第34話 疫の酷巣
風の噂で知ったが、旦那が亡くなったらしい。
いや、正確には旦那ではない。
かつて愛した男という表現が正しいだろう。
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娘はまだ幼い。
だから私が守らなければならない。
たとえ、この身が朽ち果てようともこの子だけは守ってみせる。
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職を求めて獣人街にやってきたが、思ったよりもここは過ごしやすい場所だった。
むしろ、人間の街で虐げられながら暮らすよりよっぽどいいくらいだ。
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アルデバラン侯爵とレグルス大公がいなくなってからこの獣人の立場はより悪くなった。
おかげで獣人街の治安も酷くなる一方だ。
今はただ少しでもこの国がよくなること祈るしかない。
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エリダヌスという胡散臭い官僚は今日も視察といって獣人街とやってくる。
だが、奴は信用できない。
獣人相手に、血と腐った肉のような臭いを香水でごまかせると思っている愚かさで官僚がやれているのだから驚きだ。
こんな奴でも獣人にとっては数少ない味方である
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最近、ちょくちょくニャルミという猫の獣人の女の子が遊びに来るようになった。
天真爛漫な女の子で見ているだけも癒される。
娘とも友人になってくれてありがたい限りだ。
たとえ、その頭にある猫耳が偽物だとしても。
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最近、疫病が流行っているらしい。
獣人街では症状が出ている人を見かけないから人間にしか感染しないのだろうか。
まあ、自分達に被害がないのなら関係のない話だ。
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疫病の影響は帝国城の中でも出ているらしい。
どうやら高位の官僚が何名か亡くなったとのこと。
改めて思う人間は弱い生き物だ。
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病気が蔓延すると人の心も荒む。
今日は帝国騎士がやってきて「疫病は獣人が流行らせた」といちゃもんをつけてきた。
エリダヌスとかいう官僚も昔は獣人のためにと言って生活の支援をしてくれていたのに、最近では獣人を虐げる側に回ってしまった。
やっぱり人間は信用できない。
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風の噂で脱獄したレグルス大公が生きているという話を耳にした。
伝説の雄獅子の獣人たる彼は獣人の希望だ。
きっと、この状況だってなんとかしてくれるに違いない。
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人間の兵士が獣人外へと押し寄せてきた。
夜だからか松明の炎が遠めでもよく見える。
物騒なことにならなければいいけど。
――焼け焦げてこの先は読めない。
※ルミナの聖剣 時のグリモア――獣人街跡、焼け落ちた民家に存在する日記より抜粋
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