第4話 アブダクション
キャンプ船が大きく揺れ、赤いアラートが鳴り響く。間違いなく震度5以上の揺れで立っていられずその場に座り込むが、直後にキャンプ船が真っ暗になり不時着の姿勢に入る。……ゲームのイベントというか演出が実際に起こると凄く怖いな。
「ここどこだ」
「間違いなく惑星ドゥームズじゃないな。
……アブダクションかよ」
「発生確率0.1%のイベントとか考慮してなかったんだけど。
これ、サポートロイド居なかったらヤバかったかもな」
「ゲームの仕様が現実にも適用されているとは思えないから、サポートロイドの提案はナイスだった。……そしてこの状況でお前がいることにマジで感謝」
地面に降り立った自分達の目の前に広がる光景は、綺麗な和風建築の建造物が立ち並ぶ美しい街並みではなく、真っ黒に染め上げられた場所。駅みたいな建物も、ビルみたいな建物も、全部真っ黒だ。
……いやまあ一応輪郭とか分かるし、黒に近い灰色か。間違いなくシャドウに侵食された惑星の1つで、シャドウの拠点の1つなのだろう。
恐らく今起きたのは、アブダクションと呼ばれるゲーム中のイベントだ。クエストを受注し、いざ目標の惑星へ降下しようとしたタイミングでシャドウに拉致され、シャドウの拠点に招待されるイベント。基本的には5分耐えることで救援ポータルが届き、脱出する流れだ。
遭遇確率は通常時だと0.1%。アブダクションウィークとかいうありがたくない期間だけレアドロップ率+200%とセットで1%になる。あとは特定のクエストを連続でクリアし続けるとアブダクション確率が上がったかな。
敵の経験値が高く、ドロップ品の質も良好と旨味は全くないわけでもないのだが、基本的には高レベルな敵がわんさか出て来るからソロの時とかだと非常に辛い。カチ勢の自分的にはひたすら自キャラがフルボッコされるのを見守るイベントでした。雑魚しか出ないから死にようはないが、ユリクリウスはちょっと不味い。
「事象:アブダクションを確認。
……救援ポータル設置まで23分かかるようです」
「うわわ、これマジヤバくね?」
ユリクリウスのサポートロイドのサタンちゃんがマジヤバくね?と呟くが、実際ヤバイ。しかも耐久する時間が23分とか聞いてない。ゲームでは5分だったのに、何でそんなに時間かかるのってそりゃ現実だからだよ!
そしてシャドウと呼ばれる敵が出て来るけど、レベル126って何?こちらのレベル120なんだけど。敵のレベル上限って120までだったよね?いや敵の方がレベル高くても何とかなるのがこのゲームだけど、100レべ以降は1レべ毎のHP上昇幅が大きいから126レべはかなり硬いんじゃ?
