KAC20247 異世界生活も世知辛い

久遠 れんり

第1話 ドアを開ければ、異世界だった。

「それでは、よろしくお願いいたします」

 そう言って、お得意さんの会社から、外へ出た。

 伝票を確認して、鞄に収める……


 そこで気が付く。

 なぜ俺は、獣道を歩いているのかが、理解ができない。


 周りにあった町並みは消え、細い道が続いている。

「太陽はあっちで、傾斜が正面は下り」

 振り返り、上り勾配の上を見る。


 そこから見えるのは、冠雪を纏う山。

「うん。登るのは論外だな」


 鞄の奥底に、持っていたたばこの箱から、一本出す。

 やめたときに、お守りとして持っていた。

 いや、いつでも吸えるようにじゃなく、意思を貫くおまじない。


「だけど、今は良いだろう」

 山道の真ん中で、うんこ座りをして、考える。


 山の雪。そして針葉樹。

 寒い地方かもしれない。


 周りを見回し、どうしてこうなったかを考える。

 腕時計の針は、正常だとすると時間的なラグ無しだし、カレンダーも今日。

 スマホを取りだし、確認をするが、キャリアはない。アンテナも当然立っていない。


「突然。そうか、ドアを開けたら突然始まる異世界生活? まさかな…… えっ。まさかなぁ」

 自問自答だが、当然結論などでない。


 ペットボトルを出し、お茶を一口。


「とりあえず、降りよう。ここに居たって、何ともならない」

 伝票が、手元にあるから、発注が滞る。

 そんなことを考えながら、歩き始める。


 天気は良い。

 だが、あの謎の鳥は何だろう。


 シンドバットの冒険に、出てきそうな大きさ。

 それが数羽飛んでいる。


「タイムスリップ?」

 そんな事も考える。


 奴らに会うまでは。


 そう数時間、おおよそ三時間ほど歩くと、谷が右下に見えてきて、崖沿いに道が続く。

 道があるなら、誰かが通っているという事。

 獣道は、すぐに消えるからな。


 そうして、すぐに村へと到着をするが、人の気配がない。

 古い掘っ立て小屋のような家が、いくつか建っている。


 集落の向こうには、畑があるが、荒れている。

 野菜とか、穀物より雑草の方が多い。


 家には、鍵などもなく、戸を開けると椅子があったので座り込む。

 喉の渇きと、空腹感。

 もう、一本たばこを出す。

 煙で、空腹を紛らす。

 営業の先輩に習った話。


 もう四〇前の体が、軋む。


 外で、なにか音と声が聞こえるが、あれが言語なら、俺はしゃべれない。


 戸の隙間から見る。


 背の低さは子供、一メートル二〇くらい?

 ただ、全身色がおかしい。

 そして、その奥に一廻り大きな奴。一六〇センチくらいだろうか?

 むろん、色は緑。

 染めているのかもしれないが、いやな予感しかしない。


「さあ、本格的にファンタジーだ。どうする俺?」

 ぼやきながら、武器を探す。

 クワでも棒きれでも何でもいい。


 するとだ、大昔の資料で見たことのあるすきを見つけた。

 金属無しの完全に木製。

「まあ、先が重いし、多少何とかなるか」


 そう思っていると、馬車が入ってくる。

 そしてわらわらと、人が降り、全員で五人くらい。

 こっちが人間なら、さっきの緑は原住民じゃないようだ。


 男が、一六〇センチくらいで、女の人は一五〇あるかないか。

 いや女だよな。鎧着てるけど胸ありそうだし。


 彼らは躊躇無く、緑の小人を切り捨てる。

 うわグロ。


 なんだか、力任せに剣を振りまわしている。

 力業でたたき切る感じだろうか。


 そしてごつい奴に向かって、火の玉が飛んで行く。

 うわ魔法かあれ?


 思っただけのつもりだったが、声に出たようだ。

「だれだ?」

 問われて、素直に出ていく。

 彼らが盗賊だったら、どうするつもりだったんだろうなあ?

 まあ、彼らも紙一重だったけど。


「怪しいものじゃない」

 そんな事を言いながら、左手には鞄。右手には鋤。


 だが、俺の格好なのか、身長なのか、彼らの動きが止まる。

 俺は一七五センチある。

 彼らからすると巨人だ。


「危ない」

 つい叫ぶ。

 彼らの動きが戻る。

 でかい奴が、棍棒を振り回す。

「気を付けろ。ホブゴブリンは、力がが強いぞ」

 兄ちゃんの一人が叫ぶ。


 なんで、剣で突かないんだろう。

 そんなことを考えながら、助太刀をする。


 周りで倒れている、ゴブリンをふまないように、勢いを付け、脳天を割るつもりで殴る。


 すると、長さと遠心力。そして重量。

 見事に、頭にめり込む。


 意外と気持ちが悪い。

 ゲームのつもりでやったが、リアルだと実感をする。


 意外と、命を奪った禁忌感はなかった。


「おお、すげえ」

 褒めて貰った。


 だけどこいつら、風呂に入っていない感じの匂いがする。

 なんて、その時は思ったが、すぐなれた。

 風呂無いんだもの。


「あんた強いな。傭兵か?」

「いや。よくわからん。気が付いたら山の中に居た」

 結局こいつらは、ギルドの冒険者だった。

 ゴブリン達が出て、村人は避難して、依頼が来たようだ。


 馬車で、六時間も走れば、町があるらしく、そこから来たと言う事だ。

 その晩は色々とあった。

 そしてそれで、異世界の恐ろしさを知ることになる。


 彼らは、俺の体つきと、力で多少警戒し、寝るまで待ったようだ。

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