赤色の軍団と恋の奇跡【KAC20247】
藤澤勇樹
第1話 赤い軍団の神秘的な出現
東京の片隅、時の流れが止まったかのような古びたアパートが佇んでいる。
赤錆びた鉄の階段、雨に濡れたコンクリートの壁、そして夕暮れ時の陰影が不思議な雰囲気を醸し出している。
ガタついた手すりを上り、狭く薄暗い廊下を進むと、一室から光が漏れている。
そこは、画家志望の青年・悠介の部屋だった。
悠介は25歳、夢見がちな瞳と情熱的な表情が印象的な青年だ。
黒髪が風に揺れ、絵の具で染まった白いシャツが彼の芸術家としての情熱を物語っている。
部屋の中央に置かれたイーゼル*のキャンバスに向かう彼の姿からは、創作に対する真摯な思いが伝わってくる。
(*イーゼルとは、絵画制作やデッサンの際に、描きやすい位置や高さにキャンバスを固定するための器具のこと)
しかし、今日の彼は制作に行き詰まっているようだ。
溜息をつきながら、パレットに絵の具を混ぜる。
キャンバスには、未完成の絵が描かれている。
赤、青、黄、緑。色とりどりの絵の具が混ざり合い、抽象的な模様を形作っている。
まるで、彼の心の中の混沌とした感情を表現しているかのようだ。
そのとき、部屋の片隅に不思議な影が差した。
悠介が振り向くと、そこには赤い光に包まれた小さな軍団が、妖艶な舞踏を繰り広げていた。
まるで、悠介の心の中に潜む情熱と恋心が、形を変えて現れたかのような神秘的な光景だった。
「君の恋心の具現だよ」
謎めいた声が悠介の脳裏に響く。
信じられない光景に目を疑いながらも、悠介は自分の心の奥底に眠る想いに気づき始める。
「これが、俺の心の中に潜んでいる恋心なのか...」
戸惑う悠介。
赤い軍団は、彼の恋心を映し出す鏡のようだった。
今まで気づかなかった自分の感情に、悠介は戸惑いを隠せない。
しかし、同時に、胸の奥に温かいものが広がっていくのを感じていた。
◇◇◇
赤い軍団に導かれるまま、悠介は隣室のドアをノックしていた。
木製のドアは年月を感じさせ、その向こうには彼が密かに想いを寄せる孤独な女性・美咲が暮らしている。
ドアが開くと、そこには美咲が佇んでいた。
美咲は24歳、内向的だが心優しい性格のフリーランスライター。
アパートの薄暗い廊下から差し込む月明かりに照らされた彼女の姿は、儚げで美しい。
長いブロンドの髪を優しく揺らし、サファイアブルーの瞳で悠介を見つめる。
白いレースのワンピース姿の彼女は、まるで妖精のようだった。
「悠介さん...?」
驚きの表情を浮かべる美咲。
そのとき、彼女の周りにも青い光に包まれた軍団が現れる。
青い軍団は、美咲の心の中に秘められた恋心を表しているのだろう。
「美咲さんの恋心も、形になったのか...」
悠介は囁くように呟いた。
赤と青の軍団が、二人の周りを舞うように飛び交う。
運命的な出会いに戸惑いながらも、美咲は悠介に一歩近づく。
廊下に二人の影が重なり、まるで一つになったかのよう。
「私たちの想いが、こんな形で導かれるなんて...」
美咲の瞳に、悠介への想いが揺らめいていた。
まるで、二人の恋心が色となって交錯しているかのようだった。
青い軍団は、美咲の恋心を優しく包み込むように、ゆらゆらと舞っている。
この出会いは、偶然ではなく必然。
そう感じずにはいられない、特別な瞬間だった。
赤と青の軍団が導いた、運命の出会い。
二人の心は、徐々に近づいていく。
◇◇◇
夕暮れ時、アパートの屋上に二人の姿があった。
そこからは、東京の街並みが一望でき、夕日が街を赤く染めていた。
高層ビルのガラス窓に反射した夕日の光が、キラキラと輝いている。
そんな中、空は赤と青のグラデーションに染まり、まるで二人の恋心を映し出すかのようだった。
悠介と美咲は、言葉を交わすことなく、ただ並んで佇んでいる。
微風が二人の髪をなびかせ、赤と青の軍団が二人の周りを優雅に舞い続ける。
軍団は、二人の心の動きに合わせるように、時に激しく、時に穏やかに舞う。
「美咲さん、僕は...」
悠介は言葉を探すが、どこか儚げな表情を浮かべる。
画家志望の彼は、自身の感情を言葉にするのが苦手だった。
だが、美咲への想いは日に日に強くなっていた。
まるで、赤い軍団が彼の恋心に火をつけているかのように。
赤い軍団は、悠介の心の炎を表しているのだろう。
「わかっています。私も、悠介さんに...」
美咲も同じように、言葉を紡ぐことができない。
彼女の内面に巣食う恋心と、表現することへの躊躇い。
そんな彼女の葛藤が、青い軍団の動きに表れているようだった。
青い軍団は、美咲の恋心を包み込むように、ゆっくりと舞っている。
互いの想いに気づきながらも、踏み出せない二人。
だが、赤と青の軍団は、もどかしげに二人を見つめ、そっと寄り添うように促す。
悠介と美咲は、恋心を確かめ合うように、指先を重ねる。
夕日に照らされた二人の影が、長く伸びていた。
屋上の手すりに寄りかかった二人の姿は、まるで絵画のようだった。
東京の街並みを背景に、二人の姿が浮かび上がる。
色とりどりの感情が交錯する中、新たな恋の物語が幕を開けようとしていた。
赤と青の軍団が、二人の恋心を優しく見守っている。
まるで、二人の恋心が、赤と青の色彩となって溶け合っていくかのように。
運命の歯車が、音もなく駆動を始めた瞬間だった。
これから始まる恋の行方に、赤と青の軍団も息を呑んでいるようだった。
(続く)
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