第44話 獣人街の知恵袋
「長老、ソルドの坊やが訪ねてきたよ」
ドアの前に立つと、コクリは静かに扉を叩いた。
「おう、入れてやっとくれい」
すると、中からしわがれた老人の声が聞こえてくる。
ガチャリと扉を開けると、そこには亀の獣人の男性が座って待ち構えていた。
首元には大きな宝石がついたネックレスが光っている。
机の上にはお香のようなものが置かれており、そこから放たれている煙が室内を漂っていた。
「久しぶりだな、ギャラパゴスの爺さん」
部屋の中央にあるソファーに腰掛けると、ソルドは口を開いた。
「会ったのはつい最近じゃったと思うが」
「前にここに来たのは三年前だっての」
「はて、そうだったかのう」
長寿の獣人であるギャラパゴスにとっては、数年の時の流れは一瞬に過ぎないのだ。
「それにしても……また随分とめんこい子を連れとるのう」
「初めまして、ニャルミと申します」
「そうか、ニャルミちゃんか。可愛ええのう」
ギャラパゴスは穏やかに笑いながら、杖を使ってゆっくりと立ち上がる。
「おっと」
「危ない!」
ふらついた拍子に倒れそうになったところを、慌ててルミナが支える。
「ふむ、肉付きは悪くないのう。未来に期待じゃ」
その隙を見逃さずにギャラパゴスはルミナの尻を慣れた手付きで撫で回した。
「いやぁぁぁ!」
ルミナは顔を真っ赤にして、悲鳴をあげながらギャラパゴスを突き飛ばした。そして、突き飛ばされたギャラパゴスは瞬時に甲羅の中に手足を引っ込めてから床に倒れた。
それからギャラパゴスは甲羅からのそのそと顔を出して告げる。
「さて、要件を聞こうかのう」
「何事もなかったような顔すんな」
ソルドは呆れつつも、すぐに本題に入ることにした。
「今日あんたのとこにきたのは他でもない。エリーン遺跡で見つかった遺物と俺の身体について聞きたいことがあるんだ」
「ほう、それは興味深いのう」
ギャラパゴスは穏やかな口調でソルドを促した。それを受けて、ソルドはルミナに呼びかける。
「ニャルミ」
「はい」
頷くとルミナは腰のポーチの中からエリーン遺跡で発見した金色の球体を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
「これはエリーン遺跡の最奥部で鼠をバケモノに変えた遺物だ」
「バケモノとな」
「ああ、巨大化してる上に体毛が鉄のように固くなったり、動物の枠を明らかに逸脱していた」
遺跡でのことを思い出し、ソルドは顔をしかめる。
「それと俺が触れたら何故か身体が剣になった」
「なるほどのう」
ざっくりとした説明だけでギャラパゴスは納得したように頷く。
「これは蝕みの宝珠じゃ」
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