夢は絶対じゃないんだよ、嶋森
夜野十字
第一章 宇宙人が襲来してくる夢
第1話 クラスメイトは俺だけに未来を教えてくれる
「今日は抜き打ちで小テストをやるぞー」
「ええええええ!」
数学の宮田先生が教室に入るなり言い放った一言で、クラス中に、奇声もしくは悲鳴が響き渡る。寝ていた生徒も叩き起こされ、部屋に戻ってきた生徒も何事かと周りの人に尋ねては頭を抱えていた。
それもそのはず。宮田先生の小テストといえば、生徒内で鬼と恐れられているものの一つで、普段から情報が出回り共有されるほどの代物。
そんな爆弾が事前情報なく投下されようものなら、阿鼻叫喚の渦が巻き起こるのも当然のことだった。
「聞いてないですよ、先生!」
「そりゃあ、『抜き打ち』だからな」
「だったらテストの難易度が超初級編ということは……」
「ない。諦めて準備しろ」
抗議を試みたものは、あえなく撃沈していった。諦めの良い生徒は準備を済ませて天に祈り、諦めの悪い生徒は教科書をチラ見しながらやっぱり天に祈っている。
非情な光景が目の前に広がっていた。
しかし、そんな中でも周囲に反して、俺はすんとした態度を続けられていた。
これは、俺が予習、復習ともに完璧の超優等生であることを意味していない。俺が恐れおののいていない理由は、もっと単純だった。
ずばり、小テストの存在をあらかじめ知っていたからだ。
しかしこれも、俺が自前のコネで先生から小テストの存在を聞き出した、とかそういうことではない。俺が小テストの情報を知ることができたのは、この情報をおのずと知っていたとあるクラスメイトの密告によるものであった。
そのクラスメイトの密告がなければ、俺も今頃未知のテストに対して悲鳴を上げていたことだろう。
本当に頭が上がらない。
あとでお礼を言わないとなと一人余裕綽々で物思いにふけっていると、例の情報を横流ししてくれたクラスメイトが、俺の肩をちょいちょいと突付き、話しかけてきた。
「ほら、やっぱり私の言ったとおりでした」
「ああ助かったよ、
「じゃあ今度ジュースでも奢ってください」
「それなら何本でも」
俺がそう返すと、例のクラスメイト――嶋森は悪戯な笑みを浮かべ、くるりと踵を返して自席へと帰っていった。
「じゃあテスト始めるぞー」
先生の声が再度響き、俺は意識を前に向ける。
配られる小テストを見ながら、俺はしみじみと嶋森の凄さを実感していた。
◇
嶋森
でも、だからといって嶋森は物を浮かすことはできないし、運動神経もいたって普通で、相手の考えていることがわかるといったこともない。
彼女の持つ能力を一言で言ってしまえば――未来予知。
嶋森は時々、近い将来起こりえそうな出来事を夢に見る。それは翌日の天気かもしれないし、今回のように小テストの存在かもしれない。
そしてその夢は高確率で現実となる。いわゆる、予知夢というやつだ。
もちろん、夢が外れることもあるけれど。それでも素晴らしい能力であることに変わりはない。
こんな能力を一介の女子高校生が持っているなんて、にわかには信じられない。
だけど俺にとっては、それよりも信じられないことがあった。
それは――
嶋森さんが頻繁に、その能力で俺のことを助けてくれるということだ。
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