この光景を見て、ユリクリウスはかなり顔色を悪くしている。火力特化型である以上、耐久は並み。火力特化型で耐久も並み程度あるのがユリクリウスの凄いところだが、ゲームの世界が現実となった今、ゲームの時のような動きが出来るとは思えない。
ユリクリウスを守るように立ち、サポートロイドのコッペパンにユリクリウスの援護をするよう言っておく。コッペパンのクラスはアーチャー/ナイトで敵に攻撃力弱体化の弓矢を打ち続ける、デバフを撒くだけの存在にしている。この状況で、一番の当たりとも言えるクラス構成だろう。
さて、ソードマンのメインスキルであるガードスタイルを起動。これにより、ガードスタイル本来の性能で被ダメ4割カット。武器と防具3カ所に仕込んでいる特殊能力で被ダメ4割カット。合わせると被ダメは36%にまで軽減できる上にHPが1000増える。これでHPは5150だし、即座にアイテムバッグからHPドリンクを摂取。HP2割増+被ダメ1割カットの効果のため、HPは6180だ。
ドーピングした次の瞬間、黒い人影のようなシャドウから黒い弾をぶつけられるがステータスを見ると6179/6180。基礎防御が高いから、雑魚敵からの攻撃は元からずっと1である。またカマキリみたいなシャドウも襲って来るが、鋭い鎌で斬られてもダメージ1って光景はなんか気味が悪い。実は最初の一撃を受けるまで、ビビり散らかしていたのは内緒である。
そして敵の攻撃の直後、HPが100回復する演出が入る。ナイトの自動回復スキルで、1秒毎にHPの1%が回復するが上限は50なので50しか回復しない。次に武器の特殊能力にあるスロット4のスキル、活力増幅の効果で同じようにHPの1%を回復、上限50回復するから、合計で1秒に100回復するということだ。
お、サタンちゃんから支援魔法が入った。これで攻撃と防御系のステは全て1割アップ。ついでナイトのスキルであるヘイト上昇スキルを起動。次の瞬間、取り囲んでいたシャドウたちのヘイトが全てこちらを向いた。よし、これで後は23分耐えるだけ。
「ゲッカエンド!」
ひたすらシャドウを引き連れてタコ殴りにされていたら、ユリクリウスが丁寧に一体ずつ敵を葬っていた。MPを30消費して使用する技、ゲッカエンドの弐式だなあれ。ゲッカエンドは零式、壱式、弐式、参式のどれかに技を強化することが出来るが、弐式は威力増強、チャージ時間増のやつだったはず。
ゲッカエンドそのもののモーションは刀による単純な突きなので、ゲームが現実となったこの世界では使い易い技だろう。雑魚敵を一匹ずつでも処理してくれるのは助かる。現状、20体以上の敵がフルボッコしてきているからな。
元からチャージ時間が長いので、誰かがモンスターをトレインしている状況かボスがダウンした状況でしか使えない技だが、威力は絶大だ。126レべでHPが盛られまくっているはずのシャドウが一撃で死んでいる。頭という弱点を狙っているし、急所狙いも発動しているから恐らく1000万以上のダメージが出ているだろう。
1レべの体力は200ぐらいしかない雑魚敵NPC。しかし100レべを超えるとHPは200万になるし、120レべだと400万。100レべから120レべまでの倍率と同じなら126レべは520万とかやってられない。
一方の自分も、剣を振り回す技を起動。その名もエンドクラッシュ。技の強化は効果範囲増大の壱式。格好いい名前だが性能は微妙。ただ、こういう1対多の時は使い易い。
何せ技の始動から終了まで操作キャラは右手以外一切動かず、右から左へ巨大化させた剣を振り、左から右へ巨大化させた剣を振り、最後に上から振り下ろすこの技は巻き込み範囲が非常に広い。なおダメージ量は微妙な模様。50万、50万、100万ってところか。MP消費50に対して明らかに割に合わない。
ちなみに主観的初心者死因第1位が「エンドクラッシュぶんぶん中タコ殴られ死だ」初心者は最初、ソードマンから始まるからな。ソードを持って、敵に囲まれた状況。打開するために大技を使用したら敵からの攻撃を一切躱せない状況に突入してタコ殴りにされる。そして初床ペロ。初心者ならわりと多くの人が通る道だ。
ついでに言うと、床ペロとはHPが0になって床に倒れ伏すことを指す。死んだプレイヤーは床に倒れ伏していることから床を舐める=死ぬというこのゲームのスラングのようなものだ。ゲームの世界ならすぐに格安の蘇生アイテムで復帰できるが、どうやらこの世界ではHP全損=死らしい。まあそうじゃなきゃまず主人公に該当する人物が死から復帰しているか。
そうこうしていると、10分が経過。時々ヘイト上昇スキルを使用し、赤く光ってるだけで何とかなるから大丈夫そうだなと思ったところで、メカの身体をした巨大なカブトムシが出現した。第1章のボス、量産型メカビートルだ。
本来は出ない敵なんだけど、まあシャドウの拠点だしいてもおかしくないよね。……いやこれ一パーティだと辛い敵だな。
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