お嬢様、今日から廃校住みますわ!
猫成望
一話 家なき次期当主〜ポーカーフェイスを連れて〜
日本のとある地方の地味な田舎町に男女の二人組が歩いていた。地味な田舎に似合わない派手でお洒落な格好の少女と見るからに筋肉で出来た執事っぽい男だ。
少女の名は風川紬と言うらしい。少女は浮かない顔をして何か考え込んでいるようだ。「紬、お前ももうすぐこの風川家の当主だ。」
朝、父と交わした会話を思い出していた。
「私はお前にこの家を継いでもらいたいと考えている。だが、今のお前はまだ世界を知らなすぎる。このままでは弟の貴幸に当主をしてもらうことになる。これは現当主としては避けたいことだ。」
父、秀英は諦めたような遠い目をして言う。
「あいつは、あいつはなぁ、世界しか知らないんだ。」
紬は何故か納得してしまった。さらに秀英は続けて先程よりも少し強めに言った。
「今はアフリカにいるらしい。前はブラジルでそのまた前はパプアニューギニア、そのまたまた前は、…とにかく、あいつが色んな国に行っていることはお前も知っているよな?」
紬が腑抜けた声で発した。
「はぁ、まぁ一応?」
紬は棚に飾ってある定期的に送られてくるお土産たちを見た。
「世界に関してはあいつの方が良く知っている。この家のことはこれから教えていけばいい。」
紬は、焦った顔をした。
「お父様、それって」
その言葉を遮るように秀英は発した。
「安心しろ。今すぐじゃない。貴幸がこの家の事を学び当主に成れる道があるように、お前にも、紬にも世界を学び当主になれる道がある。それに、私は知っているよ。紬が小さい頃から当主に成れるように努力していたことを。もう家の事は知り尽くした。後は世の中を知るだけだ。そのために私が許すまでこの家以外の場所に自分で住みなさい。勿論、最初の補助はするさ。執事の倉田にもついてもらう。」
補助があると言うことで安心していた紬だが、倉田が出てきた瞬間に顔が引きつった。なんてたって彼はポーカーフェイス過ぎるのだ。ただのポーカーフェイスじゃない。不敵な笑みが時折混ざるポーカーフェイスなのだ。糸目の不敵な笑みがどれほど怖いものか…。その獲物を狩る動物のような瞳が紬には怖かった。せめて執事を代えてもらいたかったが、変更はいかないらしい。なんでも倉田と仲良くなるのも世界を知るためだとか…。意味が分からない。悶々とする紬を前に父は驚く事を言った。
「今日の午後2時までに荷物をまとめて出ていきなさい。必要なお金は封筒に入れて倉田に渡してある。」
え、え?2時?今日の?えぇ〜?嘘よね?
本当らしい。紬は信じられなかった。
部屋に戻ると倉田が待機しており封筒を持っていた。それを受け取り必要最低限の荷物をまとめる。
まずは住む場所ですわね。後から考えるとことにしましょう…。そう考えながら昼食を食べ、シェフに夕食のサンドイッチを作ってもらい家を出た。
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そして今にいたる。紬はこれからどうしようか分からず深刻そうな顔をしていた。横を見ると倉田も青白い顔をしていた。紬は慌てて呼びかけた。
「大丈夫ですの!?倉田!?」
倉田は言った。
「きんっ張してしまって、っあ、呼吸のぉ、っすぅ、仕方を忘れましたぁ。今、喋るのもっやっとで…す。」
倉田も緊張とかするんだ…とかなんで!?などと思いながらかなり最初からこれはかなりまずい状況なので紬は呼吸の仕方を教えた。こんな当たり前のことを教えたことはないのだが、しょうがないのだ。呼吸の仕方を忘れるなんて分からないのだから。
「鼻から吸って〜」
「っす〜」
「同じように吐いて〜」
「っはぁ〜」
端からみると異様な光景である。散歩中のおばあさんも口を開けて二度見するレベルである。
呼吸の仕方指導も終わる頃には紬の緊張もほぐれていた。倉田にも感情があると分かったからである。いや、前から分かってはいた。…いたのだが、実感がなかった。…なんか倉田が今度は赤くなって見てくるが(今日だけで色んな倉田を見れた)ひとまず倉田問題はどうにかなりそうだ。あとは家か〜と歩いていると古い建物、学校らしきものが出てきた。考えるよりも先に言葉が出てきた。
「ここ、住めるかしら?」
倉田が手配してくれた。朝ランニングで通る辺りらしく、知り合いもいるらしい。そのために、なんか重要な人とかも仲が良くすんなり通ってしまった。つい最近過疎から廃校になったので、設備はぎり大丈夫らしい。住む場所は(なかなかのボロさだが)確保出来た。外はあれだが中は…もしかしたら〜?なんて思いながら入ることにした。…倉田にお姫様抱っこされながら。汚れるし色々持ってるからということでお姫様抱っこになった。何故?そう考えながら足を踏み入れた。
お嬢様、今日から廃校住みますわ! 猫成望 @nekonari-nozomu
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