第15話 奴らの根城に潜入

「よし、そうと決まれば……」

 ティーロはそう言って、三つあるうちの左側のソファをどかした。

 床に金庫みたいなドアがあり、彼はギィと若干きしむ音を立てながら開けた。

 中は薄っすらとハシゴが見えた。

 これを見て、私はなぜ不自然にソファが多く配置されているのか、分かった。

 この扉を隠すためだったんだ。

「どこに続いているの?」

 私がティーロに聞くと、彼は「城の中までだ」と言って降り始めた。

「城の中? なんで、そんな所まで続いているの?」

「地道に掘っていったんです。いつでも反撃できるように」

 ティーマスがそう説明すると、また隠れ家に入った時と同じく王女を先に降りさせてから続いた。

 私とロリンは残りの二つのソファを入り口まで運んで、万が一奴らが攻めてきた時、入って来られないようにした。

 それをしてからハシゴを降りていった。

 隠れ家からさらに地下はデコボコだった。

 一方通行しか行けないくらい幅が狭くて、前方に何があるのか分からなかった。

 閉鎖空間に近いトンネルだからか、酸素が薄い。

 私はなるべく多めに吸わないように鼻で息を吸って吐いていた。

 彼らは何ともない様子で、ズンズンと進んでいく。

 人形は酸素も気にならないのかなと思っていると、急に立ち止まった。

「ここだ」

 ティーロのたくましい声が聞こえた。

 剣士の背中でよく見るが、恐らく来た道と同様、地上へと続くハシゴがあるのだろう。

 案の定、ギシッと上る音が耳に入り、ガコッと何かを押し出すようなのも聞こえてきた。

「よし、いいぞ」

 ティーロがヒソヒソと言ったのを合図に、私達は地上に出た。

 外は薄暗かった。

 それに埃っぽい。

 私達が歩く度にフワッと舞い上がって、思わず咳き込みそうになったけど、ここで見つかってしまったら、ティーナ達の長年の努力を踏みにじる事になるので、必死に耐えた。

「ここはどこなの?」

 ロリンが口元を抑えながら聞いた。

「さぁ? 詳しくは分かりませんが……掃除が丁寧にされていない所を見ると、物置きか何かだと」

 ティーマスはそう言って首を傾げた。

 確かに言われてみれば、この空間には物が多いように見える。

 ティーロが持ってきた灯りでぼやぁとしか見えないけど、置かれているものも統一感がなく綺麗な女性の肖像画が床に落ちていたり、偉そうな髭はやした銅像が寝かされていたりした。

 歴史的価値がありそうなものをこんなに乱雑に保管している所を見ると、奴らがしまいこんだ可能性が出てきた。

「それにしても、よくピンポイントでこんな所に出られたね」

 私がそう言うと、ティーロが「いや、色んな所を掘って埋めてを繰り返して、ようやく良さそうな所を見つけたんだ」と言った。

 なるほど、あれこれと試行錯誤していたのね。

 彼が見つからずに侵入できる場所を探している光景が容易に想像できた。

「ちょっと待って」

 すると、ティーナが何かを見つけたのか、耳を済ましていた。

 辺りをキョロキョロしていると、比較的物が少ない方の壁に耳をあてていた。

「何か聞こえる」

 彼女がそう言ったので、私達も壁の向こうから聞こえる音を聞いてみた。

――カンッカンッ

――ガタッガタッ

――ガガガガガ

――ビシッバシッ

――ガアァガアァ

 うーん、何だか鼓膜が痛くなりそうな音ばかリだ。

 でも、この音どこかで聞いた事があるような……。

「私の研究施設にそっくり」

 ロリンがポツリとそう言った時、私の脳内にあくせくと作業をしているピニー達を思い出した。

 そして、この壁の向こうに何かあるのか、分かった。

「工場だ!」

「工場よ!」

 私とロリンはほぼ同時に声を上げた。

「シー!」

 私達の声が大きかったのか、ティーナが唇の前に人差し指をあてて静かにするように注意されてしまった。

「という事は、工場のすぐ近くね」

 ロリンは声を潜めて言った。

「あぁ、だからこそ、ここを選んだ」

 ティーロは私達の反応が嬉しいのか、少しだけ口角を上げていた。

 ふとここまでの道を全部彼一人がやったのかという疑問が浮かんだ。

 ティーナとティーマスは一体何をやっていたのだろう。

 彼女の話を思い出してみると、ピグマーリオがムーニー達に支配された事は分かったけど、魔機に追いかけられた理由をちゃんと聞いていなかったっけ。

 私が今考えた事をまとめて尋ねると、ティーナは「そういえば言ってなかったですね」と思い出したような顔をしていた。

「私とティーマスは……捕まっていたんです。奴らに」

 ティーナは視線を落として言った。

「捕まっていた? どうして?」

「それは……」

 ティーナは言おうとしたが、突然瞳がブルブルっと震え、まるで声を奪われたかのように唇をパクパクするだけで何も言わなくなってしまった。

 これを見た剣士が王女の背中を擦りながら代わりに答えてくれた。

「我々人形達の研究ですよ」

 ティーマスが苦い顔をして言った。

「奴らは我々みたいな人形が物珍しいようで……あれこれいじくりまわされて……僕もティーナも……もし番兵が居眠りをしていなかったら今頃どうなっていたか……」

 彼はそう言って黙ってしまった。

 皆まで言わなくても、大体想像できた。

 そういう事だったんだ。

 ティーナとティーマスは奴らに囚われていたけど、脱出して逃げ出したんだ。

 きっとティーマスが「俺の事はいいから先に行け」とか言って王女を先に逃して、魔機達と戦っていたのだろう。

 だとしたら、あの感動的な再会も納得できる。

 うーん、なんてこった。

 改造させるだけでは飽き足らず、研究材料にするとは。

 チラッとロリンを見ると、気まずそうな顔をしていた。

「ごめんなさい。余計な事を聞いちゃって……」

「いいんです。今、こうして生きているんですから」

 私が謝ると、ティーナはニコッと笑って許してくれた。

 そして、なぜか立ち上がった。

「みんなでこの悪夢みたいな国を終わらせましょう!」

 敵地にいるからか、なるべく小さめな声で鼓舞した。

 私達も王女の声に合わせて、ヒソヒソ声で「エイエイオー!」と腕を上げた。

 早速透明化ポーションを食べて工場に向かおうとしたが、ある問題が起きた。

 人形達には消化器官がないのだ。

 そのため、私みたいに食べて効果を発揮する事ができない。

 万事休すかと思われたが、ロリンはすぐに固形ポーションを燃やして液体にし、それを頭から被せる事で解決した。

 じゃあ、固形にしなくてもいいじゃん。

 私はそう言ったが、「持ち運びに便利なのよ」とウインクした。


↓宣伝の妖精からのお知らせ

皆……ゴホッゴホッ!

ちゅ、チュピタンです!

まだ風邪治ってないですが、頑張ります!


早速ですが、この作品のフォローはお済みでしょうか?

もし『まだ登録してないよ〜!』という方がいらしたら、ぜひフォローしてください!

また面白いよと思ってくださったら、お星様とハートをください!


えっと……前話を見てから今回の話を見たのですが、なるほどいよいよムーニーと魔機達の城に潜入ですね!


無事に王国の平和を取り戻せるのでしょうか……気になります!


では、私は病院に行くので、この辺で失礼します!


次回、またお会いしま……ゴホッゴホッ……しょ〜!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る