早期退職した最強おっさん兵士がFランク冒険者としてセカンドライフを始める物語

TKあかちゃん

第1話 

「アーノルドさん!辞めるってどういう事ですか?」

 兵士たちの訓練場に可愛い声が可愛い響く。

 一人の少女が初老の男性に食い入るように問い詰めた。

 

「辞めるも何ももう俺も45だぞ。そろそろ体力が落ちた。上の方がそろそろ『どうか』ってな」

 筋肉質の男、アーノルドは持っていたダンベルを片付けると汗を拭う。

「こいつを持ち上げるのも昔はもっと沢山できたが今では半分だ。現場に出ても昔ほど戦えないのがわかるんだ。平和になった今、俺はみたいな金食い虫の老人はお払い箱の方がいい」

「それでもアーノルドさんほどの経験を積んだ人はいません!教えてもらいたい事はまだまだあります!教官として残る選択肢もあったはず!」

「サーシャ、それはまだ君が若いからだ。今の上官のシュバルの方が絶対に教え方が上手い。経験だったらライアンもそれなりに積んでいる。

それに俺の戦い方は力任せにやってきただけだ。マネするようなものじゃない」

「それでも……」

「まあ、最後に模擬戦をいくらでもやってやる。それに戦死での別れじゃないんだ。いつでも会える。たまの休みにでも遊びに来てくれ」

 アーノルドは立てかけてあった木剣を持ち構えた。

「はい!アーノルドさん!」

 少女も木剣を手に取り、構え、訓練場に剣を打ち合う音が鳴り響いた。



 「おい、なんだよあの剣技!早くて見えねえ……」

 2人の模擬戦を見ている新人が近くの仲間に呟いた。

「剛剣の戦鬼の異名をもったアーノルド・ケインさんを知らねえのかお前。10年前の大戦の功労者だぞ」

「あの戦いの……親から聞いた事があるっす。酷い戦争だったと……」

「ああ、しかも勲章を貰っているほどの人だ。あの人はたった一人で1000人いる敵部隊に立ち向かい、敵の最強と呼ばれた戦士長を打ち取ってきた事もある。

10年前ならこのヴィクトリア王国の最強の兵士だ」

「すげえ……でもあの戦いっぷりを見たら納得できるっす……俺なら1分持ちませんよ……」

「もう退職されるがな」

「マジっすか?今でもあれほど凄いのに……」

「給金が違うんだよ……」

「?」

「大戦時、あまりにも酷い戦力差で逃亡した兵士が何人かいたんだよ。それを引き留めるため国はかなりの金を出した。妻子の年金だとか終戦後の給金だとかな」

「なら長く務めた方がいいじゃないっすか。今は平和なんですし」

「平和だからだよ。戦後復興で金がかかったのにバカ高い給金を払っているアーノルドさんは金食い虫のお荷物。あれから10年たって偉い人たちも代替わりした。考え方が変わったんだよ。

あの人いい人だから辞めて欲しいって言うのをそのまま受け取ったんだと思うよ」

「その話、新人の俺は聞きたくなかったっす……」

「安心しろ、俺たち兵士は退職しても年金が国から多少の金が出る。暮らすぐらいには問題ないさ」



  

 

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