない。

 私もさすがに致命傷を負った相手にここまでやるのかとは思ったが、そうかといって男二人に同情するかと言ったら何か違うような気がするし……。

 それに何より一番不気味だったのは、この光景に涼しい顔で見ているモミジだった。

 テーブルの上で頬杖を付きながら見世物でも見ているような感覚で眺めている様は一種の狂気を感じた。

 やはり、ロリンの言う通り、あまり関わらない方がいいのかもしれない。

 そうだけど、このお盆をどうしたらいいのだろう。

 もしソッと置いて逃げたらあの二人組の男達みたいになりそうだし、それに白い塊と甘い匂いがする黒い塊も気になる。

 いや、こんな状況で何を考えているんだ。

 現実逃避ってやつなのかな。

 なんて事を考えていると、騒ぎを聞きつけたのだろう、職員と白い鎧達がやってきた。

 すると、銀髪はくわえていた髭もじゃ男の耳をプッと捨てて汚れた口元を拭った後、目に刺さっているフォークを引き抜いた。

 髭もじゃの男は「はぎゃん!」と軽い悲鳴を上げた。

「フォーク、取り替えてきます」

 銀髪はモミジに向かってそう言うと、スタスタと歩いていった。

 途中、私とすれ違ったが、視線をお盆の方に向けた後、そのままカウンターの方に向かっていった。

 つまみ食いしていないか確認したのかな。

「おい、これは一体……なっ……」

 赤と白い鎧達が騒動の現場に到着するや否や、この悲惨な状況に言葉を失っていた。

 職員は口元に手を抑えてそのまま走り去ってしまった。

「おまわりさん」

 すると、モミジが彼らに声をかけていた。

「この人達、私にありもしない言いがかりをつけたあげく、殴られそうになったのを私の護衛が助けてくれたの」

 あっ、あの銀髪はモミジさんの護衛だったのか。

 それもそうか。

 あんな気品あふれる人が着の身着のまま一人旅なんてするはずがないか。

 モミジの言葉に白い鎧達は半信半疑だった。

「襲われたって……正当防衛にしてはやり過ぎですよ」

「でも、殺してはいないわよ」

 モミジは男達の方に指を差した。

 白い鎧の一人が髭もじゃと小柄の男達の様態を確認した。

「まだ息はあります」

 そう報告すると、モミジの前に立っていた赤い鎧が「すぐに病院で治療を」と言って、彼らを担架たんかに乗せて運んでいった。

「あなたもご同行願えますか?」

 赤い鎧はそう言うと、モミジは「えぇ」と立ち上がった。

 そこへ銀髪がやってきた。

 モミジが白い鎧達に連行されそうになっているのを見るや否や、また彼女の周囲におどろおどろしいオーラが漂ってきた。

 が、「やめなさい」とモミジに言われたので、銀髪はスゥと殺気を消した。

 白い鎧は銀髪の方にも同行するように言うと、彼女は素直に応じていた。

 モミジが彼らの後を付いていこうとした時、私の方を向いた。

 騒動の重要参考人の立場になっていても、彼女の表情は涼しいままだった。

「それ、あげるわ。美味しいわよ」

 モミジは私が持っている料理を指差して言うと、前を向いて歩き出した。

 すると、銀髪が何かを投げていた。

 私は慌てて腕を上げた。

 料理をお盆から落とさないようにしながらキャッチすると、フォークだった。

 臭いを嗅いでみると、全く血の香りとかしないので、新品だと分かった。

 白い鎧達が去ると、大勢の職員達が現れて、荒れた食堂を掃除し始めた。

 席に座っていた入国者は皆、暗い顔をしていた。

 さすがにあんな光景を見てしまったら食事を再開する訳もなく、食べ残しを見たり、ヒソヒソ話したりしていた。 

 私もこの料理をどうしようか迷っていた。

 とりあえず、ロリンの所へ持っていこうとした時、綺麗な音色が流れてきた。

 辺りを見渡してみると、鳥の羽根が付いた帽子を被った青年がバイオリンを弾きながら立っていた。

 いや、立っていた訳ではない。

 吹き抜けになっている所で浮びながら弾いているのだ。

 よく見ると、背中から蝶の羽根が生えていた。

 エメラルドグリーンの髪と瞳と同じ羽根を羽ばたかせながら巧みな弓さばきで歌っているかのような音色を奏でた。

 すると、どうだろう。

 さっきまで沈鬱としていた食堂が彼の奏でたバイオリンの歌声が響き渡ると、たちまち表情が晴れやかになった。

 自然と立ち上がり、彼の元へ近づいていった。

 私もお盆を持ちながら人の動きに流されるがままに向かった。

 入国者達が手すりに掴まって、彼の演奏に耳を傾けていた。

 うっとりとした表情で彼を見つめる者。

 手拍子を叩いて楽しんでいる者。

 中には踊りだす者もいて、まるでコンサートに来ているかのようだった。

 彼の演奏はラストスパートと言わんばかりにテンポが早くなり、場の盛り上がりが頂点に達した瞬間に華麗に終わらせると、たちまち拍手が起きた。

 彼は一人一人にお礼をするかのように頭を下げた後、「皆さん、暗い時こそ音楽を! 音楽は心を救う魔法の薬なんです!」と叫んだ後、ゆっくり降りていった。


↓宣伝の妖精からのお知らせ

皆様、こんにちは。

ピリタンです。

この作品のフォローはお済みでしょうか。

もしまだの方がいらしたらぜひご登録をお願いします。

またこの作品を面白いと思ってくださったら、ハートマークを押していただけますと幸いです。


感想……うーん、個人的に演奏者は好きではないですね。

浮気しそうですし。

では。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る